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暗闇の中に#2

みすずが声をかけた子猫は三毛猫で、心配していることが伝わっていないようだ。小刻みに震えながら、狭い暗闇の中に無理やり後退りしていく。親猫が見当たらないし、兄弟も見当たらない。親

猫に忘れられたのかな。

そう思ってみすずは必死に手を伸ばす。冷たい階段と建物の隙間では寒くて夜が越せないかもしれない。子猫も見知らぬ誰かの手は怖いので必死に抵抗する。みすずは自分の手に痛みを覚え、手を抜くと埃がいっぱいについた黒くなったトレーナーの先の掌に血が滲んでいる。噛まれたのだ。

どうしたらいいんだろう…

みすずは親猫が迎えにくる事にかけてそのまま帰るか、なんとか出してあげるか考えた。どちらが正解かなんてわからなかった。

「ここではお母さんも見つけられないよ?」

そう話しかけて、おもむろにトレーナーを脱ぐ。中には肌着のタンクトップを着ていたのでみすずだけ真夏からきたようだった。トレーナーの袖だけに自分の手を通し、噛まれないように手は隠したまま暗闇に手を伸ばす。抵抗しているようで出てこない。

「大丈夫だよ。心配ないよ。ここから出してあげるから」

寒さを堪えて必死に自分が思う精一杯の優しい声でささやく。子猫は答えるように体の力を抜いた。

今だ!

さっと、暗闇から子猫をだす。子猫は無防備なみすずの体に鋭い爪を立てながら体を上る。みすずは今声をあげれば驚いてしまうと思ったが声が出る。

「いっっ…」

子猫はお構いなしに肩までくると止まった。振り落とされない様にしがみつくかのごとく爪を立て続ける。みすずは片方の手で子猫の背中を押さえながら、トレーナーを腕から外し子猫を包む。

これからどうしよう…

ノープランだったので、途方に暮れる。

猫を連れ帰ったらきっと怒られる。でも、お腹も空いているだろうしこのままではだめだ。自転車を置いて、とにかく歩いてこのまま家のほうに行こう。

子猫はトレーナーに包まれて、動かない。爪も痛くない様に絡めたのでみすずは寒さだけ我慢したまま帰り道を歩く。いつもは周りの目が気になるのに今は腕の中にいる子猫に精一杯で道ゆく人の目も気にならない。

家の近くにある公園に差し掛かると、目の前のゴミ収集場に発泡スチロールの箱がある事に気づいた。箱を覗き込むと使用感はあるがそこまで汚くはない。

「すぐに帰ってくるからこの中にいて」

みすずは子猫に声をかけたり子猫は鳴かずに箱に入る。息ができなくなるとかわいそうなので少し隙間を開けたまま上に少し大きめの石を乗せた。公園の隅の茂みに箱を隠すと汚れたトレーナーを着てみすずは走り出す。暗くなって街灯のついた道は頭の中に色々な恐怖が浮かぶ。その恐怖が足に力を与えているかの様に走る。息を切らせて小さなアパートの前に着いた。階段を駆け上り、ドアを開けた。

今日はここまで

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