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燕三条 工場の祭典2022 現地レポート(後編)

前回レポートでは、今年の10月に訪れた燕三条の工場の祭典について、工場の祭典の変遷とともに、一部の訪問先を紹介させていただきました。
※前編のレポートはコチラ↓↓↓

ただ、前回レポートだけでは紹介しきれないKOUBAもありましたので、この後編で残りの訪問先をできる限り紹介できればと思います。

工場の祭典2022に行ってきた!(後編)

④梅心子

梅心子さんは、1750年頃創業。江戸時代から小刀を製造し、その技術を活かし昭和50年代後半から彫刻刀を手掛ける工房です。

重厚な歴史を感じさせる表札
一応やってるっぽいけど。。誰もいない。。
むっちゃ入りづらい雰囲気ですw

門構えは、かろうじて工場の祭典のポスターが貼っているだけで、他のKOUBAとは異なり、受付などは全くありませんでした。
とても一般開放している雰囲気じゃなく、建物の中に入るのにかなり勇気が要りましたw。

工場の中は、かなり雑然とした雰囲気です

勇気を振り絞って引き戸を開け、「ごめんくださーい」と言っても誰も応答なし。研磨機の音がするのでそちらに行くと、工場の祭典のピンクストライブのシャツを着た職人さんが、こちらには目もくれず、黙々と小刀の研磨をされていました。こちらからお声がけするのは遠慮し、こっそり動画を撮らせていただきました。

そして、最初は研磨機の音にかき消されてたので気づかなかったのですが、工場の反対側で「カンカンカン」と金槌を叩く音が聞こえてきました。
よく見ると、暗がりの中で、白熱灯をつけて黙々と作業をするご老人が。。
入った当初は存在にすら気付いてなかったので、ちょっとビックリしましたw

暗がりの中で白熱灯一つの明かりで作業されてました。
ちょっとホラーw

ご老人のすぐ背後に座ってしばらく作業の様子を拝見していましたが、一向にこちらに気付いてくれません。
ご老人は小刀を左手で持ち、刃先を白熱灯の光に当てて眺めては、右手の金槌で数回叩くという作業を繰り返しています。
どうやら刃先がまっすぐになるよう、金槌で微調整されているようです。

傍らには仕掛中の彫刻刀の刃と道具、手書きのメモが

10分ぐらい作業を眺めていたでしょうか。こちらに気付く様子もなかったので勇気を振り絞って話しかけてみました。

寡黙なイメージとは異なり、めちゃくちゃ気さくに色々お話をしていただきました。
なんと御年94歳!の職人さんでもある代表者の梅田興造さん。
戦時中は特攻ゼロ戦志願兵だったという壮絶な青年期を送られたらしいです。戦時中、仲間がどんどん特攻兵として死んでいく中、終戦になり自分だけが生き残ったという話を語ってくれました。
その後家業を継いで70年以上職人として生きてこられたとのこと。凄すぎて言葉も出ません。
梅心子さんが作る刺身包丁は今でも海外で飛ぶように売れるようです。
若い職人さんも多数活躍されている中で、こういったレジェンドのような大ベテランの職人さんも共存されているのが、燕三条という地域の厚み・強みなのかもしれませんね。

気さくにご自身の人生について語っていただきました

(上のリンク)梅心子さんが作る彫刻刀、彫刻の芸術家にとって憧れの道具とのことです。アマゾンでも手に入ります。

有限会社梅心子
代表者  梅田興造
〒955-0842 新潟県三条市島田3-3-20
https://kajidojo.com/meister/baishinshi/

⑤松井精密工業

梅心子さんを訪れた後、近所に工場の祭典の目印を偶然発見したので、訪れてみました。

松井精密工業さん
ピンクのストライブのマスキングテープが工場の祭典の目印

松井精密工業さんは、ノギスやケガキゲージなど高精度計測工具を100年以上前から製造販売する老舗の会社です。

松井精密工業が製造する計測工具
右の五寸目ノギスは、なんと平成25年の伊勢神宮の式年遷宮の時に納めた貴重なもの!


