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忘れられない高校生の生徒さん

欧米のアニメ好きに日本語を教えているオンライン日本語教師の日常。

ある日の宿題のプリントの端っこ。

まだ上手ではないけれど一生懸命書いたと思われる「ありがとうございます!さちこ先生」のメッセージ。

これを見て、先生駆け出しの私は号泣してしまった。最初ひらがなも読めなかった子が、1か月でこんなに書けるようになるなんてと。よく頑張ったねと。

↑本人の筆跡

まだあどけない15歳の少年が私のレッスンを取ったのは私がオンライン日本語教師デビューして間もない頃だった。

右も左も分からない、毎日毎日どうやって教えたらいいんだろうと悩みまくって、毎日午前2時までレッスンに使うスライド作り。
英語も大して上手くない、日本語の説明もど下手くそ。始めてもすぐ辞めてしまう生徒さん達。トライアルだけで終わる生徒さん達。はじめて3か月くらいはこんな感じで、私は毎日のようにデカめの栄養ドリンクをグビグビ飲みながら、ガムシャラにやっていた。(今こんなこと続けてないのでご安心を)

そんな時にこの少年はやってきた。
先生にもなりきれてないひよっこ、一生目の下のクマが取れない私に唯一ついてきてくれた。しかも週3回も!今考えたら本当奇跡みたいな存在だ。

初回のトライアルレッスンは本当にまだ日本語勉強スタートしたばかりで、こんにちはと、ありがとうくらいしか言えなかった彼だったが、パニック一歩手前みたいな私のレッスンでも気に入ってくれたらしく、即レッスンの10回パックを購入してくれ、そこから私との日本語トレーニングの日々がスタートした。

毎回のレッスン、彼は目を輝かせてレッスンに臨んでいた。ほんとに眩しかった。
もっともっと勉強したいーーー!うぉぉぉ!というモチベーションが、あのスーパーサイヤ人のオーラみたいに画面越しにアメリカからダイレクトに伝わってきた。

毎回結構な量の予習と、宿題を出すのだが、それも完璧に仕上げてきて、彼のレッスンの準備と宿題で私の一日はほぼ終わっていたように思う。予想以上のハイスピードな進捗に、こちらも、はやくサイヤ人になれと言われているようだった。本当に凄まじい勢いだった。気がついたら、こちらもハイスピードでスライド作れるようになっていた。

3か月を超える頃には、彼はもう簡単な会話ができるようになっていた。我々が中2レベルのたどたどしい英会話をするのと同じくらいに日本語を喋れるようになっていたと思う。授業も英語をほとんど使わずにレッスンできるようになり、どうやらマンガやアニメなども少しずつ日本語で楽しむようになっていったようだった。

こんなに早くできるようになる人は、いなかった。彼以外の生徒は全員大人だったが宿題はやらない人も多かったし、遅刻してくる人もいた。

そもそも日本語を習得するのは、英語話者からするとめちゃくちゃ難しい。習得難易度Sランクだとかなんとか。なんかで見た気がする。全然理解できずに最初の方でやめる人だって少なくない。

カタカナで挫折。
漢字多すぎて、お先真っ暗で挫折。
形容詞の過去形とその否定形で挫折。
こんな具合に、しょっぱなから初心者でも心折れる難関がいくつも待ち構えている。

このような高いハードルを、楽しみながらスイスイ走り抜ける少年は本当にかっこよかった。初級ハードルでズッコケてる大人のみんな、高校生でもできるんだ!がんばれよ…と何度思ったことか。

そう言えば、最初にどうして日本語を勉強したいのか聞いたら、

「日本語が世界で一番難しいと聞いたから!マンガやアニメもすきだし、チャレンジしたい」

みたいなことを言っていた気がする。自ら言語界のエベレストに挑戦したいとは…なんてストイックな!自分高校生の時、何考えて生きていたんだっけ?と、はなから他の人とは違うこと言ってて驚いた記憶がある。

その後もあれよあれよと、少年は上達して、半年でかなり喋れるようになっていた。その頃はもう、週3回ではなく、週に1回程度のレッスンになり、私の午前2時準備コースも、毎日から週に2回、毎日モンスターを飲まなくてもやっていけるようになっていた。(それでも十分不健康!)

私の方も、他の生徒さんからのレッスンのリクエストが定期的にはいるようになって、徐々に先生業も慣れてきた。

それから間も無く、少年は教科書を一冊終える少し手前で私のレッスンに来なくなった。正直とても悲しかったが、すでに自分の力で日本語の本を読み、勉強し、私と言う杖がなくても、しっかり立っていられるのがわかっていたので、巣立ちの時が来たとわかった。

それからまた半年後くらいにふらっとフリートークしにきてくれた時、彼は開口一番

「先生、ご無沙汰してます。」と言った。まるで日本人みたいに。

同窓会のようなフリートークで、彼が色々な先生と話し、会話力を磨いたこと、習字を始めた事など聞いた。ここに来なかった間も絶え間なく努力していて、息子のように誇らしかった。

本当に上手になったね。すごいよ。

いえ、先生がいてくれたおかげです。

ほんとに感動した。彼はまだ16歳だった。

それから直接会ってはいない。
でも、Instagramで彼のストーリーを時々見る。習字も、日本人の高校生が書いたもののようだし、彼の投稿した文は、アメリカ人と言われなきゃ分からない。それくらい自然で、日本の若者そのものだ。大したものだ。

先日、ついに日本に来たという投稿を見た。

少年は一つ夢を叶えたようだ。
いや、もう大学生だから青年か。

今までたくさんの生徒に教えてきたが、こんなにすごい人は他にはいなかった。どの大人よりも成長スピードが早く、努力し、私も大いに感化された。

はじめて私のレッスンのレギュラーの生徒になってくれたのが彼で良かったと思う。彼がいたおかげで私もすごいスピードで先生として成長できた。濃密な半年だった。これからも応援したいと思う!ありがとう。ありがとう。






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