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番茶/晩茶とはなんぞや ~日本茶業界のブラックボックス あるいははぐれメタル~

よくわからないけどうまい、それが番茶である

ばばんばばんばんばん♪ばばんちゃばんばんばん♪

すごく人気があるのに、よくわからない。そんな茶マニアや日本茶インストラクター試験の受験生泣かせの茶種があります。それが番茶/晩茶です。

ほうじ茶みたいな見た目と味がするくせに、日本茶関係の本を読むとしれっと煎茶や玉露と同列に並べられていたりする(ほうじ茶や玄米茶は再加工茶として別に載っている*1)。

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(※ここからしばらくは日本茶インストラクターあるある話で長いので、サクッと番茶の説明を読みたい方は目次から次項へどうぞ)

それこそ日本茶インストラクターの試験勉強なぞしていると、

「ふーん…まず煎茶とかの葉が大きすぎる部分とぉ…バタバタ茶は地方番茶の一種でプーアル茶のように微生物で発酵する…碁石茶もそう…つまり番茶は黒茶なのか?え?京番茶は微生物関係ない?どゆこと???????」

ぷしゅーーーーーーーーーーーーーーー♨

こうして煮詰まったところに一次試験の当日が来たりするのです。

ところが、深いとこ突っ込まなくても代表的な番茶の名前・産地・淹れ方を抑えておけば一次試験の得点源になり、二次試験に至っては「どうも、番茶でーっす☆」と大変わかりやすい感じで出てきてくれて、湯冷ましも不要なチート茶種のためこちらでも案外得点源になります。はい合格(おめでとうございます!)。

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そして合格後。インストラクションや販売の現場に立って初めて

「つまるところ番茶/晩茶って一言で言うならなんですか?」

と聞かれてしまったりして、眉間にしわを寄せつつ

「(うわぁヤバい一言で答えられない)えっとぉ…いくつか種類があってぇ…お茶を何度か刈ったあと、三回目か四回目くらいに出てくる大きく育ったただの緑茶の場合とぉ…あっ、単に煎茶の中で大きい茶葉とか…あと地方によってつくり方いろいろ違ったりもするんですけどぉ…プーアル茶と似た感じのやつも…」

とお茶を濁す羽目になるのでした。めでたしめでたし…いや、答えられてないからねそれ(過去のワタクシです)。

ほんと、番茶/晩茶とはなんぞや。

*1:地方によってはほうじ茶を番茶と呼ぶこともあるそうです。さらに、それが葉ではなく茎茶だったりするケースも。ここでは、ほうじ茶(一般には緑茶の完成品を焙じたもの)は除外して話を進めます。スミマセン。

大きな葉っぱのフリースタイル部門、それが番茶というカテゴリ

さて、私の手元に一冊の本があります。その名も『番茶と日本人』📚そうそう、こういうのが欲しかったんですよ!いざ目次拝見!

…ふーん。「なんでもありの日本の番茶」…

もう一度言います、

「なんでもありの日本の番茶」

そう、番茶/晩茶ってなんでもありなんですよ…。

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とはいえ、共通項はないこともないです。とりあえず葉がでかいのは間違いないです(雑)。

もともと大きく育った葉っぱを使って作ったお茶。作り方は地方ごとに異なり、細かいところまで見ると各家庭でまちまち。

できあがった緑茶(ふつうは煎茶)から大きい葉だけをふるい分けたお茶。いわゆる「出物」の一種。頭とか柳、頭柳という別称がある。

そのどちらかを満たしているのが番茶/晩茶です。

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①は煎茶や玉露などのお茶を刈り終わり、二番目以降に伸びてきた葉を使う場合と、春に刈らず夏~冬まで伸ばしっぱなしにしている場合があります。秋や春に茶園のメンテナンス目的で刈ったもののときもあります。

②は「煎茶作ったけどなんかでかい葉混じってるから、綺麗で細くよれてるのと分けよう。ついでに独立した商品にしよう」というものです。最近はうまみ志向もあり、やや早めに採ったりする(=つまり大きな葉が入りようがない)せいかあまり見かけませんね。

…まぁ、なので無理やりまとめると「番茶/晩茶とは、(理由はどうあれ)大きく育った茶葉からなる、フリースタイルなカテゴリ」というのがまぁ適切でしょう…というところです。

