蟹の涙
こんにちはMr.ストマックです。
皆さん最近いかがお過ごしですか?僕は相変わらず70代男性のブリーフくらい張りのない生活をしています。
そんなナマコのような生活を送っているので少し昔話を書きます。最初に言っておくとオチとか云々はないです。
僕は幼少期は奄美大島という鹿児島県の島で育ちました。育ったといっても家庭の事情で埼玉の家と島を行ったり来たりしていたので体感的には半分島民くらいの感じです。
そんな僕の小2の夏休みのころの話です。
僕の家は河口(海と川の境目らへん)に建っていて、そこで畑をやってヤギとかアヒルとかを飼っていました。
「海も川もあるしここで暮らせばええやん!!ついでに畑もやれば完璧やろ!!」
っていう先祖達の適当DNAを肌で感じます。
最寄りのコンビニは車で35分、近隣の店は肉屋兼なんかよくわかんないけど生活用品が揃う田舎あるあるな店のみ。
辺りは一面の海、森、畑、そしてこちらの命を時にガンガンに脅かしにくるハブ(猛毒のヘビ)、ケータイの電波は家の中では入らず通話は道路、そんな自然の中の話です。
小2の夏休み、僕はめちゃくちゃヒマでした。
ヒマでヒマで飼ってるヤギにトイレットペーパーを1本丸々食わせたりするくらいにはヒマでした。(後で親父にブン殴られました)
近隣の友達たち(同年代の友達も本当に人数が少なかった)が相次いで旅行や里帰りなんかに行ってしまっていたのです。
なんせ田舎、暇つぶしの方法はない。なんとなく茂みに入ろうものならハブの強襲により絶命の危機があるリアル探検ごっこも、もはや飽きる位にしてしまった僕は途方に暮れていました。
脳細胞を確実に殺しにきている太陽光を浴びに浴びて、思考能力が完全に終わっていたガキの頃の僕は「日が沈むまでひたすら四股でも踏むか〜」と謎の決断を下し上半身裸になり家の裏にある土俵付きの公民館へ向かいました。
田舎の凄いところは「音」だと思います。
茂み沿いを自分が歩くとその茂みにいる生き物が、デカい生き物である僕の気配を察知して逃げる。
僕の一歩先で常に「ガサガサッ」と音がなる。風で草が動く音なんかではなく、明らかに「生き物が動く音」が常に周囲にある、そんな不思議な空間。
そこで1匹の蟹が僕の目の前に現れました。小さい蟹です。4センチくらいでしょうか。
川辺にはそれこそいくらでもいる蟹ですが、こんな道路の方まで出てくるのは珍しいことでした。
ヒマを持て余している僕はこの蟹を追いかけます。
当然でかい生き物に狙いを定められたとわかるや否や蟹も逃げます。
僕は何となく近くに落ちている棒を拾い蟹の後を追います。
蟹は隠れたつもりなのでしょう。ブロック塀の3列に並ぶ穴の真ん中に入り動かなくなりました。当然僕はそれを見ています。
僕は手に持っていた棒で上から蟹を突きました。
理由はありませんでした。
カシャンカシャンと僕は上から蟹を突きました。
蟹は避けようとします。穴から出て逃げようとします。それを僕は棒で落としカシャンカシャンと突きます。
一撃で殻を割ろう、とかそんな具体的なことはなんにも考えてなくて、命を奪うということも一切理解せず、ただただ蟹を弄んでいました。
そこに「楽しい」とか「殺意」とかは一切介在せず、僕は棒で動く蟹を突いていました。
そこで僕は自分が弄んで、小突き回していた蟹と「目」が合いました。
蟹は泣いていました。涙を流していました。
蟹が本当に目から涙を流すのか、とかそういった事は僕は今も一切わかりません。
生物学的な話とかは本当にわからないし、どうでもよくて、もしかしたら蟹の身体の一部が僕の攻撃で取れてしまった際に出た液体かもしれなくて、でもあの時の蟹は確かに僕に向かって涙を流しているように僕は見えたんです。
僕はそこで棒を捨てて、家に戻りました。
僕は縁側に座ってアイスを食べながら「今この瞬間にハブが床下から出てきて僕の足を噛んで、毒が身体中に回って死んじゃっても何にも文句言えないんだなぁ」って思いました。
田舎には本当に生き物が多くて僕らは「奪う」のが当たり前でした。ジャマな虫は殺すし、魚は釣ったり突いたりして取ったらすぐ食べる。
「人間」以外の生き物の「命」が周りに溢れすぎていて、そこにリアルを全く感じていなかった。子供の残酷さってこういうことなんじゃないかと思う。
あの道路に突然現れた蟹の涙で僕は初めて「自分以外の生き物の命」を実感した。
そうして僕は食わない生き物はなるべく殺さないようにしようと思いました。そして自分より弱いものをいじめるようなことはしないようにしよう、とも。
これはずっとずっと守ろうとその時の自分の身の回りのもの全部と約束したような、そんな昼下がりでした。
って感じの僕の昔話でした。オチもクソもありません。
ただこれを書いていて一つ思った事があります。
あの蟹は俺を恨んだのだろうか。
人間より遥かにシビアで理不尽で理路整然とした自然の、弱肉強食のルールの中にいたあの蟹は自分の身に起きたことをどう思ったのだろうか。
これは俺には到底理解できる話ではないのは俺も分かっていて、ただ悪いことをしたなぁっていう反省があって、そして俺自身なにか理不尽な事故やらなんやらで死ぬ感じになっても、なんにも文句言わないで潔く死なないとなぁって思ってる。
そうじゃなきゃあの蟹になんとなく申し訳が立たないもんな。
つらつらと失礼しました!またどこかで!
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