茎茶と煎茶の味の違い

茎茶はその独特の香りが印象的なお茶ですが、味についても『葉より甘い』と紹介されることが少なくありません。
しかしながら、別の紹介では『葉と違い固いので、味が濃すぎずさっぱりしている』と書かれていたりもします。
実際のところ、茎茶と煎茶の味の違いはどうなのでしょうか?


1.茎茶と煎茶の甘味成分について
実は、成分の話をしますと、確かに甘味の成分は葉よりも茎の方が多いです。
例えば、旨味や甘味の代表成分であるテアニンは、根で作られます。
それが茎を通り、葉で日光を利用してカテキンへ変換されます。ですので、途中の茎の部分には葉よりも、テアニンが多いと言えるのです。

しかし実際のところ、その甘味成分は浸出時、葉よりも比較的多く抽出されるわけではありません。
葉と違い茎は固く、製造工程の”揉み”において、葉よりも細胞などの破砕が進まないためです。

よって最終的には、生産・製造工程によって多少の違いはありますが、浸出された茎茶の中の甘味成分は葉の浸出液の中のそれと比べて、大きく差をつけて多いわけではありません。


2.茎茶と煎茶の甘味の感じ方について
「でも、茎茶は甘く感じることがあります」という意見もあるのではないでしょうか。
安心してください。その意見も間違いではありません。
なぜなら、人の味覚は甘味成分からだけしか甘味を感じない、というわけではないからです。

茎茶は、細胞が葉と比べ破砕されていません。
ですので、苦味や渋味も葉と比べて浸出されにくいです。
そのため相対的に茎茶は、甘味が強く感じられやすいのです。

また、茎茶は葉よりも固く、水分含有量が多いです。
よって茎茶は保存性を良くするための乾燥工程において、葉よりも温度を高めに乾燥します。
すると、『火香』と呼ばれる焼き菓子様の香りが付加されやすくなります。

『火香』は、味覚との相乗作用によって、甘味と感知されます。
このことからも、茎茶は甘味を感じやすいのです。


3.余談:『火香』の感じられ方について
最後に『火香』について、少し深い解説を行っておきます。

上で、『火香』は”味覚との相乗作用によって”甘味と感知されると書きました。
混乱を促すようで申し訳ないのですが、実は舌の上の味覚への影響だけで言えば、『火香』は”苦味”です。

『火香』は糖とアミノ酸の結合によって起こります。
正確には良い例えではないのですが、プリンなどのカラメルをイメージしてください。
あれは砂糖を溶かし、焦がすことによって生まれますが、ほろ苦さがないでしょうか?
『火香』もほぼ同じ反応のため、味覚への直接の影響だけで言えば、正体は苦味なのです。

ですが、『火香』の場合は同時に”焼き菓子様”の香りを伴います。
この香りはお茶を飲んだ時の、喉から鼻へ返る香り”口中香”となって味覚と相乗作用を起こし、結果的には甘味と感知されるのです。
この甘味としての感じられ方の方が元々の苦味よりも強いため、最後には『火香』は”甘い”と感じられるのです。


人間の感覚というのは、実に不思議ですね。
日本茶の味わいには、このような”本来とは逆の味に感じられる”成分が多数存在します。
日本茶の中に我々は常に”幻想”を飲んでいるのかもしれません。

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