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記憶の断片

 『父は生涯2人の女性を愛しました…。』
このストーリーの主人公 沢木一也(さわき かずや)は重い口を開いた……2人目の女性に対する愛情は父 本人から直接聞く事が出来た。再婚により一也にとっては継母になるのだけれど、馬が合わないとは正に此の事!後に彼女は父との同居を提案する一也の気持ちを一蹴する…その時の父の言葉がコレ⇒『どうしても母さんが無理だって…父さんは母さんに惚れてるから同仕様もないんだよ…!』。ってよくも恥ずかしげもなく息子の前で堂々と言ったものだ!と、一也はある意味父の雄として本心をさらけ出す覚悟と血を分けた子より雌との愛を選択した雄としての性に妙な納得と   ある意味継母には永遠(とわ)に交わる事の無い互いの強い意志を再確認したのだ。
  一也には年の離れた照明(てるあき)と云う兄がいたが一也の記憶にはこの先不慮の事故で世を去る兄との記憶は少なく、生母との記憶も幼かったこともあり少ない。元は父母兄との4人家族だったが  どのボタンを掛け違えたのか彼の波乱万丈な人生を今この時、誰が予想しただろうか、、幼少期には両親の離婚調停を経験し、孤独なやり切れない気持ちは、愛に飢えた小さな心に小さいなりの大人達への忖度を覚え、その後の人生に影響を与えるのでした。

  生母との記憶はひとつだけ…離婚調停中の別居していた時期に誰(後に判明する)かに連れられて母方の経営する中華食堂店に預けられていた!と云う事、そこで母が働いていたと云う事です。『幼少期の生母との記憶なんてそんなもんさ!』と一也は吐き捨てるように語り出すが、その表情(かお)は無表情そのものであった。
 離婚が成立し、父と兄との野郎3人生活が始まりました。詳細は記憶の底に沈んでしまい思い出せないけど、夏に祖母と父方の故郷にて瓶入りの冷えたガラナは刺激が強く、ところてんは酢醤油にほんの少しの洋からしがコレまた刺激が強く、はしゃぎ過ぎた時には叱られ、落ち込んでは何処にいるのか存在感を消し相手の興味を惹く…頃合いを見計らってはまたはしゃぐ、、、騒ぐと言った方が正しいのかまた祖母に津軽弁で叱られるwww。そんな想い出しか記憶に残らないのは成人したからだと思うけど…後日、祖母との写真が出て来て一緒に動物園で撮ったり 卒園式 入学式でも一緒に撮った写真があった……そうあの日あの時幼き私の手を繋ぐあの冬の坂道を登る謎の人物は祖母に間違いない!と一也は確信したのです。しかし、父方の祖父や祖母の顔など今写真を見せられても誰か判らない程、彼は一族の血が薄いようだ…祖父が他界した時にはまだ生母は居たようだが…小雪舞う寒い季節に 本家のある斎場の火葬場で私を抱き締め暖めてくれた人……。一也は記憶を絞り出しながら途切れ途切れに言葉を並べるのである、まるでジグソーパズルを組み合わせるかの様に坦々と……。
  兄とは歳が離れてるせいもあって、一緒に遊んでいても30分もすると付いて行けなくなり結局独りになってしまうので記憶が薄いのである。まだ豚肉が鯨肉より高い時代、、当家の定番メニューは父が作る醤油ベースにとろみの効いた鯨汁でした。色んな意味で今はもう食べる事の出来ぬ当時の味は25年後の父の他界と共に封印され、未知の味となり一也には幻の1品となるのです。そんな野郎3人家族に転機が訪れるのは丁度この頃、商業捕鯨禁止の世界的な流れが原因なのか、、父の運気が上昇したのか、、それとも、、、?
女気のない我家に何やら化粧の匂いと温かい食事、一家団欒のひと時の増加……忘れ掛けていた温もりや感じた事のない抑揚感に胸を膨らます、一也 8歳となる秋の頃の出来事でした。

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