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これからの時代に必要な「挑戦」・「成長」ができる組織文化

現代の職場において、心理的安全性はますます重要視されるようになっています。
心理的安全性が高い環境では、スタッフは自分の意見を自由に述べたり、ミスを恐れずに行動することができ、その結果、個人やチーム全体のパフォーマンスが向上することが多いとされています。しかし、この「心理的安全性」が職場にどのような影響を与えるのか、その詳細を理解することは、より効果的な職場環境を作るために不可欠です。

エイミー・エドモンドソン氏が提唱する「心理的安全性のマトリックス」は、この理解を深めるための重要なフレームワークです。このマトリックスは、心理的安全性の高さと目標達成の責任の高さに基づいて職場の環境を4つの象限に分け、その中でも特に「快適(Comfort Zone)」と「学習(Learning Zone)」の違いが注目されています。

今回は、上部二つのゾーンの違いに焦点を当て、特に「挑戦・成長する機会」がどのように「快適(Comfort Zone)」と「学習(Learning Zone)」への移行を促進し、組織全体の成長と成功に繋がるのかを探っていきます。

▶︎心理的安全性のマトリックス

エイミー.C.エドモンドソン,& 野津智子(翻訳).チームが機能するとはどういうことか : 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ.英治出版.一部改変

Team Culture Lab は、心理的安全性をベースにしたチームカルチャーを研究するラボです。ここでは「心理的安全性」は高いけれど、「目標達成の責任」の高さによる環境の違いを考察したいと思います。


◾️「快適(Comfort Zone)」と「学習(Learning Zone)」を分つもの

「快適(Comfort Zone)」は、心理的安全性が高く安心感のある環境でありながら、挑戦や成長の機会が少ないため、スタッフが現状に満足し変化や改善が進みにくい環境を指します。

一方、「学習(Learning Zone)」は、心理的安全性が高いことに加え、目標達成のための責任が高く設定され、スタッフが積極的に挑戦し成長する機会が豊富に存在する環境を指します。

▶︎快適(Comfort Zone):安心だが、挑戦・成長が少ない

心理的安全性が高い一方で、目標達成の責任が低い環境を指します。
このゾーンでは、スタッフは、安心感を持って仕事に取り組むことができますが、挑戦や学びの機会が少なくなりがちです。目標達成に対する責任のプレッシャーが低いため、現状に甘んじやすく、個人やチームの成長が停滞するリスクがあります。このゾーンにとどまり続けると、イノベーションや自己改善の機会が少なくなり、長期的には組織の競争力が低下する可能性があります

▶︎学習(Learning Zone):挑戦的だが成長できる

心理的安全性が高く、同時に目標達成の責任も高い環境を示します。
このゾーンでは、スタッフが安心感を持ちながらも、高い目標に向けて挑戦し、成長することが期待されます。失敗を恐れずに新しいアイデアを試みることができるため、学習やイノベーションが促進されます。
この環境では、チーム全体が高いパフォーマンスを発揮し、共に学び合い、成長していくことが可能です。エイミー・エドモンドソン氏は、この「学習(Learning Zone)」が最も理想的な職場環境であり、組織の持続的な成長と成功に寄与すると指摘しています。

出典:株式会社 ZENTech 心理的安全性 マネジメント講座

▶︎快適(Comfort Zone)と学習(Learning Zone)を分けるもの:目標達成の責任の高さ

上のイラストでは、仲が良すぎる(快適)、心理的安全な関係(学習)を表しています。
これら 2つのゾーンを分ける主要な要因は、「目標達成の責任の高さ」です。目標達成の責任が低い場合、スタッフは挑戦する必要性を感じず、現状維持に満足することが多くなります。
逆に、目標達成の責任が高く設定されることで、スタッフは自身の能力を最大限に発揮し、成長し続けるための動機づけを得ることができます。

* 最も重要
ただ、目標達成の責任を高くするだけでは、不安(Anxiety Zone)になってしまします。ですので、心理的安全性の高さを維持しながら、適切なレベルのチャレンジを提供することが重要になります。これにより、スタッフは安心感を持ちながらも、成長するための努力を惜しまない環境が生まれます

このようなバランスの取れた職場環境を構築することが、組織の成功に繋がるとエイミー・エドモンドソン氏は強調しています。
リーダーシップとしては、心理的安全性を確保しつつ、スタッフが学習(Learning Zone)に入れるような責任設定を行うことが重要となります。

◾️快適(Comfort Zone)と学習(Learning Zone)のシチュエーション

では、快適(Comfort Zone)と学習(Learning Zone)の違いを、具体的なシチュエーションで、考えてみたいと思います。それぞれの環境がどのように職場に影響を与えるか、それぞれ 5つずつシチュエーションをご紹介します。

▶︎快適(Comfort Zone)のシチュエーション

  1. ルーティン作業のみが求められる状況
    毎日同じ作業を繰り返すだけで、新しいアイデアや改善の提案が求められない職場。スタッフは現状に満足し、成長の機会が少ない。

  2. フィードバックがない職場
    上司や同僚からのフィードバックがほとんどなく、ミスがあっても指摘されず、そのまま放置される環境。スタッフは自己改善のチャンスを失うことに繋がってしまう。

