【ネタバレあり】探偵はもう、死んでいる。2の感想
初めてこの小説の1巻を読んだ時に思ったのが、どういう頭をしたらこんな構成の作品が作れるんだ? と驚愕したという事実だけが俺の頭の中に残っている。
1つのテーマに対して起承転結が一般的な中で、この作品の1巻ではメインキャラクターの関係性から世界観までぎっしり詰まっている作品。
探偵はもう、死んでいる。2
言ってしまえば各巻から濃密で濃い所を凝縮させて1冊にまとめたような感じ……と言えば読んだ人には伝わりますか? 言葉にするの難しいけど、この作品の1章読むごとに満足感が湧き上がるのです。
さて、今回はそんな作品の2巻を読んだので感想を書いていきます。
あらすじ
これは、探偵が"まだ死んでいなかった"頃の一幕。
高校三年生の俺・君塚君彦は、かつて名探偵の助手だった。
シエスタを失ってから一年が経ち、夏凪や斎川と出会い、シャルと再会した俺は、ある日、彼女たちとともに《シエスタ》に誘拐される。
そこで語られるのは俺が『忘れている』らしいシエスタの死の真相。
探偵と助手の長くて短い旅の記録。
地上一万メートルの上空で始まる少年と少女の冒険譚だった。
「君たちには、どうか見届けてほしい。私が挑んだ最後の戦いを──」
そうしてシエスタは告げる。
まだ誰も知らない真実を。
どうして探偵がもう、死んでいるのかを。
一巻発売後、異例の大反響となった第15回MF文庫Jライトノベル新人賞《最優秀賞》受賞作、追憶の第二弾。
購入場所
各書店さん、もしくは電子書籍からお買い求めください。
何よりも最初に言いたい事は……。
色々書いていく前に、ど~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~しても言いたい事があるんですよ。
尊い
本当なら『尊い』をフォントサイズ36~45ぐらいの大きさに変更したいぐらい想っている(変換ミスじゃない)んですが、noteの仕様なので仕方がないですね。
2巻全編通して。
「俺を殺す気か!?」
と作者の二語十先生には言いたい。
さて、この2巻ではまだ探偵が生きていた頃、助手である君彦と探偵シエスタの馴れ初めに全振りしています。
言ってしまえば2巻はラブコメだ。いいね?
開始早々イチャイチャする2人
1巻に書いてあったハイジャック事件があったと思う。
そのハイジャック事件の後から始まるわけなんだけど……。
不法侵入するシエスタもヤバいけど、この2人の会話の安定力と言えばいいのか……まだ探偵と助手という関係性ではないのに、既に夫婦として完成していて、ここに第三者がいたのであれば「イチャイチャは他所でやれ」って言われてるのは間違いない。
そんなイチャイチャを他所に、物語は「トイレの花子さんが大量発生してるらしい」という怪事件の解決から始まります。
文化祭で制服デート
文化祭が始まっている学校へ行くわけだけど、シエスタさんはなんと学校の制服コスプレするんだけど、挿絵のシエスタさん美少女すぎてヤバい(語彙力)。
そんなコスプレ美少女と事件解決の為の制服デートが始まるんですよね。
いや~これ完全にラブコメ始まった。
作中でシエスタは
「はあ、まあ私と君が付き合うことは絶対にないからラブコメと言えるかは微妙だけど」
と言うんだけど、確かにそうだね、君たちは夫婦だから。
そしてそんな光景を数年後の自分が見て悶え、夏凪やシャルも見てるとなると……。
シャルは開始早々絶対にキレてると思う。
そんなこんなで文化祭で制服デートを楽しむ2人は早々に怪事件の犯人を見つけるんだけど……いや、シエスタさん……そこ、トイレの個室なんですよね。
ってことは君彦くん……君、下半身は……。
トイレを出て(絶対に周りの人訝しんでるでしょ)追いかける2人。
被服部に捕まってそれぞれタキシードとウェディングドレスを着るんだけど……。
「どう?」
「あ、ああ。まあ……似合ってる、な」
「……素直に言われるとは思わなかった」
「……まあ、嘘をついても仕方ないからな」
「でも君も、似合ってるよ……その、タキシード姿」
「そ、そうか」
「うん……」
うわぁぁぁぁぁぁぁ!