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言い換えると”製法”で分類されたわけではなく、特に規定がないため、摘採後すぐゆでたり蒸したりして乾かしたような、無理矢理分類するなら緑茶かな…?というもの、煎茶から大きすぎる葉を分離した間違いなく緑茶と言えるもの、蒸したあと樽などに入れて微生物による発酵を待つ黒茶の仲間…と、ほんとうに「なんでもあり」なのです。

ちなみに「番茶」表記は一番茶、二番茶…の「番」から、「晩茶」は遅い時期に摘むから「晩」なのだと言われます。

でかい葉っぱ、製法も摘み時も茶種もまちまち…書いてても自信がなくなってくる…🍂

番茶/晩茶をならべてゆくよ

こんなに悩ましいのは、そもそも番茶/晩茶が庶民の日常に根付いた普段使いの茶だからという側面が大きいのでは…と思います。

煮出してザバザバ飲んだりお粥の味付けにするためにつくったり、塩を入れて泡立てて漬物のお供としたり…いつのまにか発生し、各所でフリースタイルに発展してきたものです

抹茶も時代ごとに姿が変わってきましたが、こちらは上流階級での消費が多かったので、栽培法や製法に少しずつ「抹茶とはこういうものである」という決まりができてゆきました(庶民が一切口にしなかったわけではないですが)。煎茶は江戸末期からの輸出にあたり一定の質をキープするため、やはり決まりができました。

番茶/晩茶は基本的には気軽に作り、気軽に飲むものだったのでそこからもれました。もしくは輸出品の基準に合わず、消えてゆきました。

基本的には…と書いたのは、興味深いことに、産地イコール消費地ではない商品性の高い番茶も存在するからです。例えば高知県の碁石茶は産地では消費されていません(後述)。最初から商品として始まったのではないか、という説があります。ただそれも、消費地では日常的に茶粥に使われていました。

さて、そんな彩り豊かでフリースタイルな番茶を並べて行ってみましょう!

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🍂京番茶(京都)

玉露や煎茶を摘んだあと、大きな葉を枝ごと刈り、蒸して乾かしてから鉄釜で炒ります。

スモーキーなのが特徴と言われ、実際他の番茶と比べるとスモーキーですが、元々はそうでもなかったとか諸説あり。

個人的に一番納得の推察は「昔はほんのりスモーキー程度だったが、昔よりも工場の気密性が高くなりスモーキーさが増し、スモーキーなイメージがついたものだからよりスモーキーに…」というもの。

キャラメリゼした甘いものに合います。クレームブリュレとかいいですね!

🍂美作番茶(岡山)

硬く大きく育った葉を枝ごと刈り、煮ます。この際煮汁をとっておき、煮た葉をむしろの上に広げて煮汁をかけながら天日干しします

煮る→干すはシンプルですが、良く思い付きましたよねこの製法…梅雨明けの暑さ厳しい時期なので、地表が40℃ほどになることもあるとか。煮汁のおかげで、つやつやと黒光りした見た目になります。

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ちょろっと「輸出にあたってのレギュレーション設定や煎茶奨励のあおりで消えた番茶もある」と書きましたが、美作番茶は地元の人がそれをはね除けた生き残り組です。

幕末の頃、財政難だった上州沼田藩(岡山のこのエリアを飛び地として治めていました)が宇治製法の煎茶を作るようにと指導します。茶師を送り込み、生産と製茶の指導をしたものの、なんと地元の人が番茶好きすぎてうまくいかなかったそうで…。つまり、

伸ばしっぱなしにして番茶にしたい農家さん VS. 新芽で摘ませて煎茶にしたい藩…ファイッ!!!!

結果、煎茶の生産は伸びず幕府崩壊と共に後ろ楯も消えてしまいました。今もすんなりした普通蒸しのおいしい煎茶が作られてはいますが、わずかです。

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まろやかさとあっさりした後口を求めるならコレ。自然乾燥なので焙煎香はありませんが、濃い茶色のほうじ茶が好きな人にはおすすめ。冷茶がむちゃくちゃ美味しい。誰に出してもだいたい喜ばれます!

