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新型コロナの影で・・・付き添い制限で子どもと会えない家族の苦悩(2020年5月11日Nスタ)

新型コロナウイルスの感染拡大は、難病などの治療のために入院している子どもたちにも影響を与えています。治療中の子どもたちの多くは免疫力の低下など細心の注意が必要です。このため、病院側は感染防止策として、家族との面会や付き添いを制限せざるをえないのです。わが子と会えない家族たち、それぞれの苦悩とは?

難病と闘う少年と家族

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小学6年生の岸部蹴くん
小さい頃から地元のサッカーチームに入り、運動が大好きです。

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元気に見える蹴くんですが、実は小学1年生の頃から難病と闘っています。これまでの入院は45回に及ぶといいます。

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母親の知佐子さん(写真左)は言います。

「今こうやって治療中ではあるんですが、家にいてくれることを噛みしめています。目の前にいることが一番の幸せ」


蹴くんは今年3月から4月半ばまで入院していました。母の知佐子さんもできる限り病院に泊まり込み、息子の闘病を支えてきました。

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狭い簡易ベッドで眠り、コンビニ弁当が続く毎日。小児病棟では、子供と泊まり込む「入院付き添い」をする家族は少なくありません。

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知佐子さんは振り返ります。

「蹴の横で眠れた時、すごく幸せで」

難病と闘う我が子と一緒にいる時間を大事にしていると言います。
蹴くんはその後無事に退院、自宅で家族と過ごすことが出来るようになりました。

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しかし、この入院から退院までの間にも新型コロナウイルスの感染は拡大し、病院を取り巻く環境はどんどん変わって行きます。院内感染を防ぐために、全国の病院は面会や付き添いを急速に制限せざるを得なくなります。

蹴くんの入院していた病院では新規の入院付き添いをストップさせ、面会時間も1日3時間のみに限定しました。

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このルールが続く限り、蹴くんが再入院となったとしても泊まり込んで付き添うことはできません。今後、つらい治療の時に背中をさすることも出来なくなるのではないかと、知佐子さんは不安に感じています。


面会時間や付き添いの制限は全国でも

新型コロナウイルス拡大の中、全国の小児病棟では不安を抱えている家族がサポートを必要としているに違いない―。子供が入院している家族を支援する活動をしているNPO法人「キープ・ママ・スマイリング」は、4月下旬全国の医療機関に入院中の家族を対象に新型コロナ下での不安や困っていることについて、緊急アンケート調査を行いました。(インターネットによるWEBアンケート、4月末時点で30件回収)すると、様々な環境の変化に不安を感じ、戸惑う切実な声が聞こえてきました。

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「本人がだんだん大きくなって会いに行くとにこにこ笑ってくれて。帰るときはすごく寂しそうでつらい」(入院中の生後8か月息子と1日2時間しか会えなくなったママ)

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「会いたいし心配でたまらない。寂しい思いをさせてごめんねと思ってしまう」(1歳半の娘と原則15分しか会えないママ)


子どもへの感染を防ぐためには制限は必要だと理解しているからこそ、親たちの悩みも尽きません。

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「死ぬかもしれない大手術の前に面会時間の制限が出てしまい、子どもとの貴重な時間が奪われて悲しかった」(1歳未満の保護者)
「感染を防ぐため、原則24時間付きそうか、完全に預けるか選択を迫られた。付き添いを選んだが、長引けば付き添う側が体調を崩すと思う」(3~4歳未満の保護者)
「プレイルームでお友達とも遊べなくなり、ストレスがたまっている」(1~2歳未満の保護者)
「面会時間が制限され、ママに会えない子供たちの心が心配。何かケアして欲しい。面会が終わり帰宅したら、子供に会いたくて悲しくて寂しくて涙が止まらなくなった。保護者のケアも必要かもしれないと感じた」(3~4歳未満保護者)
「どの人もかなり気をつけていると思うが、院内感染がすごく怖い」(2~3歳未満保護者)

「入院家族は医療の隙間に落ちている課題」

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アンケート調査を行った「キープ・ママ・スマイリング」の代表、光原ゆきさんは、自身も泊まり込んでの入院付き添いを経験したことがあります。

Q 入院中、親子が会えなくなることでどんな影響が考えられますか?

光原さん:
もちろん、病棟の看護師さんは精一杯やってくれているのですが、人数パワーに制限があるので、泣いたらすぐに来てくれるというわけにいかないですよね。そうすると子供もわかってきて、目が絶望していくこともあるかもしれない。お母さんに会いたい、話すことで安心したい。そうできないことで孤独感が増して笑顔がなくなっていくだろうなと想像します。

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Q 病棟のスタッフの声は?

光原さん:
看護師さん、病棟スタッフの負荷は増えていると聞いています。子供たちにすごく寄り添ってくれる方々なので、何とかしてあげたいけれど、どうしたらいいか何が出来るだろうかという声が看護師さんたちから聞こえてきます。

Q 団体として今はどんなサポートをしていますか?

光原さん:
私たちは病棟にいるお母様たちに食事を届ける活動をしてきました。
今はコロナの影響で、ボランティアスタッフを集めて調理することは自粛しています。そうして作っていたお弁当の代わりにシェフ監修で商品化した野菜たっぷりの缶詰を大学病院にお届けしたり、パンやクッキーを送ったりしています。

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Q 今後はどんなアイディアがありますか?

光原さん:
入院家族は医療の隙間に落ちている課題なのかな、と思います。病院が手を伸ばすのが難しいところに、入院付き添いの経験とつらさがわかっている私が、何か出来ればいいなと思って始めた活動。スタッフ一同出来ることは何か、頭をひねっている最中です。(取材:社会部 髙橋舞衣記者)

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山内 あゆ TBSアナウンサー

取材のきっかけは、大学病院に勤めている友人のひとことでした。「新型コロナで病院スタッフはもちろん大変なんだけど、小児病棟の子どもたちが寂しさに耐えてがんばってるのを知ってる?」3月、全国一斉休校が始まった頃のことです。私は3人の子育てをしながら働く母として急激な変化に動揺し、周囲に不安と不満をまき散らしていました。私は自分の視野の狭さと無知を恥じました。この瞬間にも、小さな子どもたちが家族と面会も出来ずに静かに病気と闘っている。学校が休みで困ったもんだ、せめて校庭くらい開放したらどうか等々と文句ばかり言う私を一旦やめにして、その小さな声をニュースで伝えられないものだろうか?調べていくうちに、NPO法人「キープ・ママ・スマイリング」の活動に行き当たりました。このコロナ騒動以前に、入院している子どもの家族は闘病に伴う様々な問題を抱えていたこと、さらにコロナの影響で問題が複雑になっていることがわかってきました。現状の深刻さの一方、代表の光原さんはあまりにも陽気でサバサバした人物。この明るさが多くの人を惹きつけ、支援の輪を広げているであろうことがすぐにわかりました。「キープママ」はあっという間にアンケートを行い、取材協力してくださる家族を紹介してくださり、新たなスポンサー探しにまで挑戦しています。会うことが出来ない子供と家族のために、何を差し入れたらいいのか、テレビ会議方式でリモート面会は出来ないものか、医療者の意見も取り入れながら「今できること」を摸索している姿を放送したいと強く感じました。このnoteには、実際の放送では時間的な制限がありお伝えできなかった部分を中心に再構成したものを掲載しました。アナウンサーとして原稿を読んで伝える仕事から一歩踏み出してみて、少し視野が広くなりました。継続的に取材が出来たらいいな、と思っています。

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