もうこの時点で、正直事件なんてどうでもいいかなって思ったのは俺だけじゃないはず。
結局事件は覚醒剤みたいなクスリ。
依存症が高いクスリを飲み、そのクスリを得る為に飲んだ人間が売人に回るっていう飲む側が飲まれるお話。
クスリが花粉のようなものから作られるから花子さん。
これが大量発生する花子さんの正体だったわけです。
そしてこの事件の裏には《SPES》。
本作の敵対勢力が関わっていることがわかるんですよね。
巻き込まれ体質の君彦を助手にするメリットを探偵シエスタは提示する。
「私が君を守る」
「君がその体質のせいで、どんな事件やトラブルに巻き込まれようと、私がこの身を挺して君を守ってあげる」
だから
「君――私の助手になってよ」
こうして探偵と助手の関係、シャーロックホームズのホームズとワトソンの関係が生まれるんですよね。
いや、やっぱり夫婦って関係が1番ピッタリだな。
そして上記の引用セリフ、本当に重要なセリフなので覚えておいてほしい。
さて、実はここまではシエスタの死の真相とは関係がなく、単なるイタズラなんだけど……。
個人的には最後まで読んで改めて見直すと、ここのシエスタのイタズラって『思い出して欲しい』なんじゃないかなって。
そして今回出てきたクスリが重大なキーになるということを……。
真相の始まりはロンドンとジャック・ザ・リッパー
あの文化祭デートから少し月日は経ち、本編の1年と少し前。
まだ探偵と助手がロンドンで二人暮らしをしてる頃に戻る。
ここで作者が舞台をロンドン、そして生き返ったジャック・ザ・リッパーを題材に持ってくるの本当に粋だなって思う。
ロンドンにて拠点を移している探偵シエスタと助手君彦は風靡さんから依頼を聞くんだけど……。
君彦の膝に乗るシエスタを見て風靡さんはフーッと煙草の煙を吐くんですけど……。
いや、これ風靡さんと読者の気持ちが一つになった瞬間だよ。
挿絵の風靡さんも目が死んでるしさ……よくこんなことして
「「ビジネスパートナー」」
とか言ってるけど、もう一度『ビジネスパートナー』という言葉を辞書で調べてみて欲しい。
これを映像で見てるシェラと夏凪は近くにいる君彦を殴っても許されると思う。
この辺りから一文一文拾っていきたいけど、そうするとどうしようもない文量になるから省略するけど、これだけは言いたい。
「三大欲求が人より強め」
「……食欲と睡眠欲の間違い」
シエスタは絶対に性欲も強いムッツリスケベだと推理するんですけど、これ当たってると思います。
《SPES》最高幹部との出会い
運命としか言いようがなく、最高幹部であるヘルとの出会いが探偵と助手2人の関係に混ざるとは思いもよらなかった。
ジャック・ザ・リッパーの正体はコードネーム《ケルベロス》という三ツ首である地獄の番犬の名前を持った人造人間。
いつもどおりあっさりと倒すシエスタと君彦の前に現れたのは《ヘル》。
北欧神話、ニヴルヘイムの女王の名前を冠する《SPES》最高幹部の女の子。
最高幹部である彼女は能力でシエスタの動きを封じると君彦を連れ去った。
ここでシエスタを殺すわけでも君彦を殺すわけでもなく連れ去ったのは《聖典》に未来が書かれていたからだ。
この時点の彼女にとって全てが空っぽで何者でもないから《聖典》通りに行動するのが自分の全てであり、《聖典》に記載されているのは確定した未来の出来事。
まだ本編の時間では表に出てないが、確定した未来が書かれている書物なのだと思う。
作中でも書かれていた通り
「忘れ去られた心臓の記憶、時価三十億円の奇跡のサファイア、そして名探偵が残した遺産」
これら全て1巻で書かれた内容というのは記憶に新しい。
ここでヘルが負けた原因はシエスタが優秀過ぎたってわけではない。
ヘルは《聖典》に書かれた事が未来の出来事だと信じてるし、それはそのとおりなのだと思う。
ただ勘違いしていた点は、記載されていた内容が自分に対して悪いことは書かれていないと勘違いしたことが原因だろう。
君彦は将来的に自分のパートナーとなり、名探偵は死ぬという事実が分かっていたからこその暴挙だと思うんだけど、これは半分正解であり半分間違いでもあるからだと思う。
確かにこの作品のタイトル通りシエスタは死ぬが、探偵は死ななければパートナーも解消されることはない。
だからこそあの時、シエスタの刃で貫かれたヘルは驚愕しただろうね。
運命の歯車である《甘い蜜》
もしも……なんてif話をしても意味はなく……。
でも、ここでりんごを買ってこなかったら……億が1の確率ぐらいはあったんじゃないかな、シエスタが生きている未来。
もうね……君彦はこれを期に自分の気持ちを素直に受け止めるべきだよ。
ここで君彦が
……まあ、今回で最後だ。なにせ怪我人相手だからな。ああ、今回きりだ。うん、今回だけ。
そう自分に言い聞かせた言葉が本当に最後になるとは思わなかっただろうね。
ターニングポイント
《甘い蜜》であるりんごを買いに出かけた事で出会った謎の少女。
この少女との出逢いがシエスタと君彦にとってのターニングポイントなのだろうと思う。
謎の少女アリシア。
迷子で記憶喪失の彼女の正体を明かすことになるのだが、ここで日本に帰ったはずの風靡さんがやってきて、ジャック・ザ・リッパーが生き返ったと相談に来る。
そして負傷中のシエスタに変わり、居候することになったアリシアが探偵の仕事を始めることになったんだよね。
最初は探偵ごっこを初めたアリシアちゃんとの日常会が始まったな! と思ったが、ここから怒涛のフラグ回収の始まりとは思わなかった。
帰ったはずの風靡さん、謎の記憶喪失少女アリシア、生き返ったジャック・ザ・リッパーと来たら……。
酔うシエスタさんと君彦くん
長々と書く気はない。
酔って積極的になったシエスタの攻撃力の高さといったらさ……!
