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TDB-CAREE 2023年度シンポジウム 『企業データを活用した戦略・政策効果研究』開催報告

2024年3月14日(木)に、TDB-CAREEシンポジウムを開催しましたので、当日の様子や発表内容についてご報告します。

本シンポジウムは、一橋大学と帝国データバンクの連携・協力協定に基づいて設立された「一橋大学経済学研究科 帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター(TDB-CAREE)」の研究成果を報告する場として2018年度から毎年開催されています。
今年は、当センター研究員である若手研究者からの発表に加えて、近年注目を集めるイノベーションの支援の在り方についてパネルディスカッションが行われました。

プログラム

14:00 開会の挨拶
 大月康弘  一橋大学 理事・副学長
 岡室博之 一橋大学大学院経済学研究科/TDB-CAREE センター長

14:05-15:05 第一部: TDB-CAREE発の研究成果
発表1:生産ネットワークと研究開発の効率性
 小池泰貴 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) 博士課程
発表2:地方金融機関の統合が貸出市場に与える影響について
 釜下美奈子 一橋大学大学院経済学研究科 修士課程

15:15-16:25 第二部: 「研究開発支援の経済学─エビデンスに基づく政策立案に向けて」
 エコノミスト賞受賞記念講演 岡室博之
 パネルディスカッション

  川上悟史 経済産業省 大学連携推進室長
  藤井辰紀 日本政策金融公庫総合研究所 副所長
 

16:25-16:30 閉会の挨拶
 後藤健夫 株式会社帝国データバンク 常務取締役/TDB-CAREE 副センター長

司会:原泰史 神戸大学経営学研究科

開会の挨拶

開会の挨拶は、大月康弘(一橋大学理事・副学長)、岡室博之(一橋大学大学院経済学研究科/TDB-CAREE センター長)から行いました。

一橋大学 理事・副学長 大月康弘氏

第一部: TDB-CAREE発の研究成果

発表1: 「生産ネットワークと研究開発の効率性」

小池泰貴 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) 博士課程

小池氏からは「生産ネットワークと研究開発の効率性」のタイトルで、企業のサプライチェーンの状態と研究開発の成果の関わりについての分析とモデル化の試みについて報告が行われました。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) 博士課程 小池泰貴氏

企業は複雑なネットワークのなかでビジネスを行なっています。
研究開発についてももちろん同様で、社内リソースだけが要因となるのではなく、社外にどのようなサプライチェーンを持っているかにも影響を受けています。
では、サプライチェーンの取引関係という市場メカニズムに研究開発を任せていた場合に、社会的にみて研究開発には本当に最適な投資が行われているのかということが問いです。

取引関係にある企業間に共通する性質

帝国データバンクのデータには、企業の財務情報や設立年などの情報の他に、取引先企業の情報も入っています。このデータがしかも膨大に存在しているのは世界でも例がないことで、ミクロデータの積み上げからマクロ経済を理解しようとする試みにおいて、非常に有用なデータです。

取引関係にある企業の性質についての実証分析では、次の傾向がみえてきました。
・企業の年齢とともに取引相手企業の数は増加
・企業の年齢が高くなるにつれて、取引相手企業の年齢平均も高くなる
・取引関係は基本的に長期間継続する

これらの分析結果と合わせ、企業の研究開発の成果を測る指標として、保有するパテント(特許)の数とつきあわせた分析をさらに行ったところ、
・取引関係の増加は研究開発を活性化させる
傾向にあることがわかりました。

サプライチェーンと研究開発のマクロ経済モデル

小池氏からはさらに、実証分析の結果をもとにした経済モデルを作り、シミュレーションをおこなった結果も報告されました。
従来、企業間取引について時系列での変化を追うシミュレーションは、計算量が大きくなりすぎるため実行不可能でした。小池氏は、企業年齢による取引関係の傾向変化(年齢依存性)をふまえることで、計算可能なモデルを作ることができたといいます。

また、このシミュレーションの結果、研究開発を市場のメカニズムに任せた場合には、研究開発の重要なリソースである人材が必ずしも最適に配置されない可能性が示唆されました。
実証分析で確認したとおり、研究開発は多数の取引関係をもつ高齢企業で盛んです。しかし、シミュレーション結果は、高齢企業は既に研究開発人材を多く雇用してはいますが、本来はさらに多くの人材を雇用するのが社会的に望ましいということを示唆しています。

