見出し画像

電気自動車の使い方から生活が見える、Vehicle To Home(V2H)リサーチの舞台裏【後編】

こんにちは、デザインリサーチグループのイノウエです。
後編ではインタビュー結果の分析、ワークショップの様子・進行過程をご紹介します。

前編はこちら

トヨタコネクティッドでは2023年11月から2024年4月にかけて、V2H (Vehicle to Home)スタンドと、トヨタホームが開発した非常時給電システム「クルマde給電」の利用者を対象に導入のきっかけや普段の使い方について調査を行いました。


リサーチ結果のポイントを見つける

今回、インタビューした人数は12人。
インタビュー実施後、対象者ごとに行動パターンシートやデブリーフィングの要点記載シートをまとめてはいましたが、この段階ではまだ情報が対象者ごとに集めた状態でしかないので、メンバー間の認識合わせも含めて全体の傾向はどうだったのか、きちんと分析する必要があります。

以下手順を紹介していきます。

インタビュー後の分析は①〜③の3段階で実施


①データのコード化

発話録から特徴的な情報の要素ごとにオンラインホワイトボードツール・Miro上に付箋で貼り出していきました(コード化)。

コード化する際のポイントとして、発話録から部分的に切り出すことになるため、切り出しても文脈がちゃんとわかる長さの文章で書き、必要に応じて主語などを補足すること。
また、この後グルーピングしていくことになるため、複数要素を含まないようにすることで手戻りを減らし、ほかの人が見ても意味を取り違えにくくなります。

そうはいっても、誰にでも理解できる短文にすることもまた技術がいるので、誰の発話録から切り出したものかわかるようにタグを設定しておきました。

コード化の例
WordVBAを使ってマーカーを引いた箇所だけ抽出することで作業を簡略化できました

もう1点、何をコード化するかも重要です。インタビューの中には、興味深い内容でも調査の主目的から外れた内容も多分に含まれているので、分析目的・分析したい話題を改めて確認してからコード化すると作業時間が短く済みます。

ある程度絞った上でもインタビューのコード化は3人分でかなりのボリューム(下図)になるので、作業する人数・分析にかけられる時間と相談しながら必要に応じて絞っていきました。(調査の中で一番時間がかかる部分ではある)

コード化してテーマごとに分類(3人分)


②コード化した付箋の整理

対象者ごとにコード化した付箋を統合し、ワークしやすいように分類しておきます。当初はインタビュー項目ごとに整理していましたが、対象者によって少しずつインタビュー内容に違いがあり比較しづらいので、V2Hの購入検討から購入後までの時系列と、機能/操作/電気自動車といったカテゴリに分けて整理し直しました。

12人分ともなると付箋の数が膨大になるので、分析のスコープから外したいテーマや項目があればこのタイミングで判断して除外します。

整理後の付箋12人分


③親和図を作る

今回は主題分析と呼ばれる手法を用いたワークショップ形式で分析を行い、考察・仮説としてまとめました。

V2Hの日常利用と停電時利用のそれぞれについて、キーとなりそうな付箋をメンバーそれぞれの感覚で集め、それに類似したもの、関係がありそうな付箋をさらに集めました。

ある程度集まったらグループ分けし、グループに名前をつけて、グループ・付箋間の関係性を追加していきます。


完成した親和図

疑問や考察を作業中に会話していき、話を膨らませていきながらグループ分けや関係性を示す矢印、リサーチャーの気づきや考察をメモで追加していきました。

開始当初は、会話や作業にエンジンがかかるまでがやや時間がかかった部分がありましたが、最後は会話が活発に飛び交い、ワークショップ後には、ワークで得たインサイトを元に、実際に販促などの改善施策として盛り込む動きがあるなど、非常に有意義なワークとなりました。


