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2022年5月の(音楽とかの)こと

キリン一番搾りのCMが清々しいほどにイヤ! 八嶋智人、矢本悠馬、中条あやみという面々が、「ビールにこだわりが全くない・むしろ苦手」であると表明した後、満を辞して一番搾りを飲むと表情が一変。「これちょっとホントにおいしいですね!」、「飲みやすいですね!」、「出会っちゃいましたね」と三者三様各々のレパートリーを振り絞り絶賛するという型なのですが、これが絶妙でして、んなわけあるかい!と画面にツッコみたくなる欲が異常なほどに湧き上がってくる。

百歩譲ってリニューアルした一番搾りがちょっとだけライトに飲みやすくなっていたとしても、「ビールにこだわりが全くない・むしろ苦手」な人間がビールに抱くイメージの権化としての範疇から決して逸脱しないのが一番搾りというシリーズではないか。より飲みやすいビールはこの山に山ほどあるのにも関わらず、ビギナーを一番搾りに誘導する広告をうつのは端的に正気の沙汰でなく、これはもはやある種の詐欺なのでは!?(さすがに言い過ぎか。) 一番搾りなら一番搾りらしく、もっとドンと構えた広告をうってほしいものです。


ゴールデンウィーク10連休。開幕早々、スパイス料理を巡る極小旅行に出る。名店と名高くどちらもしばらく前から行こう行こうと思っていた 押上 スパイスカフェと、九段下の牧谿をメインに据えた。

スパイスカフェのディナーコースは全てがちょうどよく行き届いていて素晴らしく感動。料理以外の要素もどこをとっても居心地抜群の空間つくりに奉仕しているように感じられて、終始最高のレストランだなと思い続けながら飲み食いした。

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サグ、魚のバナナリーフ包み焼、アルマサラ、ビリヤニ、サンバルといったもはや馴染みあるインド料理の日本ナイズ具合がどれも見事。角を丸めながらもフレッシュに香り、食材のポテンシャルを引き立たせるスパイス使いに先駆者としての手腕が現れていた。サンバルの味噌汁の影が見えるか見えないかくらいの舵取りなんかもおもしろかったな。


前菜盛り合わせとサクラマスのバナナリーフ包みまではジンソーダ、バターチキン (シンプルなチキングリルの下にカスリメティとバター香るグレービーが添えられたスタイル) は赤ワイン、そしてホタルイカのビリヤニ+カレー2種 (サンバルとラムキーマを選択) をハートランドの生ビールとともにかっ込んで一気に腹を膨らますという、まこと節操のないアルコールペアリングも完璧に決まって大満足。


一番搾りのCMに散々ケチつけた後で何だが、キリンのなかでもハートランドはしっかりとよいのです。ちょっと前から私の中でピルスナースタイルへ回帰の波が来ているのですが、それを牽引しているのがハートランドなのだ。

その尖ったところのない丸まったチャートが、ハートランドに限っては無個性でなく気品を示しているとでも言いますか。何やら奥ゆかしい味わいがあるように思うのです。炭酸もちょっと弱めに感じるかもしれない。近くのスーパーで売っている500mlの中瓶のルックがこれまた抜群でついつい買ってしまう。

ときに私がフェスを主催するのであれば、公式ビールはハートランド (とタイのChang) というところは譲れないな。


翌日は牧谿へ。インド×中国料理の深淵を体験した。

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羊・ココナツ・オムレツ、ホタルイカミント炒め、蒸し真鯛 発酵筍 ドクダミソース、羊レモングラス麻婆、鯉 ツボ草 咖喱、レモン炒飯を食べました。

鮮烈な表情のある一品ばかりで特にホタルイカミント炒めと蒸し真鯛 発酵筍 ドクダミソースが素晴らしかった。

店内L字のカウンターだけのレイアウトでどこに座っても店主さんの調理を間近で見ながら食べることになるのもまた良し。切りものとかの下ごしらえ的なパートもけっこうオーダーが入ってからやっていて少し親近感が湧いたと同時に、中華鍋使いに見惚れた。滞在時間中ほぼずっと流れていたyaejiのビートも異様なほどにしっくりきていて、最近は私も料理ミュージックとして真似させてもらっています。


GW後半には横浜ブルク13で公開初日の映画『マイスモールランド』を観た後、KAATでROTH BART BARONの全曲新曲ライブを観て、物販で『マイスモールランド』サウンドトラックのLPを買って帰った。ロット尽くしの一日。「New Morninig」は本当に好みの曲。オファーされたのはサントラだけだったが、三船さんが主題歌も作りたくなって自主的に作って送った風の話を聞いていたから、作品では流れないものと思っていたらエンドロールでしっかり流れて、真の主題歌としての役割を全うしていて感動した。