なぜ最適な人材配分が行われないのか。それには3つの理由が考えられるそうです。
・生産ネットワークの外部性:新商品の価値について、最終製品としての価値だけでなく中間財としてサプライチェーンにおいて他社が受け取る価値も存在するが、開発企業はこれを過小評価しがち。
・多重マージン:多くの繋がりを持つ企業は中間財取引のたびにマージンが乗るため、得られる利益が本来よりも小さくなりがち=企業規模も繋がりに比して大きくはない。
・ネットワークの中心にいることにより、開発によって得られる利益が小さくなりがちなため、開発投資も小さくなりがち。

取引ネットワークの中心にいる企業の研究開発の活性化に対して、投資によるさらなる効率化の可能性があることが示唆されました。

今後の分析では、社会全体でみた研究開発の活性化をさらに促すための政策がテーマとなるそうです。補助金などの支援やインセンティブを、サプライチェーンのどこにいる企業に出せば研究開発が進むのか、さらに分析をおこなりたいとのことでした。

発表2: 「地方金融機関の統合が貸出市場に与える影響について」

釜下美奈子 一橋大学大学院経済学研究科 修士課程

釜下氏からは、「地方金融機関の統合が貸出市場に与える影響について」と題し、経営統合によってシェアを高めた金融機関と地域企業との貸出関係におけるパワーバランスへの影響について報告がありました。

一橋大学大学院経済学研究科 修士課程 釜下美奈子氏

企業経営において資金調達をどのように行うかは、長期的な利益や経営判断の自由度にも関わる重要な要素です。
特に非上場の中小企業にとっては、地域の金融機関から資金調達しやすいかどうかは、経営の安心感にも大きく関わります。
釜下氏の研究は、地域の金融機関が統合・合併によってシェアを大きく高め、同地域内の中小企業向け貸出市場で独占的な立場になった事例をもとに、適切な貸出が行われるよう行われた措置について実際の効果を検証するものです。

独占禁止法特例法制定のきっかけになった十八銀行と親和銀行の合併

2019年〜2020年にかけて統合・合併が行われた十八銀行と親和銀行については、合併後の中小企業向け貸出し市場シェアが約75%にまで高まることを理由に、貸出市場の競争が十分に行われなくなることが懸念されていました。
もし、中小企業向けの貸出で、金融機関の力が一方的に強くなってしまい、貸出条件が企業にとって厳しいものになるようなことがあれば、長期的に地域産業へのダメージになりかねません。
そこで、統合においては問題解消措置として「債権譲渡」と「金利等モニタリング」の2つが講じられることになりました。

釜下氏は、TDB-CAREEから長崎県内の中小企業の決算情報と取引金融機関などのデータを収集し、この銀行合併の前後での資金調達の変化を検証しました。

分析では、十八銀行・親和銀行との取引を行っていた企業と、それ以外の銀行とも取引を行っていた企業とで、合併前後の金利・借入金比率の変化を比較しています。時系列での比較では企業規模や産業なども影響要因となりうるため、企業属性をコントロール、マッチングした上での比較分析手法(PSM-DID)です。

分析の結果、金利・借入金比率の変化については、十八銀行・親和銀行とのみ取引を行っていた企業も、それ以外の銀行との取引があった企業も、有意な差はなかったと結論づけられました。
十八銀行、親和銀行のどちらかがメインバンクであった場合や、双方との取引があった場合など、さまざまなパターンで比較を行いましたが、いずれも企業にとって資金調達が不利になることはなかったようです。
やや意外な結果としては、業界比較平均点がひくく、信用の低い企業では、統合後に金利が1〜1.1%程度下がり、借入金比率も8.7%〜12%上昇していたことです。つまり、信用の低い企業にとって資金調達環境が改善していたという結果となりました。
これは、統合によって資金余剰が増えたことで、従来は優先度を下げられていた信用の低い企業にも貸出しがされるようになったということなのかもしれません。

釜下氏は、この統合が長崎県全体に与えた影響についても検証を行なっています。

長崎県に所在する企業と、九州の他県に所在する企業について、同様に金利・借入金比率それぞれを比較しましたが、有意な差はなかったそうです。

最後に、この銀行の合併が、取引企業の業績に対して与えた影響についての分析結果についても報告がありました。
十八銀行・親和銀行、それぞれとのみ取引を行っていた企業に限定して、統合前後の業績を分析したところ、ROAについてはやや悪化傾向にあったことがわかりました。
しかし、金利や借入金比率などは特に変化がないか、先の分析と同様に企業にとってはむしろわずかに改善しており、これらが業績にとってマイナスの影響を与えたとは考えづらい状況です。今回の研究で想定した、銀行の統合による影響以外の、その他の要因がありそうということでした。

