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心化論

2023/12/20

「心が死ぬ時っていつだと思う?」
「体が死んだ時かな」
「ロマンがないなぁー」
「はいはい悪かったねロマンに欠けて」
「私は、心が死ぬのは音楽を楽しめなくなった時だと思うの」
「それは君が特別音楽が好きだからじゃないか? ロマンの有無は僕には判断しかねるけど、普遍性がないね。却下」
「待て待て解説を聞いてくれよ。あのね、音楽ってのはただの音じゃないんだ。音楽には必ず暗いとか明るいとかいう印象が付いてきて、映像を伴うんだ」
「映像……?」
「そう。例えばね、ある人は軽やかで楽しい音楽を聴いて素敵な花畑の映像を瞼の裏に浮かべるかもしれない。ある人は暗くて重い音楽を聴いて自分がどしゃ降りの雨に晒されている映像を思い出すかもしれない。音楽は音だけじゃなくて、映像を伴って心に訴えかけてくるのさ」
「……つまり、複数の要素で心を動かす音楽でさえも心を楽しませることができなかったら、その時点で心は死んでいるってこと?」
「そういうこと。これが私の持論」
「ふーん、なんか思ったよりも理論的だったからあまりロマンを感じなかったな」
「いいの。ロマンがあるかどうかは私が決めるから」
「自己中」
「うるさい」
「僕はね」
「うん」
「心が死ぬのは、他者との関わりがなくなった時だと思う」
「ほう、その心は?」
「心っていうのは一人だけで持てるものじゃなくて、誰かとの間に生まれるものだと思うんだ。友達だって家族だって恋人だっていい。愛犬だっていいさ。彼ら彼女らと接する中で心が生まれる。その中で心が育つ。だから誰とも関わらなかったら、心は死ぬ」
「へえ」
「どう?」
「ロマンじゃん」

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