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2019年8月の音楽(とか)のこと

お盆に入ってようやく引っ越しをして居を落ち着けることができた。4ヶ月のホテル暮らしからの解放。この話を色んな人にしていると「会社がお金出してくれてホテル暮らしとかいいじゃん!」派も相当数いることがよく分かるんですが、生活スタイル的に僕は普通に嫌でした。気軽に洗濯もできない(外干しスペースもない)し、自炊はできないし、単純に狭いし、何といっても音楽をスピーカーで、ひいてはレコードを、聴けないのがどれほどしんどかったか。新居についてすぐ、何にもない部屋でターンテーブルもスピーカーも床置きして最初に聴いたレコードはJudee Sillでした。これは前から決めていた。新調したコンポから流れるあの日の「Jesus Was a Cross Maker」を忘れることはないでしょう。

2週間で順調に整ってきた我が家。セリアの「インテリアウォールバー」が6,8本欲しいなーと思って行ってみたら、在庫が4本しかなかったので壁は一旦こういう配置になりました。30分かけてチャリで向かったら、帰りにゲリラ豪雨に打たれた。壁に刺すピンはもう少し持ち手の短い方がよかった。先週の土曜。

6年の一人暮らしを経たうえで一旦リセットしての新居生活であるからには、これまでの経験を生かして、インテリア関係での後悔、なんとなく気持ちよくないけどそのまま放っておいてしまったあれこれを一掃して完璧な居住空間を作り上げるぞという心持ちで今はいます。とりあえず掃除を考えたときに、カーペットや足の低い家具はひたすらに悪でしかないので、フローリングむき出し、家具は全て足が高めのものというのを徹底している。そんな我が家で今のところ一番気に入っている仕様がお風呂場の換気システムです。その異常なパワーで浴室はいつもカラカラだし、「乾燥」モードなんか選択してしまった終いには、洗濯物も2時間でカラッカラになってしまう。


お盆休みは引っ越しで終わり、ひとまず研修が終わって部署に配属されたことでまた環境が変わり、これまで買いためてきたものの聴けてなかったレコードは聴けるようになり、レコード店に足を運べば聴いてみたい作品が次々出てきて、相変わらず毎週マイライブラリに新譜は積みあがっていく。落ち着いた時間があまりない中で、いろいろ手を出したくなってしまって結局なんだかまとまらなかった。9月は精神的にゆったりいきたいものです。


新しく聴いた音楽

買いためていたレコードがやっと聴けるようになった。買って4ヶ月寝かせた待望品も、現在進行形でどんどん増えていくものも、どれを聴いてもことごとくよくて視聴時の自分の耳はどうやらかなり信用できるようです。

中でも待ってましたとばかりに手始めによく聴いたのはこのあたりでしょうか。

例えば、バンジョー弾きのSSW、Woody Simmonsの1stアルバム「Oregon Mountains」('77)。裏ジャケの風貌も近しいものを感じますが、Judee Sillをよりのどかにした感じのフォークカントリーサウンド。盤面、インナースリーブ兼歌詞クレジット裏表、裏ジャケと全ての装丁が抜群に可愛い。これが参加ミュージシャンのスナップショットをコラージュしちゃった最高のインナースリーブ。


初めの4枚のLPの写真に戻って右上のSteve Ferguson「Steve Ferguson」('73)は買った時から「これは間違いない」という段違いの信頼感があった1枚です。何せレーベルはあのAsylumだし、この作品を評するレコード店の解説文はこう。

例えれば、黒いダン・ペン。
ピアノ系SSWの名作として名高いアルバムです。なんといっても曲が良い。しかも、彼の肌の色は黒いのです。NY録音らしいブリルビルディング伝統の洗練性と、彼自身の血からにじみ出るソウルフルでやさぐれた味わいが拮抗しています。例えれば、黒いダン・ペン。作品がこれ一枚だけなんて信じられない。NRBQの初代ギタリストとは別人。

アートワークやピアノ系SSWという触れ込みからもうちょっと静かなのを想像して聴いたら、黒いDan Pennと評されているだけあって、結構華やかなバックにソウルフルな歌が乗るスワンプテイストのかなり強い作品だった。それはそれでとてもいいわけです。