今回の分析の結果は、問題解消措置が有効に機能した可能性を示すものでした。
ただ、銀行の統合による経営効率化や、その他の要因が合併によるマイナス影響を打ち消した可能性もあります。
また、統合・合併が完了した2020年からあまり年数が経っていないことや、コロナ禍の影響なども、今後の検証の課題であるとのことでした。

第二部:「研究開発支援の経済学─エビデンスに基づく政策立案に向けて」

エコノミスト賞受賞記念講演
岡室博之 一橋大学大学院経済学研究科/TDB-CAREE センター長

岡室氏からは、2022年度エコノミスト賞、2023年度企業家研究フォーラム賞を受賞した著書「研究開発支援の経済学─エビデンスに基づく政策立案に向けて」について、概要の紹介がありました。

「研究開発支援の経済学」は、岡室氏と学習院大学 経済学部 教授の西村淳一氏による共著です。

一橋大学大学院経済学研究科/TDB-CAREE センター長 岡室博之氏

同書は、イノベーションを生み出すための研究開発への公的支援のあり方について、長年にわたる実証研究の成果をまとめたものです。
講演では、同書からクラスター政策と、自治体による支援それぞれについての実証分析的評価を紹介し、政策評価研究についての展望を語りました。

イノベーション促進にむけて適切な資源配分をするために〜政策研究の意義

統計によると、日本では研究開発の主な担い手は8割以上が民間企業であり、残る2割が大学などの研究機関です。
急速に高齢化が進んでいる日本はじめ先進国では、豊かな生活を維持するために研究開発・イノベーションがますます重要になっています。
その中で、政策資源をどこにどのように分配して研究開発を促していくのかは重要なテーマです。

すべての経済政策は基本的に市場への介入です。
民間企業の研究開発に、なぜ政策が必要なのかといえば、研究開発に「市場の失敗」が伴うからです。

市場の失敗とは、市場がうまく機能せず、需要と供給が最適水準にならない状態です。
市場の失敗にはいろいろな要素があるのですが、そのひとつが不確実性です。研究開発は必ず成功するとは限りません。成功の可能性が低く、さらに資金の提供者に企業家やプロジェクトのことがよく分からない(情報の非対称性)となると、融資も投資もなかなか集まらず、本来望ましい水準の資金が得られないことになります。つまり「市場の失敗」です。

政府による研究開発の支援パターンは、国立研究機関での基礎研究の推進や、知的財産権の保護、研究開発への補助金、共同研究の仲介・支援などがあります。同書では、公的補助金と産学官の連携について主に研究成果を紹介しています。

政策効果のエビデンス(実証的証拠)に基づく政策立案は「EBPM(Evidence Based Policy Making)」 として注目されています。EBPMが必要とされるのは、市場と同様に政府も失敗することがあるからです。
政策支援の提供にあたっては、予算や人材など政策資源の制約と、さらに情報の非対称性が存在しています。
同じ目的にも多様な政策手段があり、より良い方法を探る必要があります。
また、政策をおこなった結果、予期せざる影響や副反応・逆効果が出ることもあります。TDB-CAREEでも、取引関係を通じた効果の波及についての研究成果が報告されています。
より良い政策の設計のために、過去の政策の効果検証から学ぶことが重要です。

クラスター政策の効果検証:補助金か、つながりか

同書からの研究成果紹介の1つ目は、2001年度に経済産業省が開始した「産業クラスター計画」と、2002年度に文部科学省が開始した「知的クラスター」事業の比較分析です。

経産省の「産業クラスター計画」は、シリコンバレーをお手本に、企業と大学・研究機関などをつなげてイノベーションの活性化を狙ったものでした。
この研究にとりかかった2008年ごろは、まだ世界のどこにも同様の研究を行っているところはなく、クラスター研究の先駆けでした。

研究では、産学官連携を実施した中小企業に注目し、産業クラスター計画への参加が特許出願や被引用数にどのように影響しているのかを分析しました。

まず、調査の段階で判明したのは、産業クラスターに参加していることすら認識していない企業があったということです。クラスターとの関わりが途絶えてしまっているため、当然ながら何の変化もない状態です。
実証分析の結果も、
・参加自体には効果なし
・クラスター域外の大学との連携のほうが実は効果が高い
・ただし、地域内のクラスター中核大学との連携には効果あり
というものでした。

また、クラスターを通じて提供された支援は、補助金などのハード支援のほか、情報提供やマッチングなどのソフト支援がありました。
ハード支援には予算のおよそ9割が使用されていたのですが、効果についてソフト支援と比較したところ、ソフト支援のほうがネットワーク形成にも、研究開発の成果についても、高い効果をあげていることがわかりました。
これはなかなか事前に予想できない結果であり、実証分析をおこなう意義はこうしたところにあると言えそうです。

