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チームわが家1.0:ネガティブモードを生み出していた理論的枠組みとは

「ひと・こと・もの」に頼りながらの両立&子育てを提案しているチームわが家。みなさんから聞こえてきた「難しさ」を深掘りながら半年ほどかけて行った問い直しの旅を振り返っています。

さて、前回のnoteに書いたように、人々がチームわが家に感じる「重荷感」や、夫婦の対話に感じる「難しさ」の正体は、どうやらチームわが家のベースになっている理論的枠組みからきているのではないか?という新たな問いに辿りつきました。

これまでのチームわが家を「チームわが家1.0」とします。チームわが家1.0は「家族の資源/勢力理論」「性別役割分業意識(概念)」「役割理論」(ケア役割の固定化)等の考えがベースになっています。それぞれを以下に簡単に説明します。
それぞれの理論や概念のさらに詳しい解説はこちら↓をご参照ください。

家族の資源格差(相対的資源差/勢力理論)
ここでいう「資源」とは夫、または妻がそれぞれの学歴、収入、社会的地位、専門性、所有している情報量等を指します。夫婦がそれぞれ保有する資源の差から夫婦間に勢力格差(決定権や優先権の格差)が生じ、それが家庭内の家事育児分担の割合や、働き方の調整、子どもの教育の決定等様々な場面で影響し、家庭内のジェンダー平等・不平等を形作っています。また、夫婦それぞれに「権力の領域」があり、その分野において専門性が高い方がその領域で権力をもち、勢力がぶつかると葛藤が生じやすいとされています。

石井クンツ, 2013; Blood & Wolfe, 1960; Scanzoni & Scanzoni, 1988

性別役割分業意識(概念)
「男は仕事」「女は家庭」のように性別に紐づけられている役割意識を指します。その意識が夫婦間の役割分担やそれに対する考えや態度に影響しています。生育環境や職場環境やそこで出会う人との関わり、社会全体の意識等様々な影響を受けながら創られます。また、平等主義的な性別役割分業意識はもともと持ち合わせているものではなく、ケアを実際にを行う過程で徐々に構築されると考えられています。

石井クンツ, 2004; 柏木, 2011; 庭野, 2007

役割理論
人は周囲の人との関わりを通じて、期待されている役割を自分なりに解釈したり、継続的に修正したりしながら、自分の中に複数の役割を形成したり再形成したりするいくという考えられています。新しい役割は役割を受けただけで自動的に形成されず、役割を果たしながら徐々に形成されていきます。また複数の役割は他者との関わりによって優先順位づけされていると考えられています。また、その役割の優先度を上げることができない場合は、役割から「距離」をとる、つまり敢えてその役割を果たさないことで、その役割の優先度を下げることがあります。

Mead, 1934=2002; Stryker & Burke 2000; Turner, 1990

お察しの通り、これらの理論は、「職場の環境」「生まれ育った状況」「社会情勢」「日本の社会の仕組み」など個人が短期間でどうこうできることではありません。外的要因の影響を大きく受けてします。

そこに夫婦で対話をしてわが家流のチームを創ろう!と言われたところで、自分でコントロールできないことと戦う覚悟と労力が必要です。チームを創る、家族と不毛な対話を繰り返すという新たなタスクが増えるだけです。八方塞がり感、操縦不能感、一人芝居感を増幅させ、分かり合いたいのに分かり合えない辛みを醸造されてしまうわけです。

余談ですが、これらの理論的枠組みは夫婦の家事育児に関する研究において「王道」「鉄板」の理論です。チームわが家というコンセプトを創るときにこれらの理論を土台とすることはいわば「当たり前」で、まさか、これがチームわが家の辛みを生み出しているとは夢にも思っていませんでした。

そこで、意を決して土台となっているこれらの理論を一旦手放し、別の理論でチームわが家を捉え直してみることにしました。

イラスト画像:さのはるか @USANET

参考文献:
Blood, R. O., & Wolfe, D. M., 1960, Husbands & wives: The dynamics of married living. New York: Free Press.
石井クンツ昌子, 2004,「共働き家庭における父親の育児参加」渡辺英樹・稲葉昭英・嶋崎直子編『現代家族の構造と変容−全国家族調査(NFRJ98)による計量分析』東京大学出版会, 201-214.
石井クンツ昌子, 2013, 『育メン現象の社会学』 ミネルヴァ書房.
柏木惠子, 2011, 『父親になる、父親をする: 家族心理学の視点から』 岩波書店.
Mead, G. H., 1934, Mind, self and society, University of Chicago Press. (=2002, 河村望訳『精神・自我・社会』 人間の科学新社.)
庭野晃子, 2007,「父親が子どもの「世話役割」へ移行する過程−役割と意識の関係から」日本家族社会学会編『家族社会学研究』 18(2): 103-114.
Scanzoni, Letha D. & Scanzoni, John H. 1988, Men, Women, and Change:A sociology of Marriage and Family (3rd,ed.),New York:McGraw-Hill.
Stryker, Sheldon, and Peter J. Burke, 2000, "The past, present, and future of an identity theory," Social psychology quarterly, 284-297.