【東京五輪陸上競技1日目(7月30日)】 三浦が3000m障害49年ぶりの決勝進出&大幅日本記録更新 3日後の決勝でサプライズを起こす可能性も
東京五輪陸上競技1日目の午前に行われた男子3000m障害。その1組目で三浦龍司(順大2年)が8分09秒92の日本新で2位。3日後の決勝に進出した。この種目における日本人選手の決勝進出は、1972年ミュンヘン五輪9位の小山隆治以来49年ぶりの快挙だった。三浦はレース後のインタビューに「8分ヒト桁台はまだまだ先の目標かなと思っていましたが、自分のレースも記録もものにできた。すごく良いレースでした」と歴史的なレースを振り返った。
●シニア国際大会初出場らしからぬ冷静な位置取り
三浦は堂堂としたレースぶりだった。
スタートから2~3番手につけ、1000mでは5番手前後で通過。最初の1000mは2分43秒2で、「速かったので、どうなるかと思った」と振り返ったが、2000mまでの1000mが2分47秒7と、気持ちペースが落ち着いた。これまでの日本レベルでいえば超がつくほど速いスプリットなのだが、三浦は6月の日本選手権で2分46秒2という2000mまでのスピードを経験していた。
残り2周のバックストレートで3番手に上がると、ラスト1周地点では2番手に。残り200 mあたりではトップのL・ギルマ(エチオピア。19年世界陸上ドーハ銀メダル)に並びかけた。ホームストレートでも競り合ったが、無理にトップを取りに行かず、0.09秒差の2位でフィニッシュした。
「後半は外国人選手の力を借りながら、(前半の流れで)積極的に行くことができました」
まだ大学2年生の三浦は、シニアの国際大会は初めてになる。3000m障害は多くの要素が絡み合う種目。経験のなさが心配されたが杞憂だった。
順大の長門俊介駅伝監督は、「ハードルでアクシデントが起きにくいポジションを冷静に走っていました。揺さぶりにも無駄に反応しませんでしたし、自分のリズムで走っていましたね」と、三浦の位置取りやリズムの作り方を評価した。
●「あまり考えすぎず、怖じ気づかずに行けた」(三浦)
8分09秒92のタイムは今季世界6位。日本の3000m障害がこのレベルに達したことに感動を覚えたが、長門監督は「すごくは驚いていない」と言う。
「(残り2周の水壕で転倒したが8分15秒99の当時日本新で優勝した)日本選手権を見て、8分10秒前後は行くと思いました。状態さえ整えて、あとはレースの流れに恵まれれば出せる。それよりもホクレン(7月14日の北見大会5000mで13分26秒78)の疲れが思ったより残ってしまったことが懸念材料でした。5月のREADY STEADY TOKYO(8分17秒46の当時日本新)、6月の日本選手権と同じ調整をしてきましたが、心配事が何個か残っていたんです。しかし前日の刺激では力まずにスーッと走れていたので、8分15~20秒は普通に走れると思いました」
三浦は力を出し切れた要因を質問されると、「あまり考えすぎず、怖じ気づかずに行けたのが、今回結果を出せた1つの要因」と自己分析した。このあたりのメンタルのコントロールは、やろうとしても、なかなかできることではない。
長門監督の目にはどう映っていたのか。
「前日の練習をサブトラックで行いましたが、集中力があるな、と思いました。顔つきや言動でいつもとは違う緊張感があると感じましたが、その中でもガチガチではなく落ち着きがあった。無理に緊張をほぐす必要はなかったですね」
スポーツでは心と体のどちらか1つでも良くなければ、パフォーマンスは明確に落ちてしまう。特に心の部分は、国内大会や練習ではなかなか五輪という大舞台をイメージできない。順大には3000m障害の伝統(ミュンヘン五輪の小山も、前日本記録保持者の岩水嘉孝も、前回のリオ五輪代表の塩尻和也も順大出身)があることもプラスに働き、三浦は心身とも良い状態を東京五輪に持ってくることに成功した。
●決勝のハイレベルの戦いにどう挑むか
3000m障害の決勝は中2日のインターバルで、8月2日に行われる。スタートリストを見ると自己記録で三浦は6番目。下位の選手とのタイム差は小さいので蓋を開けてみなければわからないが、三浦がラストにも強いことを考えれば入賞(8位以内)の可能性は5割以上だろう。
「予選後に本人と話したら、きつかったと言っていましたが、動きにはまだ余裕がありました。記録には驚きませんでしたが、レース展開的にはまだ戦える雰囲気を残して予選を通過したので、そちらは少し驚きましたし、自分も興奮していました」
三浦のラスト1000mは2分39秒0で、これはメダリスト級のスプリットタイムである。直近の世界大会である19年世界陸上ドーハ大会では、C・キプルト(ケニア)がラスト1000mを2分38秒4で走って金メダルを獲得した。銅メダルのS・エル・バッカリ(モロッコ)は2分40秒8だ。
もちろん世界陸上ドーハの優勝記録は8分01秒35、銅メダルは8分03秒76とレベルが一段も二段も上である。2000mは5分22秒95で通過している。確実に入賞を狙うなら、先頭集団がその速さなら付く必要はない。予選と同じくらいのペースで走り、残り1000mを予選よりも頑張る戦術が有効だろう。
だが今の三浦は、「底はまだ見えていません」(長門監督)と言われるほど、成長期間のまっただ中にいる。無理と思えるペースに食らいつき、最後の1000mも2分40秒前後で走り切ることができる可能性もゼロではない。
三浦自身は「最後の切れ」が予選の課題だと感じていた。
「決勝では予選以上の強さを見せないといけません。どんな展開になろうともタフについて行って、ラスト勝負をしに行くレースをしたい」
19歳が歴史を変えるサプライズを起こすかもしれない。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
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