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2022年6月の(音楽とかの)こと

何はなくとも先に開催された FESTIVAL FRUEZINHOである。Sam Gendel & Sam Wilkesのステージである。

立川ステージガーデンのほぼ最前でサックスとベースによる親密な掛け合いを見守りました。いや本当に見事なステージでしたよ。私が見たかったSam GendelとSam Wilkesとは、コンサートとはまさにこれなのだ!!と叫びたくなるようなそんな気持ち。

両者リハで出てきたときから、記名性が高く、直ちにいくつかの楽曲が思い浮かぶ "あの音" を次々繰り出していてそれだけで感動。

本編では聴き慣れた音色をベースにしながらも、同時に彼らの共作周りの録音作品とは離れた音色やフレーズ中心に展開されることが多くてそれがまた興味深かった。特にその傾向が強かったのがサム・ゲンデルの方で、南米音楽を通過した日本のジャズミュージシャンというか個人的にそんな風に聴こえる音色・フレーズが目立った気がします。

例えば、篠田昌已や中尾勘二といったサキソフォニスト、グループで言えばストラーダや、コンポステラといった辺り。篠田昌已と西村卓也によるサックスとベースのデュオ演奏作品は改めてけっこう聴き返したりしています。これが素晴らしいのです。


サム・ウィルクスの方も弦4本だけで作り出しているとは思えない音色のヴァリエーションに加えて、総合的な "巧さ" を感じる演奏に圧倒された。例えばゲンデルがずっとオブスキュアなハーモニカを吹いていた曲に拡がりを持たせて成立させてしまうところなんかに、そのプレイヤビリティを垣間見た気がします。あとウィルクスは演奏中の表情が終始楽しそうでよいですね。


そんなウィルクス作曲のレパートリーはお気に入りばかりであるから、あまり期待はせずともどのくらいやるのかしらと密かな楽しみにしていたら全く演らず。「Run」くらいは聴けるのかなと思っていましたが。

そもそもかの有名な共作アルバムからも「GREETINGS TO IDRIS」と「BOA」の2曲しかプレイされなかったのだけれど、何度となく "あの音色" だけは聴こえてきていたからに、ついにそれと分かる形でプレイされた瞬間には「本当に演るんだ!」という驚きを含んだ感動があったものです。特に「GREETINGS TO IDRIS」は嬉しかったなー。

全体の構成として、「GREETINGS TO IDRIS」と「BOA」をそれぞれ山場として持ってきた2部構成のように感じるところもあり。

あと他に目立ったのはルーパー使いで、サックスへのブレス音や、ヴォイスパーカッション的な素材を流れるようにその場で一通り録音しループさせることで、これも例によって "あの音色" というべきリズムトラックがたちまち出来上がっていく様はどこか開放的であり見惚れた。

ときにルーパー (ループステーション)と言えば、2人でステージに上がっていた時期のチャットモンチーがその象徴であると相場が決まっていると思うのですが、そんなことはないですか??

もっと言うと今回のSam Gendel & Sam Wilkesのステージもチャットモンチーが切り拓いた地平の先であるとかないとか……


他のアクトについても少し。ceroは2年ぶりに観たら変わっていないところは本当に変わっていない気がしたが、あれっ?という変化もちらほらあり、ゆっくりと遠目で楽しみました。変わったところと言えば「Double Exposure」のブレイクで極限までドラムスをミュートした場面は吹き抜けの会場に流れ込む環境音が際立っていてこの日のハイライトの一つに数えられよう。「outdoors」→「Poly Life Multi Soul」という繋ぎも私は初めて聞いた気がするのだけれど、珍しくはないのかしら?新曲群では「Fuha」の演奏が非常に仕上がっていてよかったな。

坂本慎太郎は3階席でまどろみながら聴く。そして最後にBruno Pernadasはというと、実はよく分からなかったというのがここだけの話だ。こちら側のコンディションの問題という可能性も往々にしてあるので悪しからず。

総じて素晴らしいイベントで大満足。随所にこれは私にとって3年前のフジロック以来だなーと実感するヴァイブスがあり、その事実だけで大変グッときました。

そんなフジロックですが、今年は残念ながらお休みしようと思います。行けばなんだって楽しいのは重々承知であるけれど、それにしても観たいと思える決め手になるアクトが見当たらないのだ。Vampire Weekendくらいかな。
その代わりと言っては何だが11月に静岡で行われるFRUEには脚を運ぼうと思っています。Pino Palladino and Blake Mills featuring Sam Gendel & Abe Roundsは正真正銘のメインアクトであるし、もはやFRUE常連と呼ぶべきSam Amidonがストリングカルテットを従えて演奏するということで、これは見逃せないのです!!



