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2021年度 入学式の挨拶全文

新入生の皆さん、新入生のご家族の皆様、このたびは東京音楽大学 付属高等学校へのご入学、誠におめでとうございます。

コロナウィルスの感染状況が収まりを見せず、世界中の人々が、その動向を固唾を吞んで見守るという、今まで人類が経験したことのない、極めて特殊で新しい状況に、我々は向き合っています。

新入生の皆さん自身、そしてお子様を見守り、サポートし続けてこられた保護者の皆様、昨年度は大変なご苦労をされたと思います。リモートでの授業や日々の感染対策などに、大きなエネルギーや時間を取られ、気持が疲れてしまう時もお有りだったのではないかと思います。

でも皆さんは、そのエネルギー、配慮、未来に向かう希望の心をもって、ここに一つの大きな「成果」をもたらして下さった。それは、今ここに居る新入生の皆さんが、この東京音楽大学付属高等学校に入学し、ここで、我々が出会う事が出来たと言う、大きな成果です。

皆さんは、この世界中が混乱の最中(さなか)にある今、本校で、音楽という素晴らしいフォーマットを自分の中心に据えて三年間を過ごす、音楽を軸として学びを深め、青春の三年間を駆け抜けるという、「特別な部屋」。その部屋の扉を開けたのです。今日と言う日は、その部屋の扉を開け、中に足を踏み入れた。その記念日です。

変革の時代と言われる今、コロナがそれを加速させました。世界は変革のスピードを上げ、既存の価値観が通用しないケースがどんどん増えています。そんな時に、音楽を軸として自分を解き放ち、自分の中のクリエイティビティを自分の人生に繋げていく、そういう場所を皆さんは選んで下さったのです。

そして、その決断と努力のお陰で、我々は今、出会う事が出来た。この素晴らしい出逢いに、心から感謝します。とりわけ、お子様をこの素晴らしい出逢いに導いて下さった、保護者の皆さまのご尽力とサポートに感謝したいと思います。

本校では、コロナ禍で学んだ事として、そして未来への飛躍の可能性として、デジタルトランスフォーメーションを推進します。そのためのDX推進部を新たに設置いたしました。数々のオンラインアクティビティーの経験や成果からその価値を評価し、今年度はさらに前に進みます。いろいろな企画が予定されていますので、楽しみにしていてください。

レールに乗った人生をなぞることがどんどん難しくなってきている現代、自分の人生を自分の手でデザインする、これがこれからの社会では必須のこととして求められていきます。皆さんが音楽と向き合う中で発揮する、自発性、美しいものを求める心、美を愛する心を育てる力。これを日々の練習やレッスン、舞台というルーチンのなかで、世の中に示し続け、磨き続ける。これが出来るのは、音楽高校を置いて他には無いのではないかと思うほどです。

その時に、一つだけ、強く心に留めていただきたい事があります。それは「遊ぶこと」です。
自発性と、遊ぶ力「遊戯衝動」は切っても切れない関係にあります。
「人間は、遊んでいる時だけ、完全に人間でいられる。・・・そして本当の意味で人間でいられる時だけ、遊ぼうとする」これは、自由の詩人、フリードリヒ・シラーの言葉です。(フリードリヒ・シラーをご存じでしょうか。シラーはドイツの文豪で、皆さんよくご存じのベートーベンの第九交響曲「歓喜の歌」は、シラーの詩によるものです)

遊戯衝動、つまり遊びたい気持が、芸術活動の根底にある衝動です。そして、「演奏する」という動詞が、英語ではPlay、ドイツ語ではSpielen、と、「遊ぶ」という意味の動詞である事、これは決して偶然ではありません。
つまり、音楽高校に進まれた皆さんは、「三年間、遊び続ける」という決断をされたわけです。

でも、これはなかなか、学校生活の中でやり続けるのは難しい事です。いつの間にか、「言われたことをイヤイヤやる」とか「好きじゃないけど皆がやっているからやる」という、義務感の罠にハマっていきます。ここには工夫が必要ですね。一緒に考えましょう。

工夫して遊び方が上手くなってくると、どんな時も堅苦しくならず、自由で、友達や家族、自分の隣にいる人の為に行動する事を。義務感としてはなく、喜びをもって自発的に行う事が出来る様になります。どうせやらなくちゃいけないんだったら、楽しまなくちゃ、と思うだけで、もう結果が違います。

音楽に満たされる三年間にようこそ。学びを楽しみ、楽しみながら学び、自由の中で自分の人生のデザイン力を身につけましょう。


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