市民参加型合意形成プラットフォーム「加古川市版Decidim」
Decidim(デシディム)を加古川市において運用するにあたり、よく問い合わせを受けたりする内容について記録として書くものです。
あくまで個人の所感によるものですので、所属団体の見解ではなく、記憶違いや事実誤認も含まれますことをご了承ください。
イントロダクション
2020年10月30日、加古川市において市民参加型合意形成プラットフォーム(以下「加古川市版Decidim」)が稼働しました。
スペイン・カタルーニャ語の「決定しよう」または「決定する」という意味を持つ「Decidim」は、参加型民主主義のためのデジタルプラットフォームとして構築されているものです。
日本初の導入事例でもあり、物珍しさなのか様々なメディアにおいてもご紹介いただきました。
1月には、加古川市版Decidimをサポートしてくださっている Code for Japan 東さんが、「情報モラル啓発セミナー in 兵庫」において講演され、その内容について記事にしてくださってます。
なぜ導入したのか
すべては、Code for Japan 関さんが書かれたFacebookへの投稿と以下の記事から始まりました。
投稿された直後ぐらいに関さんへアプローチし、スマートシティへの取組状況やそもそも「スマートシティって誰のためにやるんだっけ?」というところにもやもやした想い(先進技術を入れることが目的化している)があったので、その辺りについて意見交換する中で、「加古川市スマートシティ構想」を策定する意見収集ツールとしてDecidimを紹介していただきました。
タイミングよくCode for Japanが日本語化プロジェクトを進めようとされていたので、加古川市で試験的に導入してみましょうということで話が進むこととなったわけです。
導入に際してはというよりも、「DIY都市」の実現に向けて、やはり地域に住んでいる人たちの意見をしっかり聴きながら一緒にまちづくりを行っていくという考え方がやはり重要だと思っています。
一方で、行政ばかりでまちづくりもできませんし、住んでいる人たちは言いたいことばかりを言えばいいというものではありません。
無いものねだりするよりも「自分たちで、できることからどんどんやっていく。」これが大事なのではないかと考えます。
リリースに向けて
今年度中に「スマートシティ構想」を策定することは決まっていたので、そのスケジュールにあわせて、リリース日を10月中と定めて準備をすすめることになりました。
Code for JapanのSlackにおいて日本語化プロジェクトが立ち上がり、50名近くのメンバーがGitHub上において多くのIssue(いわゆる課題提案)を挙げ解決を行っていただきました。
一方、スペイン バルセロナ発祥のDecidim独特の考え方や文化の違いに戸惑いながらも、日本語の文章として明らかにおかしいものを優先的に修正していきましたが、「参加型プロセス」「参加スペース」といったDecidimの思想に基づく言葉については、現状そのままとしてます。
とはいっても、意味合いがよくわからないので、加古川市版Decidimでは以下のような注釈を各ページに表示しています。
加古川市版Decidimの運用について
構想策定のスケジュールや既存ルールを鑑み、加古川市版Decidim上における「加古川市スマートシティ構想」の意見募集に際しては3つのフェーズを準備しました。
アイデア収集フェーズでは、後述するオフラインミーティングを開催し、オンライン上の加古川市版Decidimへ意見反映などを行いました。
加古川市版Decidimの特徴
Decidimには「ページ」「ミーティング」「提案」「予算」「調査」「アカウンタビリティ」「ディベート」「並べ替え」「ブログ」といったコンポーネント(構成要素)が用意されています。
それぞれのコンポーネントの意味合いは、本家サイトDecidim Developers Documentationに非常に難解な解説が掲載されています。
いきなり全ての機能を使うと色んな意味で大混乱が生じますので、加古川市版Decidimでは、ディベートとブログしか使っていません。これだけでも十分な議論が可能な構成となっています。
また、投稿内容は、議論の透明性の確保のため、利用規約に反しない限りは削除されない仕組みとしています。
加古川市版Decidimの特徴として、「投稿者の心理的安全性の確保」というが挙げられます。本家Decidimは「ユーザへSMSコードを送信」「ユーザーの身分証明書の写真をアップロード」などの本人確認方法をとっており、投稿する際も実名表記が求められているようです。
この機能をカスタマイズせず、そのまま運用することも検討しましたが、意見の収集しやすさなども考慮し、投稿時には「表示名」と「ニックネーム」の表示にとどめ、ユーザー登録時に「本名」「住所」「生年」を記入いただき表示しないという運用としています。
オフラインミーティングの開催
Decidimには、オンラインとオフラインを融合させ、議論をより良いものにしていくという考え方があります。
今回の「スマートシティ構想」の意見収集では、オンラインだけでなくオフラインでも意見を聞くこととし、2回のワークショップを開催しました。
11月18日には、地元の加古川東高等学校理数科40名の生徒の皆さんと「加古川市スマートシティ構想」のワークショップをCode for Japanのご協力のもと実施しました。
その週末の11月21日には、ワークショップ「みんなでつくろうスマートシティ」を開催し、様々な意見交換を行っていただきました。
その内容については、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターでも記事にしていただきました。
Decidimでオンラインツールじゃないのと思われる方もいらしゃったりしますが、重要なのは「オンラインとオフラインの融合」をコンセプトにしている点です。ワークショップ開催後には、明らかにオンライン側への意見が増えていく傾向が見られています。
こういった「オンラインとオフライン」での話し合いを繰り返すことで、お互いの理解度もより高いものとなるのではないでしょうか。
今後の展望