例年5,6月は音楽を聴く調子があまりよくない気がする。というかそもそも全体的な調子があまりよくない気がする。反対に来たる夏は調子がいい記憶しかない気がする。

2022年の新作を少しずつ聴いて数枚とても気に入る。

田辺玄とharuka nakamuraによるユニットorbeの1stフルアルバムは全ての瞬間で狙いすまされたように激しく好みの音しか鳴っていなくて、もはや驚異である。安易に無限に聴けてしまうので、それはそれで怖さというかためらいを持ってしまい、今では数日おきに聴いて都度ウソのように感動しています。6月にはなんとプラネタリウムでの公演が行われていたそう!!痛恨の見逃しである。今からでも追加で開催されるのならば、全てを投げうってでも観に行くのですが。

Tomberlinはリズムセクションにこのタイプの音楽ではあまり出会わないおもしろさがありよく聴いていた。

そしてなんといっても寺尾紗穂の新作『余白のメロディ』である。心が震えました。感想はもう少ししてから(年末になってしまうかもしれないが)、期間をあけて大切に書こうと思います。



ciruelo recordsにてしばらく探していたJON HASSELLとBrian Enoの共作『Fourth World Vol. 1 - Possible Musics』のUSオリジナル盤が破格で出ていたので、即入手。ストリーミングにはないけれど、これが最も正統なJON HASSELL入門であると言えやしまいか。


6月リリースの作品と言えば他には、dancyuの7月号アジア麺特集、そしてシタール奏者 石濱匡雄のレシピを友人であるタブラ奏者のユザーンが編集・監修したベンガル料理本の2作目「ベンガル料理が食べたい」はどちらも欠かせないのです。どちらもきっちりと読み込みました。

特集次第で隔月で購入するようになって久しいdancyuですが、先月号「アジア麺」特集はマイオールタイムベストにふさわしい充実ぶり。徹底した取材には本当に頭が下がる思いです。この夏はまず拌麺から攻めていきたいと思います。

もう初っ端扉ページのコピーと、そこから6ページのダイジェスト写真からしてとびきりキャッチーで素晴らしいのです。

ピリッと唐辛子、華やかな花椒、
ギュッと搾った酸っぱいライム。
力強く香る元気なパクチー。
つつつと麺を手繰ったら
香りも刺激も旨味も全部のってくる、
今の気分は「アジア麺」!
海を越え国境をまたぎ、
中国、韓国、タイにベトナム、マレーシア・・・・・・
この美味しさに目覚めたら、
きっと今までより、
クリアでビビッドな夏になりますよ!

「ベンガル料理が食べたい」は、シタール奏者 石濱さんのあまりの料理の腕に魅了されたユザーンがそのレシピ集が欲しいと思い立ち刊行した前作「ベンガル料理はおいしい」に続く続編。

インド亜大陸料理のレシピ本に相当するようなものをそれなりに買ってきましたが、私がもっとも現時点で影響を受けているのがこの「ベンガル料理はおいしい」だと思うな。レシピの完成度の高さはもちろんのこと、読みものとしておもしろく、ベンガル料理 (東インドとバングラデッシュ) の不思議な肌なじみのよさに気付かせてくれた一冊でもあります。

ダールと呼ばれるシンプルな豆のスープは、そんな肌なじみのよさを象徴していると言っても過言ではないだろう。滋味深さと包容力の食べ物である。もし私が飲食店をやるのならば、ベンガルとその周辺の豆のスープ、煮物を中心に据えたいという漠然としたイメージがあります。

夏の訪れを待っていましたとばかりに甘長唐辛子とコリアンダーリーフを買いこんでペーストにし、1作目のレパートリーである「しし唐辛子のチキンカレー」を作る。尋常じゃない量のししとう・青唐辛子、コリアンダーを使うので、夏でなければとてもじゃないができないのです。

痛烈な青さを湛えた芳香とレモンの酸味。もしかしたら全インド料理中これが一番好きかもしれません。浅草の近くにあるガヤバジというお店のレギュラーメニューにフィッシュカフリアルという名前で、ほぼほぼこれの具材がフィッシュになったバージョンがあるんですよね。気になる方はぜひ、マストチェックです。

1作目の米に合う料理というコンセプトを通過して2作目の「ベンガル料理が食べたい」ではさらに自由にベンガル料理の深淵を覗かせてもらい大満足。各章・レシピごとのコメント、巻末の石濱氏との対談と、前作にも増してユザーンのペンはキレキレで凄みすら感じるほどである。
テキストベースで今日本一おもしろい人間はユザーン説、あると思います。
(ちなみに石濱氏はユザーンのことを湯沢君と呼んでいます。)

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