🍂阿波晩茶(徳島)

漬物系黒茶(後発酵茶)。新芽を7~8月まで摘まずに硬く大きくなるまで育て、枝のほぼ全体の葉を手で摘んで茹でて揉みます。

その後、樽に酸素が入らないよう茹で汁と共に茶葉を詰め込み、重石をして2週間~1か月ほど漬け込んでおきます。樽から出したら、2~3日かけて天日で乾かして完成。

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現在は煎茶などに使う機械で揉んでいるそうですが、かつては「茶摺り船(ちゃすりぶね)」という道具で揉んでいたそうです。

漬け込んでる間に乳酸菌による発酵が進むので、漬けこむ期間で酸味の強さが変わる傾向にあります。…傾向というのは、なにか他にも酸味の要因があるらしく、たまに逆転しているのもあるから。また、漬けるときの桶の素材、重石の具合によって各戸ごとの個性が生まれます。

意外な組み合わせですが、イチゴやヨーグルトによく合います。軽いチーズケーキにも合うのでは…?

🍂碁石茶(高知)

漬物系黒茶(後発酵茶)。まず真菌(カビ)で発酵させたのち、桶で漬け込んで乳酸菌で発酵させる二段階発酵のお茶です。

やはり新芽を7月ごろまで摘まずに硬くなるのを待ち、枝のほぼ全体の葉を手でしごき摘みします。摘んだ葉を1時間~1時間半蒸し、水をかけて冷やしてから桶に入れ、白カビが自然発生するのを待つこと7日。こちらもむしろに広げて簡単に揉んでから、ビニールを敷いた桶にぎゅうぎゅうに詰め込み重石をのせて1週間。今度はぬか漬けのように、乳酸菌による発酵が進みます。

取り出したら四角にカット。天気の良い日にむしろの上に広げて自然乾燥させてできあがり…ちなみに乾燥に3日かかるとか…。

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この項の最初で少し触れた通り、碁石茶はそのほとんどが瀬戸内海の塩飽諸島(香川県)へ出荷され、江戸時代にも土佐藩の名産品として記録されていながら、産地である現在の高知県大豊町一帯では消費されていなかったそうです。完全に商品として作られていた、と。

塩飽諸島が碁石茶を求めた理由は、米がとれない土地なので、希少な米を茶粥にして少しでも膨らませて食べるためでした。大豊町は棚田が有名とのことで、少なくとも塩飽諸島よりはお米に困らなさそうなところも興味深いです。

癖になる酸味があるものの、元々の用途である茶粥に使って長時間煮込むと酸味が飛び、他になにも使わなくても小豆粥のような味になります。瀬戸内の島々の、塩気のある水と相性がよかったそうです。

※農林水産省のレシピ集「うちの郷土料理」でも香川県の茶粥として載っています!

出典:農林水産省Webサイト 「うちの郷土料理 香川県:島の茶粥」


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現在は紙パック入りのものが成城石井などで販売されており、また微生物発酵による円い口当たりがお酒に通ずるのか、ノンアルコールに力を入れているレストランでも人気上昇中、と聞き及んでいます…昔とは違う形で、再び商品性の高さを発揮してますね。

また、ブランド化と共に値段もきっちり手間とレア度に応じて設定されたようで、20g入りが1300円前後~と、番茶/晩茶の中ではトップクラス、煎茶と比べても高めのお値段です(いいと思う)。

それゆえテレビの格付け番組でそのへんの草・煎茶・碁石茶が並べられ、どれが高級茶か当ててみて!!なんて企画に使われて「酸っぱいのになぜか高級茶」という不名誉な評価を得ていましたが、作り方も味もレア度も普通の煎茶と全く異なるため、企画自体がナンセンスです。すっぱくておいしいよ。

🍂石槌黒茶(愛媛)

漬物系黒茶(後発酵茶)。こちらも碁石茶同様の二段階発酵ですが、真菌発酵と乳酸菌発酵の間に茶葉を揉む作業が入ります。

新芽を7月ごろまで摘まずに硬くなるのを待ち、枝のほぼ全体の葉を手でしごき摘みします。摘んだ葉を1時間~1時間半蒸し、水をかけて冷やしてから桶に入れ、白カビが自然発生するのを7日ほど待機。むしろに広げて簡単に揉んだら、ビニールを敷いた桶にぎゅうぎゅうに詰め込み、重石をのせて1週間ほど置き、天気の良い日にむしろの上に広げて自然乾燥させたらできあがり。