「こっち、おいでよ」
「……ベッドにか?」
「うん。こっちで一緒にお話ししよう?」
からの
「じゃあ、たまには」
「――たまには、不真面目なこと、してみる?」
はもう……これ……。
「昨夜はお楽しみでしたね?」
とドラクエのBGMと一緒に映像が脳内に出てきたよ。
ただ、改めて思い出すと
「君と過ごしたこの三年間のことは、絶対に忘れないよ」
ってセリフがお別れの言葉なんだよね……。
ここでこのセリフが出る通り、シエスタはこの先の展開とアリシアの正体、そして探偵である矜持と君彦に言った約束を守るために覚悟したんだろうね。
自分は死なないと解決できないということを。
アリシアの正体と
ここで感想を書くまでもなく、作中で書かれているのだがアリシアの正体はヘルであり、三度現れたジャック・ザ・リッパーの正体。
その正体に早々とシエスタじゃ感づいていたし、君彦自身も途中から――そう、アリシアの左薬指に指輪をはめる前から気がついてたんだよね。
でもやっぱり情があるし彼は信じたくないよね。
もちろんそれはシエスタも思っていたけど、彼女は探偵だから。
だからこそ包丁がなくなった時に君彦にもアリシアにも顔を見えなかったのは確信したからなんだろう。
最後の最後、ベッドでアリシアが寝ようとしている時に彼女は。
「……ばかにしてもいいから、握ってて」
と言葉を残し、寝落ちした君彦をそのままに彼の前から姿を消した。
この短い言葉が、どれだけ本当の人格であるアリシアの想いが込められていたのかと思うと……。
そして結末は変わらない。
カメレオンがアリシアを連れ去り、それを助けに行く君彦とシエスタ、そしてシャル。
シエスタと君彦・シャル組に分かれて研究所へ侵入開始。
2巻前半~中盤までの展開とは打って変わって完全シリアスに。
ヘルを本当の意味で倒す方法。
アリシアからヘルの意識を完全に消すには、それに対応できる意識がアリシアの中にないと難しい。
それにアリシアは。
――行きたい、いつか学校に通ってみたい。
それを叶える為の方法はシエスタ自身が死ぬという方法しかなかった。
つまり、シエスタは自分の心臓をアリシア……いや、ヘルの中に侵入させ、完全に押さえ込む方法を選んだ。
シエスタは文言通り
「私が君を守る」
「君がその体質のせいで、どんな事件やトラブルに巻き込まれようと、私がこの身を挺して君を守ってあげる」
との言葉通り身を挺して君彦を守ったし、依頼人であるアリシアの利益も守ったんだよね。
もしこの作品に正義の見方、正義の主人公がいたのであれば、もしかしたら別の方法が存在したかもしれない。
でも、この物語は巻き込まれ体質の助手と探偵シエスタの物語だから。
シエスタの最後の吐露。
「死にたく、なかったな」
この言葉で私は涙を流した。
最後に
もう君彦は忘れることはないだろう。
そして夏凪渚はどう思うのか、これからどうしていくのか。
アリシアの思いも気持ちも継承した新たな探偵と助手はこの世界でどうしていくのか。
もう二度と後悔なんてしないよう全部と向き合って欲しい。
二語十先生、3巻楽しみに待ってます。
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