  3. 挑戦的なプロジェクトが回避される
    会社としてリスクを避け、安全な選択肢ばかりを選ぶことで、イノベーションが阻害される。スタッフも同様に挑戦を避け、現状に甘んじる。

  4. 学習やトレーニングの機会が提供されない
    スタッフのスキルアップや成長を促すための研修やトレーニングがほとんどない職場。学びが奨励されないため、自己成長が停滞する。

  5. 評価基準が不明確である
    何をもって成功とするのか、またはどのように評価されるのかが不明確な職場環境。スタッフは何を目指すべきかわからず、現状に安住してしまう。

ルーティン作業のみが求められる状況

▶︎学習(Learning Zone)のシチュエーション

  1. チャレンジングなプロジェクトへの参加ができる
    スタッフが自分のスキルを試されるような新規プロジェクトや難易度の高い課題に取り組む機会が与えられる。これにより、個人とチームの成長が促進される。

  2. フィードバック文化のある職場
    上司や同僚から定期的に建設的なフィードバックが提供される環境。これにより、スタッフは自分の強みと改善点を把握し、成長のための具体的な行動を取ることができる。

  3. 失敗から学ぶ機会が奨励される
    失敗が責められるのではなく、学びの機会と捉えられる職場。スタッフは新しい挑戦を恐れず、試行錯誤を通じて成長できる。

  4. スキルアップや教育のためのサポートがある
    会社がスタッフの学習やスキル向上のために研修や外部教育プログラムを積極的に提供する。スタッフは新しい知識を吸収し、それを実務に活かす機会を得られる。

  5. チームでのオープンなコミュニケーション
    チーム内で意見交換が活発に行われ、誰もが自由に意見を述べることができる環境。これにより、チーム全体での知識の共有が進み、共同で問題解決が図られる。

チームでのオープンなコミュニケーション

これらのシチュエーションを通じて、心理的安全性が高い職場で「目標達成の責任の高さがどのように働くか」を、具体的に理解していただければと思います。

◾️快適(Comfort Zone)と学習(Learning Zone)を分ける大きな要素

それは、「挑戦する機会」があるかどうかです。
つまり、挑戦する機会があることで、心理的に安全な環境が快適(Comfort Zone)から学習(Learning Zone)へと変わり、スタッフは自分の能力を伸ばし、目標達成に向けて積極的に取り組むようになるのです。

▶︎医療業界における「挑戦する機会」

新規事業を行う企業であれば、とてもイメージしやすいのですが、日々の業務をミスなく行うことが重要な医療業界においては、あまり「挑戦する」をイメージしにくいと思います。

医療現場では日々の業務が確立されている一方で、患者のケアや業務改善の観点から、挑戦が重要になる場面もあります。ここでは、病院での具体的な挑戦のシチュエーションをいくつか挙げてみます。

▶︎クリニックにおける挑戦のシチュエーション

  1. 新しい治療法や診断技術の導入

    • 最新の医療技術や診断方法を取り入れることで、患者へのケアの質を向上させることができます。これは医師やスタッフにとって新しいスキルや知識の習得を伴う挑戦です。

  2. 患者ケアのプロセス改善

    • 患者の待ち時間を短縮するための予約システムの改善や、患者満足度を向上させるためのサービスの見直しなど、業務プロセスを改善する取り組み。これにはチーム全体の協力が必要で、新しいアイデアの実行が求められます。

  3. 多職種チームとの協力

    • 看護師、医療事務、薬剤師、理学療法士など、異なる職種の専門家と連携して患者ケアを提供する際に、コミュニケーションや協働の方法を改善し、チーム医療の質を高める挑戦があります。

  4. 患者教育や健康促進プログラムの実施

    • クリニックで患者向けに健康教育セミナーや予防医療プログラムを実施することは、新しい取り組みとなり、スタッフが積極的に関与することで、地域の健康増進に貢献できます。

  5. デジタルヘルスツールの活用

    • 電子カルテの導入やリモート診療の実施など、IT技術を活用した業務改善(DXなど)。これはスタッフにとって新しいシステムの理解と使用に関する挑戦となります。

クリニックにおける挑戦する機会

これらの挑戦的なシチュエーションでは、スタッフが新しいスキルや知識を習得し、チーム全体での成長を促進することが求められます。
「挑戦」を受け入れることで、医療の質の向上や患者満足度の向上が期待でき、結果としてクリニック全体の成長につながっていきます。

◾️さいごに

心理的安全性は、職場で安心して働ける環境を提供しますが、それだけでは組織や個人の成長は限られます。重要なのは、この安心感を「快適(Comfort Zone)」から「学習(Learning Zone)」へと変えていくことです。「挑戦する機会」と「目標達成の責任」を組み合わせることで、スタッフは成長し組織全体のパフォーマンスが向上します。
ご自分の職場がどちらの Zone にあるかを見極め、積極的に学びを促進する環境づくりを目指していきましょう。

次回は、挑戦しやすい風土・文化を育む「健全な衝突」について、考察していきます!

◾️参考

  • エイミー.C.エドモンドソン,& 野津智子(翻訳).チームが機能するとはどういうことか : 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ.英治出版.

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