次に左下Michael Katakis「A Simpler Time」('77)。多分これが唯一作。ハンチング帽をかぶり、ちょっとふっくら体型の当時20代の新人が若かった頃を懐かしむ老人目線の歌をシンプルなピアノとアコギメインのトラックの上で朴訥と歌う。時たま入るストリングスの録音がとてもきれいだ。いまだにCD化されず、常にひっそりと聴かれてきた、作者の小さな息吹が聴こえるようなレコードに出会える瞬間は何にも代えがたいことなのだ。


最後に内容的に最もパンチがあったのは左上のEllen Mcilwaine「We The People」('73)。これは結構有名なのではないか。「free soul collection」というシリーズで出ている国内版を買ったんだけど、そういう再評価があったらしい。1曲目を再生するといきなり脱臼したような音色が癖になるアコースティックギターと突き抜けるようなコーラス、ブラス、ファンキーなリズム隊、ソウルフルなボーカルとそれぞれに粒立ったパートが意外にも整然とあるべき位置に収まっていてめちゃめちゃ聴きごたえがあって面白いです。他にもフォーク系SSW的な品の良さを基盤にしながらも、同時にフィジカルに直に響くような実に肉体的な曲ばかりで、例えば中村佳穂が好きな人とか聴いてみても面白いかもしれない。「Father Along」というゴスペルトラディッショナルのカバーをA面最後に自然と組みこんでくる感じも実に今っぽくて最高。

なるべくストリーミングでシェアしたいと思いつつもあえてそういうものを選んで買っている結果、当たり前のように未配信なので、ここまで全て出どころのよく分からないyou tubeでシェアするしかないのがちょっと煩わしい。レコードの簡単な情報と1曲くらいの視聴リンクをお手軽に提供してくれるサービスはないものだろうか。あったらあったで複雑な気持ちになりそうですが。

最近だとseasonというフランスのバンドが71年に発表したアシッドフォークの希少盤として名高い「DOREMBUS-JACQ-ARONDEL-MICHALAKOS」のリイシュー盤(中古)を買ってよく聴いている。Sufjan Stevens「Carrie & Lowell」を想起するガラス細工のように繊細なサウンドデザインで奏でられるフォークソングが基本ですが、後半には7分越えのピアノソロトラックがあってそれもことごとくよくて素晴らしい。最近また潮目が変わってきている感じはありますが、ここ数年の雰囲気によくあったアンビエンス(そもそもアシッドフォークが相性いいんだと思う)が聴けると思うのでぜひ。検索してもほとんど情報ないですが、再発盤はかなり安かったのでそれなりに出回っているとは思う。


廃盤となっていたシャムキャッツの初作「はしけ」がLPでリイシュー。自分はシャムキャッツの初期がとても好きな感じの人ではないと思っていて、劇的に期待していたわけじゃなかったんだけど、これがまさに劇的によくてびっくりしてしまった。近作や「たからじま」はそうでもなくて「AFTER HOURS」とこれが異常に好きです。もうちょっとディスコグラフィ全体聴き直さないと確かなことは言えないけど、全体の中でのドラムのミックスが両者一番近しい気がする。そのドラムを始めとしてシャムキャッツは最初から演奏がいいですね。

そして「魔法の絨毯」は名曲。

オレンジの映えるブルーのカラーヴァイナルも可愛い。

待望のBon Iverの新作は僕が今求めていたものとは少し違った。

ジャスティン・バーノンにしか出せない歪みみたいなものがあまり感じられない気がする。むしろ僕がBon Iverの4thで受けるはずだった衝撃を代わり体験させてくれたのは30年以上前('86)にリリースされていたArthur Russell「World of Echo」。

「22, A Million」期のBon IverとNick DrakeとAntony & The JohnsonsとThe xxを合体させたよう。

一番有名なこの編集盤もまあ充分変なんですが、聴いてなかったこっちはここまでとは思わなかった。この年代でそもそも使われてたのかしらんけど、グリッチノイズの効いたパッドっぽい音は最高だし、ひたすらに生々しいボーカル、チェロ、シンセも何でこの時代にこの音が作れたのか全く意味が分かりません。

