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読書記録【M資金 欲望の地下資産(藤原良著)】

こんにちは。
皆さんは「M資金」というものをご存じでしょうか?
「M資金」とは、旧日本軍の隠し財産で、それを戦後の日本を統治したGHQが押収し、管理運用した莫大な資産、とのことです。
この「M」というのはGHQで経済科学局長を勤めたマーカット少尉のイニシャルを取ったものとされています。

私たち一般の人々が「本当に!?」と思ってしまうような、しかし実際に起きている詐欺の世界の話のようです。
ノンフィクションですが、なんだか作り話のような面白さもある話なので、
ぜひ最後までお読みいただければ嬉しいです。


①M資金の誕生

旧日本軍の隠し財産は他にも嘘か誠かわからないような話が多く存在していたのですが、昭和21年に東京湾海底から金塊103個を含む貴金属が発見され、近くに軍の施設が存在したこともあり、
「これは旧日本軍の隠し財産である」
という見方が強まったようです。
それによって噂レベルだった「旧日本軍の隠し財産」が真実味を帯びて認識されるようになりました。
さらに隠し財産を持ち出した者のニュースが報じられたり、
隠し財産の不正持出を操作する部署が検察庁内にできたことなどから、
「旧日本軍の隠し財産」が広く認識されるようになっていきます。

そして日本が経済成長を続け、諸外国と肩を並べるほどになっていた1969年、
日本経済界で次のような「M資金」と言われる不思議な資金援助の話が上がるようになりました。

「サンフランシスコ講和条約が日本と結ばれた際、それまでGHQが管理していた旧日本軍の隠し財産が日本に返還された。これは時価数千億にも上り、
日銀がこれを資産運用した結果、数兆円にも膨れ上がったとのこと。
運用は「大蔵省特殊資金運用委員会」が主導し、今後はこれを日本経済を担う有力企業に極秘で資金援助していく。」

この嘘みたいな話が経済界にどんどん広がっていき、ありもしない架空のお金をもとにした詐欺が広まっていったのです。

本書はこの「M資金」に踊らされる人々とそれを取り扱う詐欺師の思惑をリアルに描いています。

②なぜ「M資金」に踊らされてしまうのか?

本書には昭和から始まり、令和にも蔓延る「M資金」を用いた詐欺に
数々の大物社長や経済人が騙されいく様子が描写されています。

なぜこんなに怪しい「M資金」に数々の大物が騙されてしまうのか?
第1の理由はロマンです。
「あの時事件になっていたM資金は本当にあったのだ」
「まさか本当にあるとは」
詐欺師から話を聞いた人々はこのような気持ちになり、
さながら財宝を掘り当てたかのような陶酔感から深みにはまっていくのです。

「いやいやいくらロマンとはいえ、幾つも事件になっているし、
流石に騙されないだろう」
私もそう思ったのですが、どうやら日本には一定数の「M資金信者」がいるようです。
彼らは「M資金」と聞くと我を忘れてしまう人々です。
それがなんと会社の役員レベル・大物経済人の中に一定数いるとのこと。

なんだか嘘みたいな話です。
しかし同じような手口で事件が幾つも起こっていることから、
その事実が裏付けされてしまうのです。

「M資金信者」はその熱烈な信仰心から、自ら詐欺集団に
「この人はM資金に興味がある」という情報を売ってしまうのです。
そのようにM資金に興味のある人が裏でどんどんと繋がり、
詐欺事件が時を超えて繰り返される、という構図のようです。

お気づきの方もいるかと思いますが、
「M資金信者」は社会的にかなりの地位にいる方も多いようです。
また、自分達が詐欺集団に情報を持ち込む(売る)ことで、
その真実にまで辿り着けると思っているのです。

人間のロマンを信じすぎる純粋さとそこにつけ込む詐欺師の狡猾さ。
これらが歯車のように噛み合い、止まることがない詐欺の動力となっているようです。

第2の理由は、優越感です。
「これは日本経済を担えるあなただけに教える話です」
「あなたが日本の経済を担うと国に認められたのです」
そのようなホラを吹いて、詐欺師たちは大物に近づくのです。

しかも用意周到にどうしてもお金が欲しい状況にある、かつ、M資金というものに抵抗がなさそうな人を選び、その心を選民的な言葉で揺さぶる。
さらに「〜〜委員会」「〇〇基金」などと大仰なワードで吊り上げる。

いいカモを的確に狙い打てるのは、「M資金信者」の全国に張り巡らせたネットワークがあるからです。

詐欺師の周到さに怖くなると同時に、人間の弱さを感じずにはいられません。

「M資金」めちゃくちゃ怪しいなぁと思ったんですが、
「M資金」=「ワンピース(ひとつなぎの財宝)」と考えると少し腑に落ちる気がしました。
ロジャーが「全てをそこにおいてきた。探せぇ!」と言ったワンピース。
それが大海賊時代をもたらしたんですよね。
M資金を追う人々も、そのような気持ちで、
あるかもわからない伝説を追って
盲目のトレジャーハンターになってしまったのでしょう。

③まとめ

「M資金」を用いた詐欺を追ったノンフィクション作品ですが、
信じられないような世界線の話もあり、嘘か誠かわからない、
だけど本当に起きたことというなんとも不可思議な世界に連れて行ってくれます。

でもきっと誰もが、
「あなたが追い求めたものが目の前にありますよ。
それをあなただけに教えてあげるし、譲りもしますよ。」
と言われたら少なからず心が動いてしまうなとも思いました。

常に冷静な目を持ったもう1人の自分を持って、
世界を見る視点が大切なのかもしれません。


最後までお読みいただきありがとうございました。
ぜひこんな面白いノンフィクションもあるよ、というのがありましたら教えていただけると幸いです。


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