カマケビキという、木材の縁に沿って表面に平行な線を引きたい時に使う大工道具
先端の刃先は、先ほど訪れた近所の梅心子さんに研磨をお願いしているとのこと
ここでも燕三条地域だからこその分業の強みが表れています

この松井精密工業さんの強みは、なんといっても「精度が高い」ということ。
ホームセンターで売っている通常のノギスは、数ミクロン単位でどうしても誤差はあるのですが、ここで作られるノギスの精度はけた違い。
国内外の有名工房を始め、木エ・板金・金型・各種検査など、さまざまな現場の最前線で愛用されています。

事務所でお会いした松井社長に、隣接する工場もご案内いただきました。

戦前から使われている工場の建物 年季入っています
現在の主力工場は郊外にあるらしいですが、ここも主に検査・調整工程で使用されています
職人さんがノギスの調整作業を行っていました
大型のプレス機 現在はあまり使っていないとのことですが、
特別に動かしてくれました 電源を入れると大型の車輪が回り大迫力!
歴史を感じさせる「時間励行」の札、励の字が旧字体ですね

伊勢神宮の式年遷宮の際に、社の建設のために必要な宮大工道具として、松井精密工業の作る計測工具のオーダーが伊勢神宮からあり、納められたそうです。
宮大工の計測工具は、メートル法の単位ではなく、尺寸法のもの。
こういったオーダーに対しても柔軟かつ精度高く答えることができる技術を持っているからこそ、伊勢神宮という日本を代表する神社からも信頼されているんですね。

工場を見せていただいた後、社長の松井さんと奥様と雑談していた際に見せていただいたのがこれ。

伊勢神宮の印が刻まれたコースター
非常に貴重なものですね

平成25年の伊勢神宮の式年遷宮の際に計測工具を納めた返礼として、社の建設の端材で作られたコースター(もちろん非売品)をいただいたのとのことです。
そんな貴重なものだから、神棚に飾っているのかと思いきや、普段使いしている松井さんご夫妻。素敵です。

丁寧にご対応いただいた社長の松井さん
実は工場の祭典は今回が初参加とのこと
とても気さくで誠実なお方でした

松井精密工業株式会社
代表取締役 松井 重晴
〒955-0842 新潟県三条市島田1丁目10-17
https://www.matsui-seimitsu.co.jp/company/index.html

⑥長谷弘工業

次は、長谷弘工業さんを訪れました。

長谷弘工業さんの門構え 看板の文字の掠れ具合がいい感じ
こういった手作り感あふれる感じが工場の祭典の醍醐味

長谷弘工業さんは、三条市に拠点をもつ、バックロードホーンスピーカーの開発製造メーカーです。1975年頃よりオーディオ業界に参入。管楽器のような構造のホーンスピーカーは高い評価を得ており、全国にファンをもっています。

まるで迷路玩具のような構造を持つバックロードホーンスピーカー
この見た目からは想像もできない豊かな音質を楽しむことができます

金属加工産業の町である燕三条の中では珍しい、木材加工をメインとする長谷弘工業さん。しかしながら同時に金属加工の取り扱いも同じ工場で行っており、粉じんなどの問題回避に工夫しながらものづくりを実施されているとおっしゃっていました。

複数の木材の板を張り合わせて、スピーカーを造る工程を丁寧に説明されていました
木材加工のマシン 粉じん対策も施されています

そして、長谷弘工業の社長の長谷川さん。実はこの地域の発明王と言っていいくらい、さまざまな商品を作っているアイデアマンなのです。

数々の発明商品のストーリーを面白おかしくプレゼンする長谷川社長

カラス避け、足踏みノコギリ、手動ボール盤など、東急ハンズやホームセンターで売られるユニーク商品を「ユニック」というブランドで数多く開発してきた面白おじさんです。
成功して売れに売れた商品の話だけでなく、びっくりするほど全然売れなかった話などを面白おかしくプレゼンされる長谷川さんの人柄が、この地域にも好かれているんだろうなぁと思いました。

個人的にヒットだった発明商品「バックオーライ」
狭い車庫の壁に取り付けて、巻き尺素材の先に取り付けられた黄色のピンポン玉を車が押して、
壁ギリギリになったら、赤の三角形が「止まれ」の文字に重なるというアイデア商品
自信を持って発売開始したが、一個も売れなくて、
仕入れた黄色のピンポン玉が大量に余って困ったので、地域に無料で配ったら、
ある時期、三条市の子供たちが黄色いピンポン玉で遊びまくったという逸話(笑)
燕三条の発明王 長谷川さんと
まだまだ現役バリバリとのこと