この経産省の「産業クラスター」とほぼ同時期に行われたのが、文科省の「知的クラスター」事業です。
目的はほぼ同じながら、文科省の事業は大学の研究者が中心で、参加企業には補助金が出ないのが特徴でした。
予算規模も文科省の方がだいぶ(3分の1以下)小さいのですが、比較分析によって判明したのは、経産省と文科省のクラスター政策で共同研究プロジェクトへの参加企業のコミットメントの強さが異なり、それが研究成果の実用化に影響していたことです。
プロジェクトへのコミットメントが同程度ならば、それぞれの参加企業の間で研究成果の実用化レベルに違いは見られませんでした。

自治体による研究開発支援

続いて紹介があったのは、市・県・国のそれぞれの研究開発補助金の効果検証です。

研究開発への支援は国だけでなく、地方への分権化を受けて県や市が独自に行なっているものもあります。
こうした自治体による研究開発支援についての研究も、あまり世界に例がないものです。

分析では、製造業の中小企業について従業者規模階層ごとに4000社ずつ、合計12000社を抽出し、それらに対してアンケート調査を実施しました。回答データをさらにTDBの企業データと突き合わせています。
企業の生産性(全要素生産性:TFP)に対して、自治体の研究開発支援がどのような影響を与えているかを分析しました。

結果、市の補助金は金額は少ないものの、県や国からの補助金と合わせて受け取っている場合、企業の生産性を高める効果(重層的支援効果)があることがわかりました。

研究開発支援においては、市レベルへの地方分権化と重層的な支援が有効であることがわかる結果でした。

地域の中小企業へ研究開発を促していくための提言としては、公的な支援の拡充はもちろん、なによりも仲介者として情報を届けること(ソフト支援)が大事だということでした。
また、地域分権化と、企業の関心を高めることが重要とのまとめでした。

パネルディスカッション と Q&A

経済産業省 大学連携推進室長 川上悟史 氏
日本政策金融公庫総合研究所副所長 藤井辰紀 氏

藤井:
2008年以降の研究の蓄積であり、海外の査読付き学術誌にも掲載された専門的な研究成果を、一般の読者向けにもわかりやすく解説いただいていると思います。
全章を通じたテーマ設定として、地域と中小企業を対象としていただいたのが、私にとってもすごく勉強になりました。

日本政策金融公庫総合研究所副所長 藤井辰紀氏

実は私自身が3つの視点を持っています。政策金融公庫としての政策実施主体の視点、研究所での研究者の視点、東北大学イノベーション研究センターで取り組んでいる企業支援の実務家の視点です。
それぞれの視点で、非常に示唆がありました。

大きく三つ申し上げますと、エコシステムの後景として政策には意義があるということ、支援効果が発現するのには条件があり、認知度を高めたりコミットメントを引き出したりするなど工夫が必要であるということ、支援の効果を高めるために相乗効果や波及効果までも視野に入れることが肝要であることです。

発表に対するご質問が三つあります。
一つ目の質問は、重層的な支援がなぜ効果が高かったのか。
国と県の補助金の組み合わせでは効果がみられなかったということを考え合わせると、単純に足し合わせた補助金の額が多かったからというだけの問題ではないように思えます。
二つ目の質問は、企業側の属性や産業、技術分野によって、支援の効果に違いがみられたかということ。
三つ目は、イノベーション支援の効果と金融機関の関わりについて、分析を通じて得られた示唆がありましたらお聞かせください。

岡室:
しっかり読んでいただきありがとうございます。
重層的支援について、現在はメカニズムの解明まではできてません。
ただ、理論的には、市が提供する支援と国が提供する支援との間に、なにか補完性があるのだと思います。
市の優位性は、支援対象の企業との距離が近いこと。市は県や国よりも地域企業の状況やニーズが分かっています。また、その地域の政策ニーズに合った支援ができる。
市は金額規模が小さくとも、専門家の紹介であるとか、企業のニーズにあった支援ができているのではないかと考えています。

二つ目の質問について、一部の分析については産業別の分析をしたこともあります。やはり企業の特性によってかなり違います。また、大企業と中小企業によっても性質が違ったりしています。
たとえば中小企業の方が大企業よりも産学連携の効果は大きかったりします。ところが波及効果は取引先が大企業の方が大きいです。

公的支援に金融機関が果たす役割としては、市の補助金と合わせて地域の金融機関のサービスが紹介されたり、地域の金融機関からも融資を受けられたりということがあるようです。ただ、現段階での分析ではそこまで厳密には追えてはいないです。

