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【東京五輪陸上競技7日目(8月5日)注目選手】

男子20km競歩の世界陸上金メダリスト、山西が競歩初の五輪金メダルに挑戦
男子4×100mリレー予選の日本の走順は?

 大会7日目(8月5日)はモーニングセッションの女子4×100mリレー予選と男子4×100mリレー予選に日本チームが、札幌で16:30スタートの男子20km競歩に山西利和(愛知製鋼)、池田向希(旭化成)、高橋英輝(富士通)の3人が出場する。
 一番の注目は19年世界陸上で金メダリストとなった山西が、五輪競歩種目で日本人初の金メダルを獲得できるかどうか。山西以外の2人も入賞が期待でき、メダルに手が届く可能性もある。
 前回銀メダルの男子4×100mリレーは金メダルを目標にやってきたが、今大会の100 m、200mは出場した6人全員が予選落ち。男子短距離は個人種目の強化をリオ五輪後のテーマに設定し、9秒台を4人が出したがオリンピックにピークを合わせることができなかった。リレーの予選で37秒台を出し、雰囲気を一転させたい。
 女子4×100mリレーは43秒39の日本記録を大舞台で更新すれば、低迷から脱出する起爆剤にできる。

●英国、南アに予選で勝ち、勢いをつけたい日本

 男子4×100mリレーの、16年リオ五輪以降の日本の成績は以下の通りだ。
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16年リオ五輪2位・37秒60(山縣・飯塚・桐生・ケンブリッジ)
17年世界陸上ロンドン3位・38秒04(多田・飯塚・桐生・藤光)
19年世界陸上ドーハ3位・37秒43(多田・白石・桐生・サニブラウン)
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 まずは走順が注目される。
 200m予選で21秒かかったサニブラウン・アブデル・ハキーム(タンブルウィードTC)と飯塚翔太(ミズノ)の起用はなくなったと見ていい。20秒78(-0.6)だった山下潤(ANA)は前半のスピードは魅力だが、代表チームで走った経験がないので(ユニバーシアードでは4×100 mリレー3走で優勝している)、いきなり起用される可能性は低い。
 100 mに出場した多田修平(住友電工)、山縣亮太(セイコー)、小池祐貴(住友電工)の3人に、リレー代表として選ばれているデーデー・ブルーノ(東海大4年)と桐生祥秀(日本生命)を加えた5人から、4人が走ることになりそうだ。
 走順に関しては1走から多田、山縣、桐生、小池が有力と見られている。代表に内定時の会見で希望走順を質問されると、山縣は「どこでも走ります」と答えたのに対し、多田は「1走です。ジコチューみたいですけど」とコメント。これは自己中心ではなく、スタートが得意だが100m終盤で減速する自身の特徴を、客観的に見ての冷静な判断といえるだろう。
 山縣もスタートが得意な1走タイプだが、終盤の減速も比較的小さい。2走以降にも適性がある。
 桐生がリオ五輪で3走を走り、蘇炳添(中国。今大会で9秒83のアジア新)と同タイムで3走中トップだった。その後の17年世界陸上ロンドン、19年ロンドン・ダイヤモンドリーグ、同年世界陸上ドーハでもリオ五輪以上のタイムで走り続けてきた。本人も「3走で経験を生かしたい」と話している。
 小池は終盤の競り合いに強いので4走が適任だろう。ただ、19年世界リレーでは、3走で桐生と同レベルのタイムで走っている。日本選手権200mをアキレス腱の痛みで欠場した桐生に不安があれば、3走に小池、4走にデーデー・ブルーノとなる。
 個人種目の結果は悪かったが、リレーになれば気持ちも走りも切り換えられる。世界陸上ドーハで出したアジア記録(世界歴代4位)から、1人0.1秒悪くなっても37秒8~9のタイムは出せる。
 強敵は英国、南アフリカ、ジャマイカだ。ジャマイカはU・ボルトの引退後はチーム力が落ちているが、英国は優勝した17年世界陸上、2位の19年世界陸上ドーハと日本に連続で勝っている。南アフリカは今大会100 mでA・シンビネが4位に入り、100mも200mも3人が準決勝に残っている。
 走力の現状を見れば勝てないが、伝統のバトンパスで日本はプラスアルファが期待できる。 着順通過の3位には間違いなく入るが、37秒6~8を出してトップ通過も不可能ではない。それができれば決勝に向けて勢いがつく。