株式会社 長谷弘工業(ハセヒロコウギョウ)
〒955-0845 三条市西本成寺2-6-11
販売責任者 長谷川 安衛
https://www.hasehiro.co.jp/

⑦庖丁工房タダフサ

最後は、燕三条でいち早くブランディングに成功したことで有名な庖丁工房タダフサさんを訪問しました。

大きな看板がかなり目立ちます
さすが有名企業、入り口前も大いに賑わってます

もともとは地域に数多くある包丁メーカーの一つだったタダフサさん。きっかけは、10年前、当時の三条市長だった国定勇人さん(現衆議院議員)が、中川政七商店という奈良県の企業に、三条市の伝統工芸企業のリブランディングプロジェクトを依頼したことでした。その対象として名前が挙がったのが、このタダフサでした。
タダフサの三代目曽根忠幸さんは、中川政七商店の中川政七さんと共に新ブランド『庖丁工房タダフサ』を立ち上げました。
いままでホームセンター向けに安く作っていた包丁の製造・販売をやめ、一般の消費者向けに7本に絞った包丁、特に「基本の3本」と呼ばれる三徳包丁・ペティナイフ・パン切り包丁の3本の商品展開に経営資源を絞り込むことで、リブランディングに成功しました。

無事整理券をゲットして、工場内の特別見学ツアーに参加することができたので、いざ工場へGO!

整然と機械と治具が並べられた工場
とてもきれいに整理整頓されていました

職人さんが数千℃に熱せられた鋼を、プレス機で包丁の原型に整えつつ、不純物を外へ出し鋼材の品質をさらに高める「鍛造工程」を実演してくれました。

鍛造工程の様子 職人さんの左側が窯、正面の機械が足踏みプレス機

通常の量産品の包丁は機械化された自動鍛造による生産がメインですが、特別発注品などについてはいまだにこのように職人さんが一本一本鍛造されるとのことです。

庖丁工房タダフサのロゴデザインにもなっているつかみ箸
真っ赤に熱せられた鋼を鍛造する際に使います

次に案内されたのが、鍛造された後、磨き・仕上げ工程に進む前の仕掛品が保管されているスペースです。
実に様々な種類の包丁の型が保管されて、包丁ってこんなに形の種類があるんだと新鮮な驚きがありました。

鍛造され成形された鋼の保管スペース
錆び付きを防止する特別な溶液に浸されています
レタス切り包丁という特殊なものも!!

研磨工程も複数の職人さんが、黙々と作業をされていました。

磨いた刃の部分に、持ち得をつければ完成です。
最後にタダフサのロゴであるつかみ箸のマークを刻印します。

出来上がりの製品(ペティナイフ)
良い製品は出来上がりも美しいですね
タダフサはもともと「忠房」という名前だったんですね

タダフサは地域の中でもいち早くオープンファクトリーを始めることで、燕三条の産業観光の発展のきっかけを作ったパイオニア的な企業です。
その中でも今回の工場見学を通じて、それぞれの職人さんや社員さんたちのものづくりに対するこだわりと愛情を随所に垣間見ることができました。

いたるところで、垢抜けた雰囲気を感じます

株式会社タダフサ
新潟県三条市東本成寺27-16
代表取締役 曽根忠幸
https://www.tadafusa.com/

さて、後編も盛りだくさんの内容となりましたが、いかがだったでしょうか。
今回の工場の祭典2022の旅を通じて、それぞれの工場で働いていらっしゃる職人さんや社員さんとのふれあいが気軽にできて、彼らのものづくりに対する深い愛情とこだわりを随所に感じ取ることができたことが、大きな醍醐味であると感じました。
これだけの規模感で、主体的にこの祭典に参加する地域というのは、世界的にも珍しく、世界に誇るべきものだと思います。
勿論、他の地域と同様に、事業継承や若い職人の定着化など、課題は山積みですが、地域の経営者や職人が一体となって、これらの問題に立ち向かっていける力強さを信じていますし、私も将来何らかの形で支援ができたらと願っています。

Team想 髙橋佳希

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