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【米大統領選2024】トランプ支持者がAI生成画像で黒人有権者を誘導か?

近年AIの発達により、ディープフェイクと呼ばれる高度な偽画像・動画の作成が可能になっています。2024年11月の米大統領選に向けて、AIによる偽情報がすでに出回り始めており、有権者を惑わせる恐れがあります。AIに惑わされないためにどうすれば良いか、事例を見つつ考えていきましょう。

背景

2024年の米大統領選に向けて、AIで作られた偽画像がソーシャルメディアで拡散されました。BBCの調査番組「パノラマ」が報じたところによると、トランプ前大統領の支持者らが、トランプ氏と黒人有権者らが交流する様子の画像をAIで生成し、SNSに投稿していました。

この問題の背景には、前回2020年の大統領選でバイデン氏が勝利した要因として、黒人有権者の支持が大きかったことがあります。共和党側は今回、黒人票の一部でも獲得できれば、選挙の行方を左右できると考えているものと思われます。
そこでトランプ支持者は、トランプ氏が黒人層に実際以上に支持されているかのような印象を与えるため、AIで生成した画像を使いました。BBCの調査によると、保守系ラジオ番組のマーク・ケイ氏が制作したディープフェイク画像をフェイスブックに投稿し、100万人以上のフォロワーに拡散したとされています。

フェイク画像の見分け方

拡散されたトランプ氏の画像は一見すると本物そっくりの画像ですが、よく見ると細かい部分で不自然さが見て取れます。
まず、人物の肌が少しテカテカしていることが挙げられます。これはAIが人物の肌をリアルに表現するのが苦手な特徴です。特に、手の指の表現が不自然なことがあります。

AIで生成されたドナルド・トランプ前大統領と黒人女性らの画像
(トランプ氏の左手小指から何か生えている。)
AIで生成されたドナルド・トランプ前大統領と黒人男性らの画像
(トランプ氏の右手は本数が足りず、左手中指は第二関節までとなっている。)

このように、細部を見ると、AIの物体認識や画像生成の技術的な課題が現れるため、慣れればディープフェイクと見分けられるケースもあります。

ソーシャルメディア上での受け止め方

AIで偽画像を作成したケイ氏によれば、一部のフォロワーはこの画像を本物だと思い込んでいました。ケイ氏は「フォトジャーナリストではなく、ストーリーテラーだ」と開き直っているが、これではフォロワーを誤解に導く恐れがあります。
さらにBBCは、トランプ支持者のSNSアカウントが、この画像を偽の説明文とともに再投稿し、130万回以上の閲覧を記録していたことを突き止めています。一部のユーザーは画像が偽物とわかっていたが、それ以外の人々は本物だと信じていました。こうした状況では、誤った情報が拡散し、有権者の判断を誤らせてしまう可能性が高いです。

選挙で偽情報が拡散することの危険性

今回のような偽情報が拡散すれば、有権者が政治家や政策の実像を正しく認識できなくなってしまう。
例えば、トランプ氏が黒人層に実際以上に支持されているという誤解から、彼の政策や資質をゆがんで判断してしまうかもしれない。
また、今回の問題を相手陣営からの工作と捉え、お互いに反発し合うなど、有権者の二極化にもつながりかねません。
そうなれば、建設的な政策論争ができなくなり、選挙の民主的な意義が損なわれかねません。

その他の粗いディープフェイク事例

また別の例として、ウクライナ情勢をめぐって偽情報が出回った際、ゼレンスキー大統領が国民に武器を捨てロシアに降伏を呼びかける内容のディープフェイク動画があちこちで拡散されました。

しかし、この動画は質が大変雑で、肌の色味の不自然さや、顔の周りにピクセル化による歪みが見て取れるなど、明らかなに編集して作られたものでした。その雑な出来映えに、ウクライナ国内外から「子供じみた挑発行為」と嘲笑され、結局ゼレンスキー大統領自らが、この偽物の動画を一蹴する事態となりました。

まとめ

近年AIの驚異的な発展により偽情報がますます巧妙になり、見分けにくくなってきています。そのような高度な偽造コンテンツが、2024年の米大統領選挙に向けて爆発的に拡散される可能性があり、危機感が高まっています。確かにAIによって作られた画像や動画は、一見すると本物と見分けがつきにくいですが、細部を見ると粗さが現れることがわかります。特に手足の指の本数や動き、不自然な文字など、複雑な形状を捉えきれていない部分があり、そこにAI生成の痕跡が残されています。フェイク情報に対処するためには技術的な対処だけでなく、一人ひとりの情報リテラシーとメディアリテラシーを向上させることが重要です。

■「TDAI Labについて」
当社は2016年11月創業、東京大学大学院教授鳥海不二夫研究室(工学系研究科システム創成学専攻)発のAIベンチャーです。AIによる社会的リスクを扱うリーディングカンパニーとして、フェイクニュース対策や生成AIの安全な利用法について発信しています。