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現金の図解 #会計の地図

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それではここから本文つづきです。

現金

何にでも姿を変えられる最強の資産

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現金は最強の資産である。商品をつくったり、商品をつくるための設備に投資するなど、他の資産に変えることもできる。負債を返すこともできる。いろいろな形に変化できる資産なのだ。

「現金を多く持っている」のはいいことばかりではない

「現金は多く持っているほどいい」と思われやすい。もちろん、現金を多く持っていることはいいことである。現金があるほど、返さなきゃいけないお金をちゃんと返せるから、安全性が高い(≒倒産するリスクが低い)といえる。でも、必ずしも現金が多ければいいというものでもない。

なぜなら「せっかく現金があるのに投資できてないね」と思われちゃうからだ。多くの現金があるということは、それだけ投資できるということだ。ここでの投資というのは、現金を資産に変えることを言う。

つまり、現金を現金のまま持っているだけでは、「機会を損失している」とも受け取られてしまう。その現金を他の資産に投資していれば、もっとリターンが得られる可能性があるからだ。

現金が「リスク」になるとき

たとえば、余った現金の使い道として、新しい設備を増やすことで商品をつくる体制を整えるとか、研究開発を通して他社より優れた商品を開発するということが考えられる。

現金が増えると、経営における選択肢は増えていく。一方で、選択肢を増やすばかりで行動しなければ、その間は何の価値も生み出せていないことになる。もし、その間に他社が商品の開発に力を入れて大ヒット商品を生み出すなどの事態が起きて、顧客が離れてしまって後の祭り、ということもあり得る。

また、前述したとおり、会社のオーナーである株主としては、その会社が預けたお金を増やしてくれると思うからこそ、リスクをとって投資しているのだ。何もせずに現金としておくことは、その株主の期待に反してしまうことになりかねない。

「現金をどれだけ持つべきか?」そのヒントになる考え方

では、現金はどれだけ持つべきなのか?

その1つの考え方として、「そのビジネスがどれだけ不確実な業界なのか」を考えることが挙げられる。つまり、「不測の事態にどれだけ備える必要があるのか?」ということだ。現金は、不測の事態にこそ必要になる。

コンシューマーゲーム業界は、ほかの業界と比べると現金を持っている割合が高いと言われている。

たとえば代表的なコンシューマーゲーム企業である任天堂は、現金がとても多いことで有名で、つねに数千億円の現金を持っている。なぜなら、「満を持して販売したゲーム機が売れなかった」という時、業績が著しく悪化するからだ。業績が変動するリスクがとても高いために、現金を多く持っていないと、業績が悪化したときに対応できなくなってしまうのだ。

トレンドによって業績が左右されてしまうような業界に身を置く企業は、万が一商品が顧客に選ばれなかったときの損失に備えて、現金をたくさん持つ傾向がある。

現金をどれだけ持つかどうかの問いに、一律に答えることはできない。しかし、業績の変動リスクが高い業界やビジネスほど、現金を持っておくほうが安全だし、変動リスクが少ないのであれば、現金を投資や返済に回して攻めることもありだ。

ここでも、そのバランス感覚が重要になる。

「現金」を考えるための事例

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現金をどれだけ持つべきかは、その業界の特徴によって決まってくると書いた。たとえば任天堂は、資産のうちの流動資産の比率が7割もあり、なかでも現金の割合がとても大きい。資産の約46%が現金だ。

任天堂の2020年3月期の決算を見ると、8,904億円の現金を持っていた。任天堂は、このときだけ現金をたくさん保有していたというわけではなく、つねに数千億円の現金を持っていることで知られている。

なぜ、任天堂はこれだけ現金を持っているのか。その理由は、家庭用ゲーム機の業界の特徴から見えてくる。家庭用ゲーム機の業界は、現金を持っている割合が高い。それは、家庭用ゲーム機の売れ行きが予想しづらいからである。

満を持して、たくさんのお金と時間を費やして開発したゲーム機がまったく売れないということは、実際に珍しくない。それは、業界のトップランナーである任天堂であってもそうなのだ。

つまり、大ヒットすれば大きなリターンを得ることができるが、まったく売れなかった場合、その損失は悲惨なものになる。

このように、業界や事業の特性によって、「不測の事態にどれだけ備える必要があるか?」ということによって、現金をどれだけ持つべきかも変わってくるのである。

だからこそ、何かあったときのため、もしくは商品が外れても研究開発によって新商品を開発して次のヒットを狙えるようにするため、たくさんの現金を持つ必要があるということだ。

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「現金」が埋まった。次は、その現金の動きを一覧できる「キャッシュフロー計算書」を紹介する。

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