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雲ノ平山荘アーティストインレジデンスの記録

こんにちは、只野です。久しぶりの投稿になります。
先月まで「雲ノ平山荘アーティストインレジデンスプログラム」というものに参加していました。


このプログラムで私は、富山県雲ノ平に18日間滞在し、山での暮らしの中でスケッチや制作を行っていました。

雲ノ平…日本の北アルプスにある山岳地帯のこと。どの登山口からも片道10時間以上かかり、日本最後の秘境と呼ばれます。標高2550メートルくらいで、周囲は2900メートル前後の山々に囲まれています。

雲ノ平山荘…秘境雲ノ平に建つ山荘。今回のレジデンスを主催しています。会う人皆が「日本で1番綺麗な山荘だと思う」と話していました。雄大な景色に囲まれた、とても文化的な空間という印象です。

アーティストインレジデンス…アーティストがレジデンス場所に滞在し、制作するプログラムのこと。アーティストやレジデンス場所にとって、新しい視点や何かが生み出されることが期待されています。

今回のnoteでは、アーティストインレジデンスとして過ごした雲ノ平での18日間の日々のことを書いていきたいと思います。雲ノ平で見たものや活動の備忘録という形で、読んでいただければ幸いです。


はじめに

この活動に応募した理由は、私が景色をよく描き、イマジナリーな景色を描く上でも、もっと現実の美しい色や形、空気を知りたかったことにあります。(作品については詳しくはWEBサイトをご覧ください)

雲ノ平という場所はそんな私にとってとても未知の魅力に溢れていました。

そのため、滞在ではスケッチもしながら雲ノ平の表情をできるだけ多く見て感じ取ることを目的に過ごしました。

そして実は私は登山初心者です。初心者というか、雲ノ平のレジデンスに参加するために登山を始めたのです…。

(登山用具について知ったのが今年3月、登ったのが8月なので、準備期間だけで初めての体験ばかりだったのですが、この「登山初心者が5ヶ月で北アルプス雲ノ平に行くまでにしたこと」の話はまた次回してみたいと思います。)

そんな私からすると、当初は片道12時間も登山して雲ノ平に辿り着くことは大変なことに感じていましたが、レジデンスを振り返るとやはり本当に行ってよかった…!!と感じる唯一無二な日々となりました。


一泊二日の登山、雲ノ平へ

さて、富山県折立から歩くこと一泊二日。途中山小屋に泊まり、岩だらけの急登(崖かと思いました)を2時間登り…

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ガンバレ!の文字が情にも無情にも思える。

コースタイムおよそ12時間の単独登山の末辿り着いたのが、雲ノ平でした。


秘境、雲ノ平

8月末から9月上旬の晴れの日は空の青さと大地の黄緑が美しく、岩の黒がランダムに並びます。

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山荘のすぐ目の前に、この景色が広がっています。

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台地とも盆地とも言えぬ平な高山地帯の雲ノ平を、さらに高い山々が質や形を変えながら囲んでいます。

山々の形は変わりませんが、目の前の景色は毎日違う明るさと色を見せてくれます。

私がこの場所で何度も見とれていたのは足元の岩に咲くチングルマの群生と、あちこちにある池塘(ちとう)でした。

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花が散った後のチングルマのピンク色がとても綺麗。

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日数が経つと、触れると飛んでいきそうなふわふわの綿毛になります。

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木道横など雲ノ平ではあちこちにある池塘。
雨の日の翌日の池塘は、水で満たされて、いつもより澄んだ空をその水面に写していました。

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雲ノ平での制作

雲ノ平にいると、周囲の特徴的な山々が目に入ります。
滞在を通して、自然の形や空気を自分の引き出しに取り入れたかったため、最初の数日はまずスケッチをしていました。

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大体いつも一箇所につき2、3時間ほど腰を据えてスケッチをします。

薬師岳、水晶岳、三俣蓮華岳、祖父岳から見た槍ヶ岳方面…

天候も様々な数日の間に山荘付近を歩いて周り、山々の形をインプットしていきました。

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撮った写真を後から見て描くのとはまた違う、その場の時間と空気を感じ取りながら描くスケッチはなぜかよく記憶に残るし、本当に楽しい時間です。


