バレンタインはチョロQさ |エッセイ
砂糖は麻薬とはよく言ったもので、中でもチョコレートは昔から希少でとても高価なものだった。
今でこそスーパーで誰でも買えるが、昔の人から見るとまさに極楽浄土に見えるだろう。
昨日行った阪急百貨店のバレンタイン博覧会は特に驚くであろう。
なんたってチョコばかりなのだから、いやチョコしかないと言っても過言ではない。
それを求めて全国から人が集まり、様々な商品を手に取り口にいれる姿は一種の中毒者にも見える。
とはいえ私もその一人なのだが、弁解のためチョコよりもスコーン中毒者ということを明記しておく。
チロルチョコサイズで一粒300円は出さなくてはいけない。
別に買えなくはない。
ただ自分の電卓を叩くとエラーを吐き出すほどに、すこぶる高かった。
ガラスケースに陳列された輝くチョコレート、それを指差し笑い合うカップル達。
男性一人で来た私には結婚指輪から将来を描く眩しい姿と重なり、その場違いさは私をえらく孤独にしたものの、「サプライズで買いに来たのです」と言わんばかりの心持ちでなんとか体裁を整えていた。
そんな中一つのブースに目が止まった。
トリュフチョコがあったからだ。
外のパリッとしたチョコと中の柔らかいチョコレートのあの組み合わせが私は大好物だった。
そこは量り売りをしており、目当て以外にもアーモンドをコーティングしたもの、ウィスキーボンボンもあり、欲しいものをほしい量だけ買えるというのだ。
多少の列があり詳しく見えなかったので近づいてみていると女性店員が声をかけてきた。
「なにか気になるものありますか?」
マスク姿の女性は私より背が低く必然的に上目遣いになる。
私はチョコたちを指し示し、トリュフチョコが。と笑顔で言った。
引きつってはいないだろうか。
女性定員は、いいですよね〜とより身を乗り出して、私の顔のそばで3種類あるそれぞれの特徴を宣伝してきた。
あとから思い返せば別に聞かなくてもわかるような、ミルクは甘く、ビターはほろ苦いというものだった。
その時も気づいてはいたのだが、初対面の客に宣伝する彼女のほうが随分余裕があり、大学生くらいなのにその彼女の経験値に流されてしまっていた。
「どうです?試してみます?」
彼女の両手には容器とトング。準備も早い。
「せっかくなんで買ってみます」
かっこつけたい、良い客と思われたい、何より距離の近さが余裕をなくし、ありがとうございます!が返報性にやられたと勘違いさせた。
トリュフチョコを含むチョコ数個を取って計量へ。
量りは肉屋で見るものと同じで、gによって値段が出る仕組みだ。
私のは、と。
「…1656円?」
見間違いかと思った
(いや、5粒だろ
いやいやそんなわけ…)
変な汗をかきはじめた。
量りの女性は何か計算し始めた
(あっ、容器ごと乗せてるもんね、それは引かなきゃいけないわな)
計算器を私に提示する
「お客様のお会計1788円です」
「はい」
消費税で追い詰められ熱を帯びた身体は、澄ました顔でもって全力で隠した。
会計を終えてあの店員を見ると、次のお客に声をかけていた。
ある意味いい客だなと、自分をなんとか慰め会場をあとにした。
あんなに暑かったのにチョコレートは会場そのままに保たれ、逆にそれが何もなかったと言っているようで少し救われた。
味は至って感動もなく、それは少し悔しかった。
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