今後、様々な団体が参加型民主主義のツールを入れていくこととなりそうですが、ツールはあくまでツールですので、それぞれのユーザーや主催者側のゴール設定によっても全く異なる結果を生み出すこととなりそうです。
もちろん、参加者からのコメントの書きやすさも、主催者側のゴール設定により印象は異なります。
加古川市版Decidimは、コメント総数からすると訂正コメントなども含め、260件近くのコメントが寄せられました。その後、他団体からもどうだったかということで問い合わせが寄せられています。
Decidimを入れることが目的ではない(加古川市ではスマートシティを市民と一緒に実現ことが目的)ので、その辺りの意味合いがおかしくならないようにちゃんと伝えていくことが必要です。
スマートシティやDXでよく起こりがちな「ツールを入れることがゴール」とならないかが心配なところです。
もう一度、原点に立ち返って考える必要があります。
Appendix
以下は、Code for Japan Summit 2020 Day1 Track3-3「DIY都市を実現する参加型ルールメイキング」において、当日の質問でチャットに流されたものに対し、後日Facebook上においてコメントしたものです。
当時の考え方と実際に運用してみて変わってきたところもあるかもしれませんが、今後導入される方々へのヒントになれば幸いです。
(回答)ご質問にありますように時期は見る必要はあると思いますが、事業評価にも活用できる可能性はあると思います。結局、市民の意見をどこで反映させるかという仕組みの問題ではないかと思います。
(回答)それも含めて意見を聞くことの重要性があると考えます。むしろ聞かなくていいというルールは存在していないと思います。
(回答)平成29年度までは毎年10月に公開事業評価を実施していました。市議会では、市政執行に対する評価・監視機能として決算審査に加え、平成27年度より議会事務事業評価を実施しています。
(回答)まだDecidimを公開していませんのでどのぐらいの反応があるかわかりませんが、少なくともパブリックコメントを上回る数を集めたいと考えています。
(回答)今回の「加古川市スマートシティ構想」を策定するに当たっては、Decidimを運用する期間において、オンラインだけでなくオフラインでも意見徴収を行う予定です。また、Decidim運用後にパブリックコメントを実施しますので、使用層が異なるというよりもさらに使用層が増えるという考え方です。
(回答)あくまでも従来の意見聴取の方法に加えて新たなチャネルが増えるという理解です。
(回答)議会の皆さんも当然Decidimに参加できる権利はお持ちですし、むしろご参加いただきたいと思っています。従前においても議員の皆さんが有権者全ての意見を聞くということにご苦労をされていると思います。そういったことから、様々な意見を聞くための新たなチャネルが必要と考えています。
(回答)市民利用度目標は現状立てていませんが、当然のようにどのぐらいの方の意見が聞けたかということは尋ねられると思っています。Decidim上ではどのぐらいの参加者がいて、どのぐらいの意見が出たかという統計画面が搭載されていますので、そういったところも全てオープンになることで、DIYという思想の浸透が図れるのではないかと思っています。
(回答)大量に意見が来ることも想定されますが、Code for Japanさまの「Code of Conduct」みたいに参加するためのルールづくりは必要かと思っています。SNSと違って透明性を担保しながらの運用となりますので、登録時における簡単な本人確認等は実施する予定です。
(回答)多くの意見が集まることによって整理は大変だろうと思いますが、まず大量に意見が集まるといった嬉しい悲鳴をあげたいところです。うまく整理するためにCode for Japanさまの知見をお借りしたいと思っています。
(回答)バルセロナでは、市民は誰もがこのプラットフォームを通じて行政に参加で着る仕組みとして取り入れられています。
詳しくは、「生活者発想でつくるスマートシティ──これからの時代の街づくりを考える」
今までの日本は行政に対して「物を言う」というよりも、行政がやることに従っていた(従わされていた)と思われているので、行政側はそう思っていなくとも市民と行政の間に暗黙の委任みたいな状態になっていたような気がします。投票率が50%前後となっている現状からしても、政治への無関心などもあるのではないかと思います。そういったことからも、住民参加で作る「DIY都市」の考え方が重要であると思います。
(回答)今回、「加古川市スマートシティ構想」策定においてDecidimを使用しますが、特に居住者に限っておらず、加古川市のスマートシティに関心のある方であればどなたでも参加できます。ただし、統計処理上、公開はしませんが氏名、住所や年齢などの属性情報は取る予定にしています。
(回答)今回、「加古川市スマートシティ構想」策定においてDecidimを使用します。今回運用する中での効果やおそらく加古川市の動きをみて他自治体も導入されるでしょうから、そういった状況を見ながらPDCAを回せる仕組みの導入を検討したいと思います。
オープンデータを活用したEBPMや行政の説明責任にも使えるのではないかと思っています。
(回答)登録時に氏名、住所や年齢などの属性情報は取る予定にしています。ただし、発言の際などにおいては、本人氏名は公表しません。
(回答)どのようにして「声なき声」を拾い上げるかはどのようなツールを使っても同様の課題はあると考えています。とは言いながら、UIなどを工夫することでより発言しやすい形も取れるのではないかと思っています。
(回答)令和2年10月15日にCode for Japanさまと「加古川市におけるスマートシティの推進に関する協定」を締結しました。
この協定では「住民対話・参画を促す「DIY都市」の考えに基づいたスマートシティ推進のための活動に関すること」とあり、Decidimの運用におけるファシリテーションを行っていただくこととしています。
(回答)Code for Japan代表の関さんと「市民参加型合意形成プラットフォーム」の話をしている中で決まりました。
特段「Decidim」でとか「vTaiwan」でというところにこだわっているわけではなく、市民参加の合意形成がオンラインなどで取れる仕組みを探した結果となります。