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消毒液をNICUへ 地域が医療と家族を支える(2020年4月26日Nスタ)

新型コロナウイルスとの闘いが長期化する中、小さな命のために動き出した人たちがいます。横浜市で消毒液を病院に寄付する地域の人たちを取材しました。

横浜市内の商社に勤める根本泰樹さん。この日、日頃から取引がある和食店を訪ねました。

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手渡されたのは、店内に保管されていた消毒液。根本さんは、こうした調理用の消毒液を地域の病院に寄付する活動をしています。

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(写真:「和食 五十郎」 五十嵐郎さん)

五十嵐郎さん:
店で「お客さん来ないなー」なんてくすぶってるよりは協力したいなあと思いますし、僕らよりは医療業界の人の方が大変だと思うので、少しでも何でもいいから手助けできれば幸いだなって思います。

調理用の消毒液(高濃度エタノール製品)は手や指の消毒用には使えませんが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、厚労省は3月下旬から医療現場での使用を特例として認めています。

根本さんがこの活動を始めたきっかけは、こちらのブログでした。

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神奈川県立こども医療センターのNICU(新生児集中治療室)に勤める豊島勝昭医師が、マスクなどの医療物資の不足、特に手や指の消毒液が足りないことを訴えていました。

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(写真:根本泰樹さん)

根本泰樹さん:
病院のブログを見て、うちの会社からほんの30分のところにある病院がこういう状態になっているなんて知らず、病院って最優先で物資が届いていると思っていたのに、まさか病院が足りないなんて思っていなかった。今回こういうご事情なのでと(取引先に)話したら、「うちまだ開けてない消毒液ありますよ」ということで、今回ご協力いただいた。

根本泰樹さんが勤める会社は資材や食材の卸や旅行業を営む商社です。飲食店に食材を卸す時や、海外旅行の手配やアテンドの際に感染症予防に使う消毒用アルコールの備蓄が会社にあったのです。

根本泰樹さん:
この状態ですから旅行商品なんて売れないですし、お客さんが行くこともないので、社長に「うちの備蓄持っていけるだけ持って行っていいですか?」と相談して、病院に提供しました。これ(消毒用アルコール)であれば、納品しているお客様もいらっしゃるので、事情を説明してご協力いただけないかと。

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根本さんの呼びかけにこれまで10の会社や店などが応じ、一斗缶9つ分が集まりました。根本さんは、時間が許す限りこうして消毒液を自分で病院に届けています。

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もうすぐ1歳の誕生日を迎える「ゆめ」ちゃん。

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生まれつき脳の病気で、NICUでの入院生活が続いています。3月から家族の面会時間は、一日2時間に短縮されました。

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ゆめちゃんのお母さん:
面会は、以前は24時間いつ居ても良かったので、朝来て夜帰るお母さんもいました。でも3月から午後2時から8時までの間の2時間までしか面会できなくなってしまいました。兄姉面会も以前はできましたけど、(2月20日から)禁止になっているので、今は会えません。娘(ゆめちゃんのお姉ちゃん)は寂しがっているので、毎日写真に話しかけています。
面会禁止になっているNICUもあるので、いつ面会禁止になってもおかしくないと思っていて。娘が重症な疾患をもともと抱えているので、それに新型コロナとかの感染症になるなどに加え、自分たちが(新型コロナを)持ち込んでしまうこともとても不安。

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(写真:ゆめちゃんのお母さん)

ゆめちゃんのお母さん:
呼吸や飲み込みとかで命にかかわるような症状が出てしまいます。今ですと、強く泣いてしまうと、呼吸が止まってしまうので、肺に空気を入れる処置をしてもらったりしているので、今おうちには帰ってこられないんです。

地域の人たちの思いは、そんな家族の不安を和らげてくれました。

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ゆめちゃんのお母さん:
寄付をされている方々、皆さんそれぞれが大変な時だったり、不安を抱えていらっしゃると思うんですけど、赤ちゃんや命を救ってくれている病院の方々のことを思っていただけるのは、本当にありがたいです。今は大変な状況なんですけど、NICUの中では、そんな不安な状況も感じさせずに、先生や看護師たちも、コロナの状況の前と変わらずに、笑顔で接してくれているので、患者家族が不安に思うようなこともなく、皆さんそれぞれリラックスした時間を過ごしています。一人一人のあったかいお気持ちで小さな命と家族が安心して過ごせるようになっていると思います。


ゆめちゃんは5月5日生まれ。まもなく1歳の誕生日を迎えますが、こんな形での誕生日の迎え方は全く想像していなかった、とお母さんは言います。

ゆめちゃんのお母さん:
でも毎日娘の笑顔を見ることができているので日々、日々に感謝といいますか、毎日生きていてくれることに感謝ですし、またそれを支えてくれている病院にも感謝でいっぱいです。ちょっと緊急事態宣言の中ですので、家族ひっそりとお祝いしたいと思っています。娘(ゆめちゃんのお姉ちゃん)は入れませんが、今、中ではテレビ電話もできますので、オンライン面会じゃないですけど、たまにテレビ電話で顔を見たりして喜んでいます。

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重症な疾患を抱えている赤ちゃんたちが集まっているNICU。根本さんが提供した一斗缶1つで、病院全体の2日分の消毒液を生成できるといい、合わせて約3週間(18日間)分の量を用意することができました。

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(写真:神奈川県立こども医療センター 豊島勝昭 医師)

豊島勝昭 医師:
過剰に医療を自粛してしまうと、今救える命も救えなくなってしまう。備蓄しすぎず、寄付してもらったものを使って、いま目の前の命をみんなで救っていけたらと思う。

ただ、提供に関しては、課題もあると、豊島医師は指摘します。

豊島勝昭 医師:
(提供を)一律になんとかってなると余っちゃうところもあるから。医療現場はどれくらい必要だっていうのを正確に出す必要があるし、逆にそういうところに物が集まらないと結局どこかに備蓄してしまったら、足りないところの物を奪ってしまうかもしれないから、その辺、どういうふうにものをやりくりするか考えていけたらいいなと思っています。


赤荻さん

取材:TBSアナウンサー 赤荻 歩

豊島医師も話していましたが、先が見えない不安から必要以上に多くのモノをため込んでしまうこともあります。でも、もしかしたら、そういったモノで誰かの命を救えるかもしれない、と考えると、モノの見方も変わるのではないか。そして、外出自粛が続く中、家で片づけをされている方もいらっしゃるでしょう。そこで見つけた何かは、誰かにとっては必要なモノであるかもしれません。

プロフィール

2004年TBSに入社。「イブニングワイド」、「Nスタ」などの報道番組や、「はなまるマーケット」、「ビビット」などの情報番組も担当。ボクシングや相撲のスポーツ実況から寄席演芸までジャンルにとらわれず、体当たり取材。現在は「Nスタ(日曜日)」「ひるおび!」を担当。


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