悔し涙の理由
息子たちは、夜のおむつがなかなか外れなかった。というか、次男に至っては現在進行形で、まだパンツで眠れていない。
昼のおむつ卒業は、遅くも早くもなかった。長男は3歳の誕生日を迎える少し前、次男も3歳を過ぎた頃に、パンツへと移行した。
しかし、夜のおむつは本当に長かった。まだ息子が生まれたばかりの頃、当時年長だった知り合いの子どもが夜おむつを履いていると聞いて驚いたが、その頃は我が子も同じ道を辿るなどとは、思ってもみなかった。
おむつを履いていれば、漏らしても特に被害はない。「寝ているときのことは仕方がない」が私の理念だが、さすがに毎日布団に世界地図を描かれるのは勘弁なので、おねしょが続くあいだはおむつをはかせていた。
長男は、年長の途中から徐々におねしょが減っていった。生理用ナプキンのように、パンツに当てる子ども用のパッドがあるので、小学校に入学したタイミングでそれを使うようになった。そして2年生に上がる頃には、そういった心配もなくなった。
あんなにしていたのがウソのようにおねしょとは無縁となったが、彼は夜中にトイレに起きたことが一度もないので、水分を摂り過ぎた日や習い事で疲れている日には、未だにヒヤヒヤするが。
次男も同じ道を辿っていたが、彼のほうが失敗は多かった。しかし年長の終わり頃、彼は突然「もうおむつを履いて寝たくない」と言った。
夜おむつを履いていることを知った友達に、バカにされたからだ。
しかしこちらとしては「まだ許されるわけなかろう」という気持ちだった。とはいえ、毎日粗相をするわけではなく、順調なときは週に1回程度のときもあったので、「1年生になったらパンツにしようね」と約束した。
そうして迎えた新年度。彼は長男と同じく、パンツにパッドをつけて眠るようになった。念のため、防水のズボンも履いて。
はじめは問題なかったが、4月も後半に入ると雲行きが怪しくなってきた。慣れない小学校生活に疲れた次男は、けっこうな量のおねしょをする日が続いた。
はじめは私も怒らなかった。夜中に湿っぽさに気づいて次男を起こし着替えをさせるのも、翌日布団を干してシーツを洗うのも、苦ではないわけではないというか、むしろストレスだったが、「寝てるときのことだから」と我慢した。
が、3日、4日と続くとさすがに「もう勘弁して」という気持ちになり、最終的に次男に「怒りたくないから、おむつに戻さないか」と提案した。
次男は静かに泣いていた。
友達に、しかも年下の子どもにおむつを馬鹿にされたのが本当に悔しかったから。そうしてやっとパンツで眠れるようになったのに、彼の意思に反しておねしょは続いたから。
協議をするまでもなく翌日からおむつに戻り、私も安心して眠れるようになった。次男はゴールデンウィークも、元気におねしょをしていた。
トイレの問題は非常にデリケートだ。小学生にもなれば、なおさら。
おむつに戻したあとに友達が泊まりに来た日、次男は絶対におむつを履いていることがばれないようにと、ソワソワしていた。私は朝早く彼を2階へ連れて行き、誰にもわからない場所で着替えをさせた。
「大丈夫?」と聞くとニッコリと笑って、階下にいる子どもたちの輪のなかへ戻っていった。
夜尿症について、調べないわけでもない。というか、もっと年齢の低い頃に何度も調べた。長男はそろそろ病院に相談したほうがよいかなと思っていた頃におねしょを少しずつしなくなったが、次男のリミットはあと1年だと考えている。
いつかきっと、こうやって悩んだ日も、息子の悔し涙も、笑い話になる日が来るだろう。そう思うと、おねしょだっておむつだって、かけがえのない思い出だ。
「ママがどんどんおむつを買ってくるから、僕はずっとおむつをはかなきゃいけないよ」と、おどけて言う彼を見ながら、私は鬼のような母親だけど、おねしょについては叱らなくて本当によかったと、胸をなで下ろすのだった。
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