…実は飲んだことないです。こちらは飲用の他、茶粥や染め物に利用されていたそうで。

🍂バタバタ茶(富山)

富山県朝日町蛭谷(びるだん)で作られる、四国以外でただひとつの後発酵系番茶、つまり黒茶。また、日本に現存する後発酵系の番茶で唯一、真菌(カビ)による好気発酵”のみ“で作られる。酸素ないとカビって死ぬんですね…(いまさら)。

刈るのは7月下旬~8月上旬。刈った茶葉を少し刻み、大きすぎる枝を抜いてまずは蒸します。

その後、室(むろ)と呼ばれる槽みたいなものに入れ、発酵が始まって自然に発熱するのを待ち、約60℃をキープするために2、3日ごとに混ぜ返します(この作業を「切り返し」と言います)。

40日かけて発酵させ、天日干しして完成でーす!!…って、大変すぎやしませんかこれ…

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じつはこのバタバタ茶、もともと朝日町では消費されるものの生産はされておらず、福井から購入していたのが生産終了…富山の別の町に産地が移ってそこから購入するようになり、さらにその町も生産をやめてしまったため、朝日町の有志の方々がつくるようになったという経緯があるそうです。

なぜそこまでして作るかというと、町の人の集まりに必要だから。毎週誰かしらの月命日に集まり、料理とお茶でワイワイやるのにバタバタ茶はマスト。「こっそり茶」という習慣もあり、これはバタバタ茶を囲んだ女子会のようなものらしいですね。

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飲むときは布袋に入れて1時間ほど煮出したものを、五郎八茶碗という茶碗にとり、塩を入れて茶筅で泡立て、塩気の強い漬物をお茶請けにして嗜みます。茶筅も独特の夫婦茶筅というもの。泡立てることで大変クリーミーになります。

富山県 朝日町 バタバタ茶 【朝日町TV とやま】

味は普段使い用のプーアル散茶にバターっぽい香りを加えたような感じ。名前忘れたけどレンガみたいな黒茶にもちょっと似てるような…。パウンドケーキに合います。また、塩を加えて茶筅で泡立てたものはスープとお茶の中間のようで不思議です。

🍂土佐番茶(高知)

「碁石茶が高知でで飲まれないのなら、地元の人は何を飲んでるのさ!」って思われるかと思います。実は高知、隠れたお茶の名産地でもあり、色々なところにお茶の木があります。


🍂足助寒茶(愛知)

足助と書いて「あすけ」と読みます。寒茶ってなにが寒いのか?というと、採る時期です。寒さマキシマムの1-2月頃に摘みます。枝ごと1時間蒸します。そして乾かします。おわり…つまりシンプルイズベスト!タイプの番茶です。

足助産のものはどうやらイベントで作られているらしく飲んだことはないのですが、類似の番茶を飲んだことがあります。素朴ながら、甘みのある美味しい番茶です。

【足助寒茶の作り方】


🍂カッポ茶(宮崎)

山に入ってそのへんに生えてるヤマチャを刈り、火で炙ったのちカットした竹の器に水と一緒に入れ、焚き火の周りに刺して煮出す。ワイルドだぜぇ…。どうも、お酒でも同じようなことをするようです。

🍂まぐそ茶(兵庫)

名前しか伝わっておらず、製法もなにも喪われてしまって全くわからない謎の番茶。名前的に固めるタイプの黒茶の一種だったかもしれない、碁石茶に似ていたのではとかなんとか。どんなビジュアルだったのかすごく気になる🐴

晩茶/番茶は文化の生き証人

さて今回も長くなりました。

辞書によっては「番茶は下級茶」とされており、400年前の日葡辞書にもそうあるようです。

ですが、番茶/晩茶はザブザブ飲み、使うために生まれ愛されてきたお茶です。大きくそだった茶葉を使ったりしているので、うまみや奥行きのある一番茶の抹茶や煎茶に対してどうしても安くなる。結果的に安かったというだけで、決して「下級」と比べられ、蔑まれるようなものではありません。貴重な庶民のお茶文化の遺産であり、青製煎茶以前のお茶を知るキーでもあります。

熱湯で簡単に淹れられるので、見つけたら試してみてくださいね🍵




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