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【東京五輪陸上競技1日目(7月30日)注目選手】 男子10000mが唯一の決勝種目 相澤が同郷の偉大な先輩・円谷に続く入賞を目指す

 東京五輪陸上競技が7月30日から始まる。会場は東京・国立競技場。男子4×100 mリレーや男子20km競歩、男子走幅跳などでメダル獲得が期待されている(競歩とマラソンは札幌で実施)。30日の決勝種目は20:30スタートの男子10000mだけだが、世界記録保持者のJ・チェプテゲイ(ウガンダ)ら、世界のトップ選手たちが国立競技場のトラックを25周する。日本からは相澤晃(旭化成)と伊藤達彦(Honda)がエントリーした。27分18秒75の日本記録保持者の相澤と、日本歴代2位の27分25秒73を持つ伊藤。10000m日本代表過去最速コンビが、入賞にどこまで迫ることができるか。

●運命的なものが感じられる相澤

 相澤晃(旭化成)にとって東京五輪は、いくつもの意味を持つ。
 1つめは1964年東京五輪でマラソン銅メダル、10000m6位入賞と大活躍した円谷幸吉さんと同じ、福島県須賀川市出身であること。相澤自身、円谷ランナーズという陸上クラブで走り始めた。五輪出場時の年齢も24歳と同じで、円谷も当時10000mの日本記録保持者だった。さらに陸上競技初日に10000mが行われることも同じである。
 昨年12月の日本選手権で代表を内定させた翌日の会見で、相澤は「円谷さんのように10000mで入賞したい」とコメント。郷土の偉大な先輩に続く気概を持って臨む。
 2つめは復興五輪として注目されている点だ。福島県出身の相澤は、11年の震災をリアルに経験した1人。須賀川市では農業用のダムが決壊し、死者も出ている。近所の道路が冠水する様子も目の当たりにした。
「中学生の時でつらい思いをしましたが、自分は箱根駅伝を見ることで元気づけられました。今度は自分が、元気を与えられるような走りをオリンピックでしたい」
 3つめは新型コロナ感染拡大により東京五輪の開催が1年延期されたこと。20年夏頃の相澤は故障明けで、練習は始めていたがレースを走ることは難しかった。選考会を勝ち抜くことはほぼ、不可能だった。「延期によって自分に運が向いてきました」と、これも代表を内定させた翌日の会見で語っている。
 いくつものつながりや運が、相澤を東京五輪に導いた。

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●川嶋コーチが語る入賞へのレースプラン

 円谷と同じ10000m日本記録保持者としてオリンピックに臨むが、世界的な状況は57年前とは大きく異なる。現在の長距離、マラソン界はアフリカ勢が席巻しているが、前回の東京五輪当時はアフリカ諸国のスポーツ進出が進んでいなかった。
 64年時点の世界記録は28分15秒6、円谷の日本記録は28分52秒6だった。現在の世界記録はチェプテゲイの26分11秒00に対し、相澤の日本記録は27分18秒75。世界記録と日本記録の差は37秒0から1分07秒75に広がっている。
 スタートリストを見ると自己記録が26分台の選手が8人もいる。相澤の27分18秒75は16番目だ。入賞(8位以内)は簡単なことではない。
 旭化成の川嶋伸次コーチは、入賞するために次のような展開を考えている。
「暑さを考えたら前半、スローにはならないにしても、そこまで速くはならない。相澤もある程度は食らいつけるでしょう。後半グッとペースが上がるところで、どう食らいつけるか。その展開でも自己記録前後にもっていかないといけない」
 例えば5000m通過が13分50秒前後なら、後半5000mを13分30秒を切るくらいにペースアップする必要がある。相澤の自己記録は今年5月のREADY STEADY TOKYOでマークした13分29秒47だが、13分20秒を切る力はあると推測できる。
 優勝やメダルを狙う選手はどんなペースアップにも全力で対応するが、全員が最後までもつわけではない。無理をした結果、終盤で失速する選手が必ず出てくる。そういった選手を抜いていくことができれば、入賞の可能性は大きくなる。
 プラス材料は故障が多かった相澤が、今年3月以降は練習を継続できていること。「これまでの経験で、これ以上やってしまうとケガにつながる、というところがわかってきたのだと思います」(川嶋コーチ)。スタッフとも相談して、練習内容を自身の状態に合わせて調整することができるようになった。
「まったく途切れることなく、ほぼ予定通りの練習ができました。夏場なのでそこまで無理はできませんでしたが、2回行った北海道合宿の1回目は、涼しかったので負荷の大きい練習も行いました」
 それでもアフリカ勢の“壁”は厚いが、相澤も10000m日本新や学生駅伝の区間新など、爆発力を持つ選手である。東京五輪と相澤に不思議な“縁”がいくつもあることを考えると、その爆発力が発揮されてもおかしくない。
 日本記録を出したレース後に相澤は、「円谷選手は“忍耐”という言葉を大切にされていました。今日はきついところで耐え忍ぶことができたので日本記録につながりました」と話している。東京五輪でも“忍耐”ができれば、相澤が終盤で順位を上げていく展開が期待できる。

●男子3000m障害の三浦、走高跳の戸邊、女子では5000mの田中ら入賞候補が予選に登場

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 陸上競技1日目は、男子10000m以外の種目は全て予選となるが、期待の日本勢が多く出場する。
 午前セッションでは9:15開始の男子走高跳予選のB組に戸邊直人(JAL)、A組に衛藤昂(味の素AGF)が出場。2m30を跳べば決勝に進出できる。今季衛藤は2試合で、戸邊は3試合連続で2m30を跳んでいる。風が吹いて助走に影響すると難しくなるが、無風に近い気象条件なら2人とも予選突破は難しくない。
 9:30開始の男子3000m障害予選には三浦龍司(順大2年)、山口浩勢(愛三工業)、青木涼真(Honda)が出場する。この種目へのフルエントリーは64年東京五輪に続き、五輪史上2回目のこと。三浦が日本選手権でマークした日本記録の8分15秒99は今季世界16位。ラストにも強いので予選通過は間違いないだろう。
 11:25からの男子400mハードル予選には黒川和樹(法大2年)、安部孝駿(ヤマダホールディングス)、山内大夢(早大4年)の3人がエントリーしている。安部は世界陸上では何度も準決勝に進んだ実績があり、黒川も国内で見せた超前半型のレースを実行できれば、間違いなく予選を突破できる。
 午後セッションでは女子5000m予選に田中希実(豊田自動織機TC)、廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)、萩谷楓(エディオン)が出場する。ラスト勝負に勝ち抜くスパート力が要求される種目だが、田中の残り300 m以上のスパートは十分通用する。国内大会でも、日本の実業団在籍のアフリカ人選手たちに何度も勝っている。
 廣中も昨年12月の日本選手権では、最後は田中に競り負けはしたが、残り3000mを8分52秒と国際レベルのペースアップを見せた。
 陸上競技初日は、日本選手たちの予選突破のシーンが多く見られるだろう。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト


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