④インサイトをまとめる

ワークショップ内ではうまく言語化されなかったけど、その場に無形の共通認識が確かにあったなあ…といったモヤモヤがあり、ワーク中に出てきた気づきメモを改めて時系列ごとに整理してみました。ワーク中に出てくる議論は、一見繋がっているようで意外と断片的だったりするので、分析のためのワークショップとレポーティングの間に整理の時間をワンクッション挟むことは非常に重要だと感じました。

時系列・テーマごとに整理された気づきメモ


今後の商品開発につなげるワークショップ

今回の調査プロジェクトは現状すでにV2Hを自宅に導入している人がどのように利用して暮らしているのかの実態把握が目的であったため、分析・レポーティングまででプロジェクトの目的そのものは達成していると言えます。

しかし、レポートで報告してその後は各所に任せて終わり、となっては次になかなか続かないので、実態把握から具体的な販売促進施策、新規商品開発に繋げるための方針検討のためのワークショップを再度開催しました。

このワークショップは調査不参加のメンバーも参加するものでした。
そこで、レポートだでは伝わりづらいインタビュー時の温度感や、より理解しやすいよう補足も含めて調査結果を共有することで、調査の結果を自分ごと化・自身の業務に活用してもらえるように、と意識したプログラム構成としました。リサーチャーは調査・報告して終わりではなく、調査結果を有益に活用してもらえるよう工夫するまでが仕事なのだなぁと改めて感じました。

ワークショップの内容

このワークショップでは大きく前後半にプログラムを分割。前半にユーザー行動への没入を目的に、タイプの異なるインタビュー対象者を2人ピックアップし、再度1日の利用の流れを深堀りし、インタビュー中の状況について参加者間で共有・議論しました。

後半では、V2Hやその周辺領域の現状や、住宅やエネルギーなど社会の変化から考えられる暮らしの変化といったデスクリサーチ情報の共有と、前半のユーザーストーリーを踏まえた新規サービスのアイデアをひたすら発散。

調査協力いただき、このワークショップにも参加いただいたトヨタホームさんからは以下のコメントをいただきました。

調査対象者の1日の利用の流れを2タイプのユーザーで比較することで、ユーザーの行動文脈をよく理解することができ、現状のV2Hのユーザーでもそれぞれ使い方がまったく異なっていることが分かった。これまで蓄電池/V2Hなど製品の設置有無でセグメントを区切っていたが意味があるのか、他の区切り方があるのか?と新たな視点を得ることができた。

今後、日常の利用方法はかなりバリエーションが広がる可能性があることを感じた。現状の使い方だけでなく、これからの利用の変化も追っていく必要がある。

リサーチ結果から新たな発見を持ち帰ってもらえたようでした。
リサーチ結果からさらなる発見が生まれるところを見るのは、私にとっていつも嬉しく、リサーチのやりがいを感じる瞬間です。

壁に模造紙を貼り、付箋をひたすら書いて貼っていきました


リサーチ終了に添えて

本プロジェクトは、現状すでにV2Hを自宅に導入している人がどのように利用して暮らしているのかは全く見えていない仮説レベルの理解の状態からスタートしました。

試行錯誤なところもありましたが、今回リサーチを実施したことでV2H利用者の生活イメージがより具体的になり、V2H利用について多くの気づきを得るとともに、リサーチ方法についても多くの実践ができたプロジェクトとなりました。

前編・後編合わせて、リサーチの過程の記録がどこかでお役に立っていたら幸いです。



トヨタコネクティッドでは移動/モビリティに関する社会課題の解決を目指し、サービス企画から実証、事業化などさまざまなフェーズでプロジェクトを推進中です。

また、同デザインリサーチグループでは、自主調査の取り組みを通じリサーチスキルの向上やリサーチノウハウの蓄積を試行中です。
共同リサーチに関心を寄せていただける企業さま、以下までお問い合わせください、お待ちしております!

list-design-research@mail.toyotaconnected.co.jp



関連note記事情報📢

▼RESEACH Conference2024で本プロジェクトについてポスター発表を行いました!

▼インタビューまでの過程は前編のこちらにて

▼プロジェクト紹介・調査結果レポートはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?