みなさん知っているとは思いますがジャスティン・バーノンはすごい人なので、僕ごときが言えることなんて何もないんですが、例えばBruce Hornsby - yMusicラインであったり、室内楽的なところに進んだりしても面白かったかなと思います。

新作はここら辺でしょうか。

インディー臭がすごい最近の女性SSWは逆にちょっと敬遠してしまうキライが無きにしも非ずなんですが、Clairoはすごく良かった。ロスタムのプロデュースが効いているんだろうな。出たばっかりのMura Masaとのコラボレーションもグッド。

TwitterもフォローしてもらっているMON/KUさんの初EPもまとまった作品として聴きやすくなったのを機によく聴いた。

なんかすごいイベントが僕の住む街で行われるようですが、ガッチガチに行けない日程なのが悲しいです。

サマソニ期間は中継も全く観ずにTaylor McFerrinの新作を聴いていた。前作よりノリノリでこれもまたいいです。今年のミッドナイトは彼が一番見たかったな。

つい先日のリリースではまだWhitneyしか聴けていない。若いインディーロックリスナー達に向けて、老害にすらなれない自分の乏しい知識(とそもそもの年齢)は一旦置いておいてこんなことを言ってみる。

70年代のフォークロックは面白いよ。まあこの作品はソングライティングはともかく、70年代まんまではなく絶妙に今の音に整えられているから魅力があるわけですが。ボーカルの録り方なんかはTwitterで見かけてその通りだなーと思いました。当時だと「バックと一体」みたいな感じに近くなるボーカルが、これだとパキッと浮き出るように聴こえてきてこれは確かに聴きやすく感じますね。


レコ屋で見つけてストリーミングにあるから帰ったら聞こーと思ってほったらかしてるシリーズも貼っておきます。半メモ用。


ライブ

8/15 BROCKHAMPTON @ STUDIO COAST

8/25 蓮沼執太フィル @ 日比谷野外大音楽堂

サマソニ前日にエクストラ枠のBROCKHAMPTONを観に行った。中の階段が閉鎖されているほどガラガラのスタジオコーストは初めてだったけど、ライブはグッドバイブスに溢れていたと思う。「iridescence」からのプレイは少なくて、フィーリングはかなり新譜「GINGER」モードだっただろうか。終演後サークルの後輩を見つけて肩に手を置いたらとんでもない量の汗をかいていたので、フロントエリアの様子が一際よく分かりました。

先週は大好きな蓮沼執太フィル、まさかの日比谷野音公演へ。最悪の座席で最高のライブを観た。僕にとってオールタイムベスト級に愛着のある1stアルバム「時が奏でる」が再演された第2部はもちろん、ゆかりのあるゲストが入れ代わり立ち代わり勢ぞろいした第1部も本当に素晴らしかった。

第1部では、「windandwindows」、「ある鼓動 feat. 原田郁子」、「FULLPHONY」、第2部では「wannapanch! - Discover Tokyo - Sunnyday in Saginomiya」から「SoulOsci」、「Hello Everything」と続く終盤が特に印象深い。

もともとサステナブルなプロジェクトではないというのを念頭に、「これの後はしばらく無いかも」という思いを常にもって観てきた蓮沼執太フィルのライブの中でも、「初作を大きくフィーチャーしながらもオールタイムを意識したセットリスト」、「お祭り感のある過去最大キャパ会場」、「木下美紗都さんのフィルでのラストステージ」、「夏の終わり」と一つの"区切り"、"終わり"を今回は一際想起して切なくなる。今年はまさかフジロックで彼らのステージが観れるとも、1stの再演が観れるとも思っていなかった。楽しい夏だった。いつの間にかストリーミングで配信されているこの作品がいつまでも聴かれ、これからもまたたくさん演奏されますように。

終演後にはTwitterで交流のあった友達と初めて会って、飲みに行きました。音楽の話ができる人が増えるのはやはりいいものです。また遊ぼうという誓いを立てて別れた。

その他雑記

昨日近所のホームセンターに行ったら、交通整備のおじさんの傍らに置かれたレインコートが入っているらしきビニール袋には大きな文字でこう書かれていた。

「雨が止んだらすぐ脱ぐ!消耗品」

あらゆるところがもう少しずつ余裕のある社会になればいいなーと思います。

どうぞお気軽にコメント等くださいね。