2021年5月30日放送「風をよむ~ベラルーシにみる強権政治」
23日、ギリシャから、リトアニアに到着した旅客機。ところが、この飛行機に乗っていたはずの男性客が、そこにいなかったのです。
機内から、突然いなくなった男性客。一体、何が起きたのでしょう?
その状況を、間近で目撃していた乗客によると、その男性客は、「拘束されたら死刑になる」と言っていたといいます。
連れ去られたその男性は、ベラルーシのジャーナリストで、反体制派活動家のプロタセビッチ氏。拘束後、当局が公開した映像で、プロタセビッチ氏は…
プロタセビッチ氏「抗議デモを組織した容疑で捜査に協力し供述する。私が大規模な暴動を組織したことを認める」
しかし、この映像を見た、同じく反体制派活動家のチハノフスカヤ氏は、
チハノフスカヤ氏「彼が殴られ、圧力を受けていることは明白で、拷問されたことは間違いない」
実はベラルーシ当局が「機内に爆発物がある」との情報が寄せられた、 という口実で、ベラルーシ領空で飛行中の旅客機を、首都ミンスクの空港に強制着陸させ、彼を拘束していたのです。
民間人が乗った他国の旅客機を、力づくで自国内に着陸させるという、強引な行為には、国際社会から、厳しい批判が噴出しました。
EU:フォンデアライエン委員長「ベラルーシは『国家によるハイジャック』を行うため、領空権を利用した」
しかし、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、これに激しく反発。
ルカシェンコ大統領「私を非難することはできない。国民を守るために、合法的に行動した」
強権的な姿勢で「欧州最後の独裁者」と揶揄される、ルカシェンコ氏。その存在が世界に知られたのは、27年前でした。
ルカシェンコ氏「まず最初にやる事は、内閣の組閣。中身を変えましょう」
1994年39歳の若さで、大統領選挙に出馬した、ルカシェンコ氏。ソ連崩壊後の混乱期、経済危機にあえぐ国民の不満を巧みに取り込み、選挙に勝利、若くして大統領の座をつかんだのです。
就任後は、機械生産や農業など、産業の育成が軌道に乗って、10%前後の経済成長率を維持。国民の支持も高まりました、しかし…
徐々に大統領権限の強化を図り、任期延長を可能にする憲法改正を行うなど、その強権ぶりや、贅沢な暮らしぶりが露わになるにつれ、市民の不満や怒りが増幅、ついには・・・
デモ参加者「自由を!」「退陣!」
去年8月の大統領選で、ルカシェンコ氏が6度目の大統領になるや、選挙に不正があったと抗議する、20万人規模のデモが連日行われ、大統領の退陣を求めました。
その、反体制派運動の象徴となったのが、チハノフスカヤ氏でした。
チハノフスカヤ氏「もう我慢の限界ではないですか?沈黙はもう沢山では? 恐怖にはもう飽き飽きでは?」
しかし、
ルカシェンコ大統領「ここで君たちを殴るようなことはしない。何の得にもならないからな。しかし、君たちが挑発を続けるなら、厳しく懲らしめてやる」
ルカシェンコ大統領は、高圧的な姿勢を崩すことなく、チハノフスカヤ氏は隣国リトアニアへの亡命を余儀なくされたのです。
こうしたルカシェンコ大統領の強硬姿勢には、後ろ盾となる人物が・・・
強制着陸から5日後、ベラルーシのルカシェンコ氏が会談したのが・・・
プーチン「来てくれてありがとう」
ルカシェンコ「あなたとの信頼関係を感じています」
プーチン「分かっています」
ルカシェンコ氏との親密ぶりをアピールする、ロシアのプーチン大統領。しかし、そのロシアも、野党指導者ナワリヌイ氏を巡る、毒殺未遂や逮捕・監禁で批判される立場。類は友を呼ぶ、という事なのでしょうか?
敵対する存在を許さない、独裁的な強権政治。その動きは、ベラルーシやロシアにとどまりません。
中国では、香港や新疆ウイグル自治区での、住民への抑圧が…、またミャンマーでは、市民に向けられた国軍による武力行使が・・・
こうした世界の動きを、「サピエンス全史」などの著作で知られる、イスラエルの歴史学者・ハラリ氏は、
ユヴァル・ノア・ハラリ氏「権威主義が支配する政治体制は、短期間で決定を行い、その決定を断固とした形で実行することができ、また妥協の必要もない、という優位点がある。社会全体のコンセンサス、合意が存在しないため、体制側は、常に、自分たちの生き残りのことだけを考えている」
強権政治が勢いづく陰で、失われていくものとは? ハラリ氏は、こう指摘しています。
「民主主義が直面する最大の危機は、民主主義より独裁の方が、効率がよくなってしまうことだ。人々が複雑さを避け、楽をして生きようとする時、ファシズムが生まれる」
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