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コロナ危機と報道カメラマン シリーズ「いま届けたい」①

聖火リレーが通るはずの桜並木、家族連れで賑わうはずのイルカショー、無人の公園に咲く満開の藤棚ー。新型コロナウイルスの感染拡大により想定外の風景が日常となった。TBS報道局のカメラマンたちがこの間撮影した映像にこめた思いをつづる。

ストレスばかりの生活の中で

小学校6年生の長男が朝食を食べながら泣いていた。母親から学校の休校と卒業式が行われるか分からない状況になったことを告げられたからだ。「休校イェーィ!」というリアクションを想像していた自分は戸惑いながらも、なんとか励まし学校へ送り出した。いま改めて考えてみると、この家庭でのワンシーンが、シリーズ企画「いま届けたい」の出発点だったような気がする。

その後、ニュースは日々の感染者数増加を伝えている。「緊急事態宣言」という聞いたことのない衝撃的な言葉も飛び出した。暗いニュースを避けるようにドラマやバラエティを見る時間が増えた。

休校が始まると最初に音を上げたのは妻だった。三度の食事、子どもたちが1日中いる生活、友達としゃべれないという3重苦に、妻はキレッキレの毎日を送っていた。出張から久しぶりに帰ってきた我が家はまさに地獄絵図のような状態だった。いつ皿が飛んできてもおかしくない状況の妻と、それをさらに挑発するかのような子どもたちのグダつきっぷり。

そんな地獄の中にもささやかな幸せと呼べるようなものはあった。普段は床の一部となって漫画を読み続けている長男が晩飯を一緒に作ってくれたとか、ケチで有名な次男が会社に行く自分に大切なペロペロキャンディーをくれたとか。ストレスフルな生活の中でもほんの一瞬、goodニュースみたいなものがあった。ウチみたいな家庭があるであろう今、ニュースにもそういうものがあっていいと思った。

外出自粛が続く中、心の清涼剤になるような映像を届けたい。昨年、義母が行って気に入った初夏の藤棚を思い出し、あしかがフラワーパーク(栃木県足利市)の取材を思いついた。

園全体を包む甘い香り

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この香りを伝えられないのはものすごく残念だった。広告用に撮影された写真や、いわゆる「インスタ映え」を狙った写真に惑わされ、実際に行ってみると見劣りする現場はたくさん見てきたが、ここの藤は裏切らないどころか想像をはるかに超えていた。

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大藤4本と白藤のトンネルは栃木県の天然記念物に指定されている。1000㎡にも枝を広げる大藤。2014年にはCNNの「世界の夢の旅行先10か所」に選ばれている。

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水面に映る藤棚

この場所が去年10月の台風19号で浸水被害あったことを初めて知った。草花はほとんどダメになり、大藤も腰の高さまで水につかった。スタッフ総出の懸命な努力でわずか8日で仮営業までこぎつけた。春にはきれいな藤をさ咲かせ、これまで応援をしてくれた人たちに恩返しがしたいと職員たちが頑張ってきた中で新型コロナが発生。「見ていただきたかった」とパークを管理する長谷川さんの話す表情にはくやしさが滲んでいた。今年の藤は過去20年間で5本の指に入るほどの咲き具合だったという。

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(写真:あしかがフラワーパーク パーク管理部
長谷川 広征さん)

今回の放送は、ディレクターや記者はつかずに、取材、撮影、編集のすべてをカメラマンである自分が行った。思いは伝わっただろうか。

【JNNニュース 5月4日放送】

40才過ぎて初めて緑に癒やされる

なんとか無事オンエアを終えた。その日は、以前社会部で記者をしていた関係で、夕方、厚生労働省記者クラブへ応援に行くことになっていた。時間調整のため、日比谷公園のベンチに腰掛け早い晩飯を食べる。公園には最近名前を知ったネモフィラなどが咲いていた。いつの間にか癒しを届けるはずだった自分が緑に癒されている。普段ここに集うサラリーマンはこれを求めて来ているのか。なるほど、その気持ちがよく分かった。人が見ていようが見ていまいが一生懸命花を咲かす草花に僕の心は洗われた。

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取材:増田 正史 カメラマン

2003年入社。入社後、撮影、音声など技術を学ぶ。政治部、社会部を経験。現在古巣の映像取材部にもどり報道カメラマンとして現場に立つ。