良い茶葉の見分け方:玉緑茶

玉緑茶は、九州で生産が盛んな日本茶です。
一般的な日本茶と違い”揉み”の工程が少ないため、最終的な茶葉が針のような形状をしていません。
勾玉状によじれていることから、玉のような緑茶と言うことで『玉緑茶』と呼ばれるようになりました。
『ぐり茶』と呼ばれることもあります。
日本茶の中では珍しい存在ですが、古くは初めて海外へ輸出されたお茶も玉緑茶であると言われています。


1.良い玉緑茶とは
玉緑茶は、二種類に大別できます。
蒸し製玉緑茶と、釜炒り製玉緑茶です。

蒸し製玉緑茶は、他の一般的な日本茶と同じく、茶葉が茶畑から摘まれた後に蒸されています。
”蒸し”の後に、通常よりも少ない”揉み”の工程を経たものが蒸し製玉緑茶です。

”揉み”が浅い分、一般的な日本茶と比べると、濃厚さを楽しむというよりはすっきりとした味を何度も楽しむことに重きが置かれています。
苦味も出づらく、甘い風味が楽しめます。とは言え玉露のような濃厚な甘味ではなく、爽やかに口中をすっきりとさせる甘味です。

対して釜炒り製玉緑茶は、茶葉が茶畑から摘まれた後に釜で炒られたものです。
厳密には工程の細かい部分は異なるのですが、炒られた後には、蒸し製と同じく通常よりも少ない”揉み”の工程を経て製造されます。

日本が江戸時代の終わり、開国する頃に初めて海外へ輸出された日本茶は、この釜炒り製玉緑茶と言われています。
”蒸し”製法が確立する前は、”釜炒り”製法が国内では主流だったのです。

釜炒り製玉緑茶も”揉み”が浅い分、濃厚さよりはすっきりとした味わいを何度も楽しむことに重きが置かれています。
ですが蒸し製玉緑茶とはまた少し特徴が違います。

釜炒り製玉緑茶の一つの特徴は『釜香(かまか)』と呼ばれる、「清風のよう」とも表現される香りです。誤解を恐れず述べれば、焼き菓子の香りをベースに、どこか釜の金属質的な匂いを含んだ香りです。
もちろんここで言う”金属質的な”というのは悪い意味ではありません。 釜で炒っている情景が思い浮かぶような、テロワールを感じさせる香りです。
『釜香』は、”きな粉”のような香りとも表現されることがあります。

また、釜炒り製玉緑茶は蒸し製に比べ、爽やかな苦味があることも特徴の一つです。
良い煎茶にも良い苦味というのはあるものですが、場合によってはそれ以上に爽やかな苦味です。


2.茶葉の見分け方:蒸し製玉緑茶の場合
蒸し製玉緑茶の茶葉の見分け方は煎茶にほぼ準ずるのですが、やや違いもあります。
色については、一般的に煎茶よりも少し緑が鮮やかな方が良いとされます。

形状についてはよじれた形をしていますが、固く締まっている必要はありません。
撚れてはいるけれど、少しほどけかけているような形状が理想的です。

香りは、これも煎茶に準ずるとされますが、より瑞々しく、少し甘さを感じさせるようなものであれば最良です。


3.茶葉の見分け方:釜炒り製玉緑茶の場合
釜炒り製の場合は、銅のような色を、特に葉の曲がっている部分に感じさせるものが良いとされています。

形状も、蒸し製よりはやや締まっていることが多いです。

香りは、先に述べた『釜香』を持っているものが良いとされます。


4.茶葉の見分け方:有機栽培の茶葉の場合
玉緑茶にも、有機栽培の茶葉は増えています。
むしろ玉緑茶の主な産地である九州では、その広大な土地を利用して有機栽培が行いやすいですので、当然の流れとも言えるでしょう。

有機栽培とそうでないものの差は、蒸し製にせよ釜炒り製にせよ、ほぼ煎茶に準じます。
茶葉の色に関しては、緑色が濃くはないことがあります。化学肥料よりも有機肥料は吸収が緩やかですので、肥料成分の葉緑素への変換も緩やかな傾向があるためです。ただ、もちろんしっかりと濃いケースもあります。

葉の形状もやや扁平な茶葉が多い可能性がありますが、元々針のようにきつく成型する茶葉ではないので、一般的な煎茶よりも扁平な茶葉は目立ちにくいです。

香りも、少し薄い可能性があります。
ただ、玉緑茶は味にせよ香りにせよ、強い一杯を楽しむというよりは何度も爽やかな味わいを楽しむためのお茶です。
そういう意味では有機栽培の傾向である、味わいが優しくなるという変化についても、それほど気にはなりません。むしろより良い方向に変化することすらあると言えるでしょう。


5.茶葉の見分け方:茶期の違い
最後に、一番茶と二番茶・三番茶の見分け方についてです。
とは言えこれについても、ほぼ煎茶に準じます。

まず一番茶以外は、緑色の濃淡に関わらず、色自体や茶葉の表面に艶が少なくなります。少しかすれたような印象が強くなります。
また、茶葉の形状も、扁平な茶葉の割合が増えてきます。
ただ、先にも述べた通り玉緑茶はきつく針のように成型するお茶ではないので、一般的な日本茶ほどこの差は目立ちません。

香りも、複雑さと芳しさを失ってきます。
より具体的には、単純に雑草のように臭かったり、茶問屋が『火香』と呼ぶ香りが強い傾向がでてきます。釜炒り製玉緑茶の場合は『釜香』が強すぎ、ほうじ茶のような香りになることもあります。
焼き菓子のような『火香』は良い香りですが、強すぎると焼き魚を思わせるような印象が現れてくることがあります。
茶葉の臭みを抑えるため乾燥温度を強くしたり、二番茶・三番茶は乾燥に時間がかかったりしますので、結果『火香』や『釜香』が強くなってしまうことがあるのです。

以上の特徴が当てはまると、ひょっとすると二番茶・三番茶の可能性があります。


玉緑茶は、元々一杯当たりの主張が強いお茶ではないため、有機栽培や二番茶以降のものとの差が大きくないことがあります。
ただ、それは味や香りの体験が薄いということではありません。毎年開催される、一般消費者もテイスティングに参加する『日本茶AWARD』では昨今、上位を占めるお茶の一つでもあります。
昨今のお茶はどうしても濃さを求める傾向が強いですので、それらへの反発として玉緑茶のような昔ながらの「清風のよう」なお茶が求められているのかもしれません。

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