L●●●--刻限には黒の現実を---を。

「ハンサムだなあ、君たちは。」

それ以上にわたしは何も言わずに高々とした時計塔の上、

開かれた日光浴をするための屋上のような場所で、

彼らを観ている。

聖堂に近い様なこの場所で、静と動を繰り返して。

注意深く彼らを観察しているのだ。

生き方も死に方も、出会い方さえ違う彼らの眼を、

呼吸を、肌を。わざと作り出したニヤけ顔のままに観ている。

時計の針は0時から進むことはなく。

ともすれば、わたしたちの時間も進むことはない。

ビュウアンと風が吹いて皆の髪が揺れている。

ああ、これが私が触れ合うであろう路の先に居た、

人間たちなのかと思った。

そんな安堵感を。

寒々しい風が突き刺して。

これは現実ではないのだ。

間際にみせた可能性と、間際に灯った後悔が混ざり合って、

意識が航海をしているものだろうか。

わたしは昔話を思い出す。

桃太郎、彼はとても情に熱かったハズだ。

わたしは景色を思い出す。

広大な牧草原を、シベリアの大地を走り抜ける。

身体の中を、いつかの太陽が照らしている。

その中で小さな雛鳥が歩き回り、

もちもちとした柔らかいウサギの様な生き物が、

息をたくさん吐きだしながらおいかけっこをしている。

刹那のきらめき、それは星のかける路のことか。

はたまた四季が変わるのを横目に観ながら、

悠々と飛んでいく鳥の動きを言うのか。

ジンジンと照り付ける夏の空気の中を、

しんしんとした冬の雪つぶてが遊びまわるような。

ありもしないことを言うのか。

動かないハズの時計の針が動いた。


身体が少しずつこわばってくる。

心が少しずつ薄れていく。

そうしてクリアになっていくのか。

何が流せる、何を溶かす、何が透けていく。

見渡せば彼らは笑っていた。

寂しいか。いやはや。

ああ、それだけでわたしは心が温かくなった。

何もかもを諦めて、押しやすい自分の感情を、

どうにも抑え込んでいたわたしが。

彼らのことを気にかけて。

身体が、首を残して風に消えた後、

薄れていく意識の中で、

ワタシは確かに思ったのだ。

最後に、最期にユウキをみせよう。

全てが解けた後にでもワタシは、

確かに――こうUんだ。

サナ、ギは確かに蝶になる。

なれば、ワタシも押し分けて道を開こう。

君たちが幸ふことを、ずっと願おう。


そうして私は、

死 を体験した。

長い長い眠りの中で。

起き上がった私は、

身体に刺さったチューブに違和感を覚えたが、

白い室内の中で、苦いチョコ味のアイスを食べた。

そのアイスは薔薇の形をしていた。

ただそれだけで、笑顔になった。





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