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2022年5月セッションレポート/ ゲスト保井俊之先生

5/18のTeam WAA!セッションは、"としちゃん"こと保井俊之(やすいとしゆき)先生をスピーカーにお迎えして開催しました。としちゃんにはウェルビーイングデザイン研究会を通じてお世話になっていますが、ご一緒させていただくたびに「こんなすごい方がいたんだ!」と感じていたので、ぜひTeam WAA!の方にもとしちゃんのことを知っていただきたい想いでスピーカーに推薦し、セッションの企画・運営をいたしました。

セッションのキーワードに「北風と太陽」を入れた理由は、としちゃんが年明けに、「私は北風のような人間だったが、これからは太陽になりたい」とおっしゃっていたことが心に残っていたからです。太陽のように周りを照らしているとしちゃんのことしか知らなかったので、どうして北風から太陽に変わろうと思ったのかについても話してほしいとお願いしていました。

としちゃんの講演
としちゃんと島田由香さんのクロストーク
質疑応答

という形で進行しました。

講演部分を中心にレポートします。

子どものころは、いじめられっ子だったというとしちゃん。自分を変えたのは中高の吹奏楽部だったそうです。トロンボーンを担当。自分のパートを完璧にこなすだけでなく、みんなでハーモニーを奏でることで素晴らしい音楽になる。ピッチが合うとコヒーレンスが起こる。個も力を出し、全体が調和することがこんなにすごいことなのかと感じたとのこと。そうした経験から、「個」を極めるだけでなく、全体のつながりをみる学問がしたいと、国際関係論を学ぶことを選ばれました。

大学時代は国際政治学の佐藤誠三郎先生と日本経済史の中村隆英先生のゼミに参加。1週間で15冊のリーディングアサイントメントがあり、とてもハードながら、研究者は楽しいと感じていたとしちゃん。当時、日本育英会の奨学金は国家公務員になったらすべて返済免除になるという噂(実際は国家公務員になっても一般職では免除にならなかった)があったこともあり、国家公務員の試験を受けて、就活をすることに。

日本中の問題が集まるパンドラの箱を解いてみないかと言われて、国家公務員になりました。

財務省に来る時点で、複雑にこんがらがった問題になっていて、日本でもグローバルでも大変な問題に取り組むことに。やりがいを持って仕事をしていました。

国家公務員になって10数年経った頃、組織に同化して、自分が話していても「財務省としましては」と肩書きを背負って話しているだけで、クリエイティブではないことに気がつきました。

同じ境遇同じ発想の人たちだけと一緒に仕事していてはいけないじゃないか。そんな時、少年サッカーのコーチをはじめたとしちゃん。多様な人と出会って助け合う。それが幸せにつながるということを感じたそうです。

その後アメリカに赴任。出張に行ったニューヨークのワールドトレードセンターの5階で、911の同時多発テロに遭遇。避難して、現地に戻らなかったこともあり、無事だったものの、そこで多くの方が命を閉じた。自分の人生は一回終わったと思った。出世のためのに生きてきた官僚としての人生はここで終わった。生き残った自分のこの後の人生はギフトとしていただいた人生。みんなが幸せになる研究と実践をしたいと心から思ったそうです。

どうしてこのような惨事が起こったのかを調べました。その頃、システム思考とデザイン思考に出会いました。としちゃんのやりたい寛容と公正と幸福のループを回せる学問がシステム思考。前向きに社会を変えていく学問がデザイン思考。それらをのめり込むように勉強されました。一所懸命勉強していたら慶應のSDMから声がかかり、13年間官僚と教授を兼職。

肩書きを背負っていると、解ける問題も解けないと痛感したとしちゃんは肩書きや立場を外して個人として自由に対話をすることを13年間実践しました。仕事でもグローバルで活躍されていたとしちゃんは日本だけでなく、海外の方とも多くふれあい、多様な人との対話の必要性を感じました。対話と幸せはつながっていると気づいたのです。

2001年以降、「世の中を前向きに変える」(社会イノベーション)に真正面から向き合うことで、としちゃんの人生は劇的に変化していきました。その過程で、としちゃんは2回の挫折を経験されました。まずは金融庁で保険金不払い・支払い漏れ問題についての保険会社への対処が思ったようには受け入れられず、「社会正義」では世の中は変わらないのか?と感じたそうです。

また慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)から声がかかり、システム×デザイン思考で世界を変えようと意欲的に教えてみました。しかし修了生が職場に戻っても、自分の期待ほどには社会変革の波は起こらなかった。職場も社会もあまり変わらない。教壇からの説教では人は変わらないのだと気づいたそうです。

としちゃんは2015年、中村一浩さんらが行なっている小布施での対話会(OIC第0期)の立ち上げに関与し参加。輪を囲んだ対話をすると、「変わりたい」と自分ごとになる。イノベーション理論で「諭す」前に、対話で相手の心を開き、「やりたい」という心の変容に火をつけることが大切だということにたどりつきました。

「北風」ではなく、「太陽」のような人が人の心を温かく溶かし、変えていく。対話と共創、自分ごととして、社会を前向きに変え、ウェルビーイングに行く道が拓けているのではないか。

2010年から5年、のべ4千人ほどと社会を前向きに変えるためのワークショップを行いました。会社横断的・地域でイノベーションの方法論を共有していきました。 つながることでウェルビーイングを実現していく。種火をともに安心して燃やせる場を創る。「しあわせの石のスープ」の寓話のように心の火を灯し、ムーブメントを協働するチームになる。

対話とは意見を見つめること。しあわせになるためには変わっていかなくてはいけない。変わるのは怖いので、一人ではなかなか変われない。みんなで輪になって手をつないで飛び込めば、心の淵にも飛び込めて、ウェルビーイングに近づけるのではないか。対話で心のモヤモヤが未来に繋がっていく。

今は社会を前向きに変える人財(チェンジメーカー)を育てる「22世紀型大学」である広島県立 叡啓大学 ソーシャルシステムデザイン学部 学部長・教授として、走り続けているとしちゃん。叡啓大学ではすべての学生にコーチをつけるなど、これまでにない取り組みを多く取り入れているそうです。

としちゃんがこれまでもこれからも注力するのは、「自利利他円満」からウェルビーイングを研究実践するということ。自分のウェルビーイングとひとさまのウェルビーイングは「対話」と「恩送り」で循環する。

「としちゃんはどうしてそんなに幸せそうな顔をしているんですか」と言われることが幸せ。自分が幸せでかつ人を幸せにできるポテンシャルがあるからそう言ってもらえているからだそうです。



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【あとがき:セッションの企画者として】
としちゃんのお人柄がそのまま反映されたセッションだったように思います。心がほんわかとあたたまって、この場にいることでウェルビーイングが高まっていったと感じています。北風と太陽という言葉に響いてくださった方、心温まるセッションだったと感想をくださった方。としちゃんのお話が聞けて本当によかったという感想もいただきました。

としちゃんのすばらしさをひとりでも多くの人に知ってほしいと企画しましたが、としちゃんの想いや人生の転機となるエピソードも伺い、改めてとしちゃんの偉大さを知ることとなりました。

(文:宮崎恵美子)

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