司会:続いて経済産業省の川上さんからのコメントをいただきます

川上:
経済産業省では現在、「産学融合先導モデル拠点プログラム」を展開しています。この政策構想段階から私は関わっていまして、「産業クラスター」の成果の分析もやりました。ただ、分析といっても定性的にやっていましたので、あらためて今日、岡室先生の定量的な精緻な分析をお聞きし大変勉強になりました。

「産業クラスター」が展開されていた当時は、ラフに申し上げれば、一部の旧帝大など国立大学と大企業による産学連携が行われ、地域の大学が地域の企業と連携するというケースは極めて少数だったと思います。
他方で現在は、旧帝大だけでなく、各地域にも産学連携を推進するポテンシャルのある大学が多数出てきています。

しかし、なかなかマッチングが進まない。こうしたことを踏まえて経産省で令和2年から、このような地域の大学群と地域の企業群を面的に繋げていく「産学融合先導モデル拠点創出プログラム」を北海道、北陸、関西の3地域でやっています。
先ほど申し上げたとおり、その政策構想段階では「産業クラスター」の成果を分析したわけですが、実際に「産業クラスター」に関わった方々にお話を聞いたりもしました。

経済産業省 大学連携推進室長 川上悟史氏

先ほど岡室先生のご発表の中で、産業クラスターに「参加するだけでは効果が小さい」という結果がありました。これは我々が話を聞いた中でも非常に多かった声なので、なるほど定量的に見てもそうなのかと、腹に落ちました。

一方で、クラスター地域外との連携が効果が高かったというのは、我々のほうでは意識していなかったので、率直に申し上げて大きな発見でした。今後の政策にに活かさせていただきたいと感じました。

先ほどのご発表について、質問ですが、ハード支援よりもソフト支援の方が効果が高いというのは、予算投入というインプットも加味したコスト・パフォーマンスの分析の結果だったでしょうか?

岡室:
この分析では、補助金をもらったかどうかを1/0として分析しています。
施策の金額ではなく、利用したかどうかの効果を検証しているので、ソフト支援のほうが予算がずっと少ないのに補助金等とほぼ同じだけの効果があるということは、ソフト支援のほうがコスト・パフォーマンスが高いことを示唆しています。

川上:
また、「産業クラスター」の一つの反省としては、事業終了後に、いわゆるレガシーのようなものが残らなかったということがあります。
これを踏まえ、「産学融合先導モデル拠点創出プログラム」では、参加大学毎にちゃんとコーディネーターを置いて、実際の連携・マッチングを進めるとともに事業終了後も活躍いただける大学のコーディネーターを育てることに力をいれています。

悩み相談のような形で恐縮ですが、現在我々がやっている「学融合先導モデル拠点創出プログラム」について、どのように評価できるでしょうか。
今後の政策展開の参考にアドバイスいただけると幸いです。
また、包括的な話として、こうした政策を進めていく上での注意点などお聞かせください。

岡室:
我々の研究はどうしても過去のデータを集めて、分析を行うものなので、現在行われている政策について評価することは難しいです。
ただ、基礎的な研究をおこなう大学の研究者や、企業などへのインセンティブや資源配分をどのようにするのが適切か検討することは大切です。
その上で、政府はどうしてもやりすぎの傾向があります。あれもこれもと手を広げてしまうのですが、先ほどの研究結果のように国や経産省だけでなく、地域が研究支援の主体となれるよう権限を分け与えることも大事です。
研究開発の拠点となる地域が、よその国や地域からも人材を集められるような取り組みが今後重要になってくると思います。

閉会の挨拶

最後に、株式会社帝国データバンク常務取締役/TDB-CAREE副センター長 後藤健夫氏より、閉会の挨拶がありました。

少子高齢化が進むなかでも日本が競争力を持って成長を続けていくためには、効果的・効率的な戦略を詳にしていくことが重要です。
こうした研究に取り組んでいくことも、企業のデータを大量に保有している帝国データバンクの社会的責任と考えているとの言葉で締めくくりました。

株式会社帝国データバンク常務取締役/TDB-CAREE副センター長 後藤健夫氏

まとめ

今回は会場からの質問も相次ぎ、最後のパネルディスカッションは時間が不足するほどでした。
会場にも多くのかたにご来場いただき、盛会のうちに終えることができました。
ご参加いただいた皆さま、まことにありがとうございました。

 参考リンク

https://www7.econ.hit-u.ac.jp/tdb-caree/

(文責: 一橋大学大学院経済学研究科 研究補助員 𡈽肥淳子)


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