制作の壁と、乗り越えた先

今回私はスケッチブックとは別に、F20号(727mm×606mm)の和紙貼りパネルを持って行っていました。雲ノ平でのレジデンスを通して最終的に日本画の作品を仕上げるためです。

作品では雲ノ平の素晴らしいところ全てを描きたいと思っていました。連日のスケッチや散策で欲しい構図や素材を集めたところで下書きを始めます。ところが…

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なんだかしっくりきません。絶望の日。気持ちを表すかのように立ち込める雲。

山荘のオーナー伊藤二朗さんに相談すると様々な画集や図録を出してもらいました。雪舟、小山義治、ゴッホ、クリムト…夜にフレデリック・バックの「木を植えた男」の上映があり、最高の作品だったなあと思いながら自分は何を描きたいのだろうと一晩眠りました。

翌日、これまでのスケッチや義務感を全て忘れて絵の具でエスキースを描いた時、何かが拓けました。

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これだ…これを描きたい…そんなエスキースがこの一枚でした。私にとっての雲ノ平は表情の変わる広い空と、それを映し出す池塘の水面、そしてそれらをいつも変わることなく取り囲む山々でした。

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光の取り込める場所で制作を進めてきます。

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外が真っ白になる日も。

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雨が続いた日の後は空気が特別に清々しく、外を見ると素晴らしい色彩が輝いている雲ノ平山荘で制作できた時間は、本当にこの上ないものでした。


作品は、持っていった絵具の都合から、山荘では途中まで進めて荷下ろしとなりました。これから完成へと向かいます。

12月14日から宮城県仙台市秋保の佐々木美術館で個展をする予定なので、完成作品やスケッチも展示できたらなと思っています。


番外編、雲ノ平とその周辺

せっかくなので滞在中に見れたものをもう少し載せてみたいと思います。

9月7日、初霜が降りました。

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あたり一面真っ白でキラキラして、静止した世界でした。チングルマの綿毛1本1本が凍りついていて寒そう。

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雨が続くと、雨水が集まり川のように蛇行します。晴れると一瞬で水が引いていくので不思議です。

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そしてよく晴れた日は無数の星が見れます。山の下では明るくて見れないような流れ星も、しばらく佇んでいると視界の端できらめきます。


この他にも滞在中は、摩訶不思議な森と湿地と温泉のある「高天原」

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アルプスを見渡す大展望「水晶岳」

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黒部川の始まり「黒部源流」

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など想像以上に色々な場所へ歩いていくことができました。


おわりに、雲ノ平での滞在制作を通して得たもの

滞在中は、山荘や山を歩いてる途中ではスマホの電波は通じず、私は自然に囲まれながら限られた人や情報とだけ接していました。

触れる情報や使えるモノもいつもより少ないですが、目の前にある毎日の景色や感動を受け取って、山荘の人々と会話をする日々の中で、ある気づきがふと頭の中にやってきました。

山の上にはモノも人も思想の数も下界より「ない」のに、私の思うことや、辿り着きたい解や理想などはこの世界のどこかに「ある」ように感じたのです。
一方で山の下ではモノも人も思想も沢山「ある」のに、私は私と同じものや探しているものはこの世界に見つけ出せないと、「ない」と感じていたと気づきました。

滞在を通して得たものは沢山ありますが、私は私のこの気づきと「ある」という希望を得られたことがとても貴重だったなと感じています。

こういう自分にとっての大事な気づきがある場所というのは世界で無数にあるのかもしれませんが、私にとって雲ノ平はそんな場所になりました。(正確には祖父岳山頂にいた瞬間)


最後少し抽象的な話になりましたが、

歩く間に考えたこと、気づいたこと、経験したこと、山荘で出会った人々と会話したこと、語りたいことは沢山ありますが、今日はこれで終わりにします。

今後も、雲ノ平山荘アーティストインレジデンスプログラムの活動や関連情報は更新されたり、お知らせすることはあると思いますのでどうぞこれからもよろしくお願いします。

このレジデンスで見たもの、感じたことを自分の引き出しに入れて、これからの制作でも自分の世界を生み出していきたいです。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

只野







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