●競歩のメダル常連国に成長した日本

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 男子20km競歩の山西が、日本競歩界悲願の金メダルに向けて歩く。
 日本競歩界の世界大会初メダルは15年世界陸上北京。男子50km競歩の谷井孝行が銅メダルを獲得した。以後、以下のようにメダルを取り続けている。
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▼15年世界陸上北京
50km競歩:谷井孝行=銅メダル
▼16年リオ五輪
50km競歩:荒井広宙=銅メダル
▼17年世界陸上ロンドン
50km競歩:荒井広宙=銀メダル
  小林快=銅メダル
▼19年世界陸上ドーハ
20km競歩:山西利和=金メダル
50km競歩:鈴木雄介=金メダル
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 谷井、荒井が銅メダルを獲得した15、16年頃は快挙と言われたが、その後2回の世界陸上でメダルを取り続け、日本の男子は世界有数の競歩強国に成長した。
 選手&指導者が切磋琢磨し、なおかつ所属の垣根なくチームJAPANで強化を行ってきた競歩関係者の、長年の努力の成果が現れた。さらには暑熱対策など科学的なサポートも日本の強みになっている。

●山西の地力アップと歩型への自信

 その中で育ってきた山西が、競歩界のエースとして金メダルに挑む。7月24日の公開練習時には「金メダルをターゲットにずっとやってきました。そこは変わらず取りに行きたい」とコメント。50km競歩の鈴木雄介(富士通)が体調が上がらず代表を辞退したため、陸上界全体としてもエース的な存在になっている。
 そんなポジションになっても山西は、自分のやるべきことを見失ったりしない。「地力を付ける」ことに最優先で取り組んできた。ドーハ世界陸上後の2年間でも、海外勢とのレースはコロナ禍でできていないが、地力アップを証明している。日本選手権20km競歩ではペースをコントロールし、自ら仕掛けて危なげなく勝っている。
 指導する内田隆幸コーチの信念が、“競歩は歩型で勝敗が決まる”だ。警告が3人の審判から出るとペナルティゾーンで待機を命じられ(20km競歩は2分、50km競歩は5分)、4人目から出されると失格になる。レース中に警告が出されたらペースを上げることができなくなるのだ。歩型に不安がある選手は、勝負どころでペースを上げることができない。
 山西は過去、失格したレースが一度もなく、警告を2枚以上出されたこともほとんどない。兄弟子に当たる鈴木が歩型でも世界一と言われているが、内田コーチによれば山西もその域に近づいている。
「どこまでいったら完成かわかりませんし、まだまだ粗さがある歩型ですが、年々改善されている手応えはあります」(山西)
 ライバルは18年アジア大会で山西を破って優勝した王凱華(中国)だろう。19年の世界競歩グランプリと世界陸上では山西が2連勝しているが、王は今年3月に1時間16分54秒の世界歴代3位をマーク。記録では上回っている。
 だが自己記録1時間17分15秒の山西も、鈴木の持つ世界記録(1時間16分36秒)を更新する力はあると言われている。山西の理想とするレースは、最初から独歩して誰も寄せ付けずにフィニッシュすることだ。今すぐにはできないが、地力を上げることでレース中盤から仕掛け、そのまま押し切る力がついてきた。
 注目は、山西がどこでスパートするか。
 過去の五輪の多くが、残り5kmのペースアップで勝負が決まっている。だがドーハの山西は7kmで中国選手に合わせて前に出て、13~14kmでペースアップして押し切った。勝負どころがどこになるか。始まってみないとわからないことだが、勝負は後半だから、と思って観戦していると、勝負どころを見逃してしまう可能性がある。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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