【#13】まとめ(後編)-燕三条における文化資本の存在
「燕三条のサステナブル経営と文化資本」では、私たちTeam想が2021年10月~22年3月に社会人経営大学院の卒業研究で取り組んだ論文内容をベースに再編集し、今まで#1~#12にかけてnoteにて記事化してきました。
そして今回#13は、いよいよ最終回です。
前記事の#12では燕三条の産業クラスターとしての成功要因とそれを支える6つの資本の存在についてを伝えてきましたが、
今回の#13では、「6つ資本」の枠組みでは説明できない「文化資本」の存在について迫っていきたいと思います。
6つの資本では説明できない要素の存在
前回の#12で、燕三条の産業クラスターの成功要因は、
の2点に集約され、
それを支える燕三条ならではの「6つの資本」が存在すると定義しました。
(下記参照)
詳細については過去の各記事に言及されていますが、4要素の検証結果をまとめてみたのが、下の図となります。
一方で、燕三条の先天的要素、後天的な産業クラスターにおける構成要素を調べる中で、上記の6つの資本では説明できませんが、燕三条の成功要因の形成に影響を与え・蓄積されている別の要素が存在することを検知しました。
その要素は、「気質」「絆」「誇り」「(地元への)愛情」「ときめき」の5つの言葉に集約されます。これらの言葉は、前出の6つの資本の定義では説明できないものとなります。これをどのように定義すべきでしょうか。
それを「文化資本」と定義する
私たちは、6つの資本で説明できないけど、燕三条の地に脈々と受け継がれ確実に存在し、燕三条の産地型産業クラスターに影響を与えている「気質」「絆」「誇り」「(地元への)愛情」「ときめき」の概念を「文化資本」と定義したいと思います。
文化の特徴
時間軸:文化は長い時間軸(何百年単位)にわたって構築されていくものである。つまり人の一生の長さを超えて世代を超えた伝承がなされる点が特徴的な点である。
存在場所:文化は人々の心に宿るものである
伝承性:文化は、阿吽の呼吸・言語化しづらい特徴をもつ「ノンバーバールコミュニケーション」である
制御可能性:文化は特定の人によりコントロール可能なものではない
評論性:価値・効用を生むものとして、客観的に評価可能である
文化の効用
文化とは、個々の人々のモチベーションの源泉となると同時に、異なる人々を繋ぐことで、共通の使命感、一体感、規律を与えるものであると考えています。
産業クラスターの「文化資本」の特徴と、6つの資本との違い
産業クラスターにおける「文化資本」がどのような特徴を持ち、他の6つの資本となぜ区別されるかを、文化資本の構成要素に分解して検証してみましょう。
【気質】
定義:地域の環境に影響を受けることで自然と醸成される思考・行動特性や意欲の傾向
気質が人的資本と違う点:
● 先祖代々からその土地で受け継がれてきたもので、形成される時間軸が非常に長い(100年単位、人の一生を超える時間軸)
● 特定の人物や企業によりコントロールできない
● 言語化することが難しい
【絆】
定義:他者との心の奥底での繋がり
絆が社会関係資本と違う点:
● 連携する場をさすのではなく、個人同士の間に成り立つ強い信頼関係を指す
● 親や地域の先人が培った関係性を引き継ぎ、長い時間軸を経て醸成されるものも含む
● 言語化することが難しく、無意識レベルで存在する場合もある
【(地域への)愛情】
定義:長くいることで育まれる地域への愛着。地域に対する感謝の想い。
【誇り】
定義:過去・現在から、自分たちの存在に自信を持つ
【ときめき】
定義:期待や喜びで胸躍る状態
(地域への)愛情、誇り、ときめきが他の6つの資本と違う点
● 人間の本質的、本能的かつ潜在的な感情
● 潜在的であるがゆえに、外との比較をすることで気づくもの
● 行動する上でモチベーションの源泉となるもの
● 熱量を伴い他者に伝播し、他者と共有することで強い連帯感を生む
以上から、文化資本は、
育まれる時間軸が長く、
言語化/コントロールがし辛い人間の本質的・本能的な要素であり、
モチベーションの源泉となり他者と強い連帯感を生む
という点で、他の6つの資本とは区別されるべき明確な特徴を持ちます。
また、時間軸・制御可能性の特徴から、自然資本と他の5資本との間を繋ぐ資本として、文化資本が存在していると考えられます。
上図のように、自然資本が元となり、文化資本が醸成され、その上に他の5つの資本が成り立っている構造と整理できます。
産地型産業クラスターにおける文化資本の必要性
産地型産業クラスターを1企業体としてとらえた場合、単体の大企業と比較すると、
使命とビジョンを指し示す機能の不在
リスクと機会のバランスに基づく全体としての戦略・資源配分の決定不在
人事制度等の不在によるガバナンス欠如
という経営システムの差異・難しさが存在することになります。
そして、その差異・難しさを補完する効果を「文化資本」が提供しているのではないかと、考えました。
例えば、
使命とビジョンを指し示す機能の不在 に対しては、
「誇り」により使命感を生み出し、熱量を他者に伝播することで、強い連帯感を生み出す
「地域への愛情」により目指すうえでのモチベーションの源泉をつくりだす
「ときめき」により地域全体で喜びを共有しあい、モチベーションを持続する
という補完効果を文化資本が提供しているといえます。
同様に
2.リスクと機会のバランスに基づく全体としての戦略・資源配分の決定不在 に対して、
「気質」により燕・三条の固有の強みを活かしあうことで、バランスの良い戦略・資源配分を実現する
「地域への愛情」によって、痛みを伴う戦略でもやり切るモチベーションを生み出す
3.人事制度等の不在によるガバナンス欠如 に対して、
「気質」により、金銭的・精神的な評価・報酬がなくても忍耐強く取り組み、一体感を持って、変化に向けて挑戦し続ける実行力によって、危機を乗り越える
「絆」により、組織の垣根を超えてもお互いのために支え合い、連携することで、地域全体としての高い規範意識を持ち続ける
という補完効果を文化資本が提供していると考えられます。
以上のように産地型産業クラスターにおける経営システムの差異・難しさを補完する効果を文化資本が提供しているため、産地型産業クラスターにおいて文化資本が不可欠であると、私たちは考えています。
以上で#1-#13にわたる「燕三条のサステナブル経営と文化資本」の連載は終了となります。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。
今後も燕三条や他の地域産業が発展していくためには何が必要なのか、考えていければと思っています。
Team想 髙橋佳希
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