全曲新曲ライブと言えば、2018年9月に新代田FEVERで行われたアルバム『HEX』リリース前夜のものが思い出されますが、今回KAATで行われた公演を比較してみるとずいぶんと開かれたバンドになったなというのを実感する。奏者を360°ぐるりと囲む形の会場レイアウトは開放的すぎるあまり、開演前後には各人のセッティングを間近で見て、触れてしまう (絶対しませんが) ほど。楽器をやる人はたまらないだろうな。三船君のセッティング、工藤さんのメモ的な譜面 (アンコールで最後に演った氷河期#2のもの)、度々活躍する"マジの鎖"などを間近で見て撮影する。

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そしてセットリストも。

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2,3曲ごとにMCを挟んで、各曲の解説をしていたのも新代田FEVERでのステージと比較して開かれたと実感した理由の一つ。

岡田君のギターが「春の嵐」みたいで素直な8ビートが小気味良いJR東日本タイアップの「KAZE」、三船君のチャーチっぽいハミングが美しいこれまたしっかりと8ビートな「AERC」、工藤さんの16ビートがすさまじい「GOODBYE」あたりが特によかった。

MCの内容はポチポチとメモしていて、せっかくなのでほぼほぼ生データという形で挙げておきます。もし気になる方がいれば、セットリストと照らし合わせてご覧あれ。

メモを見返しても体感としても素直な8ビートのリズムが増えてきているのは一つ捉えておくべきポイントだろうな。

GW中はHOWL at KAATと銘打って、毎日KAATで公演をしていたROTH BART BARON。全曲新曲ライブ以外には西田修太、もしくは徳澤青弦弦楽カルテットあたりとのステージもとても興味を惹かれた上で見送ったのだけど、各日やけにセットリストが魅力的で悶える思い。特に西田修太との2ndステージはATOM、CAMPFIRE、crystal palace、よだかの星、dying for、Speak Silenceあたりが同時にプレイされたようだ。これはさぞかし素晴らしかっただろう。

そうこうしているうちに発表された夏の日比谷野音公演はすでに外せない予定が入っており、見送るほかなくあまりに残念。ロットのこれというステージは極力見逃さないようにしていきたいものです。ダメージがかなり大きかったので、最近はライブさながらのプレイリストを作ってよく聴いている。「NEVER FORGET」で本編が終わるイメージです。



それ以外のGW期間は本をたくさん読んだり、ドラマを観たり、レコードを聴いて過ごした。

ガルシア・マルケス『百年の孤独』があまりにおもしろく衝撃を受ける。
古典中の古典であるから難解かとけっこう構えて読み始めたのだけれど、思いのほか一つ一つのプロットの輪郭がしっかりとしていて入ってきやすく、淡々と読み進めることで独特のリズムが生まれてくるような感覚が心地よかった。

”まだ誰も死んだことがない村” というモチーフはあまりに素晴らしすぎる。これだけでどこか気味が悪く、インスピレーションを掻き立てられるような妖しさ全てを表現しきれてしまっている。

ガルシア・マルケスひいては『百年の孤独』に影響を受けた作家は五万といることは承知の上で、私のボキャブラリーで言うとするなれば阿部和重の神町サーガを思い起こさずにはいられなかった。ちなみに私は神町サーガ完結編の『オーガ(二)ズム』を刊行されてすぐに買ってから、3年間積んだままにしています。登場人物の相関図や書き出しを覗いてみるからに読んでいる間異常に体力を使いそうだし、それでなくても850ページあるので、完全に読み始めるタイミングを逸してしまったのです。


サーガというと待望だったアリ・スミス四季4部作の3作目『春』の邦訳版が刊行。4月に『秋』、『冬』をそれぞれ読み直してから、満を辞して『春』へ。

詩文に何度も接近しかけては思い出したように散文へと戻っていく筆致、美しい会話劇やプロットの数々は『秋』、『冬』、『春』と今一度連続で読んでみることでさらに輝きを増していくようだった。アリ・スミスの文章はやはり原著で読んでみたくなるな。

連作での (なんなら一冊中にも) 細かなミッシングリンクを探してみる面白さも3作目となるといよいよ極まってきた感があり。全然細かなではなく最大くらいのやつですが、『秋』で登場したエリサベスの父親が判明するシークエンスは一際胸に来るものがあった。


『春』で一際大きく扱われるイシューは移民・入国管理局について。日本ならば『マイスモールランド』、USならば『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』、そしてUKならば『春』と入管を描写した名作に数多く出会ってきて、そのどれもにおいて信じたくないくらいの仕打ちを受けている人々。ありもしない境界を引き排除することでどれだけの人が傷つけられたのだろうか、そしてそれが誰の利益に繋がるというのか。川和田恵真、ジェンジ・コーハン、アリ・スミスがフィクションの力に懸けたこと。まずは知ることだ。そして、何度も選択して小さな声を挙げ続けることだ。


もう一つ別のサーガの話。アルバカーキサーガ完結編となる『ベター・コール・ソウル』のS6がついに配信開始。一エピソードずつ大切に観て、その度に深く圧倒される。もうすべての演出が抜け目なく洒脱で、観ていてとにかくうれしくなってしまうのです。
そして久しぶりにレギュラーキャスト達の声を聞くとジミーもキムもハワードも、マイクも皆記名性の高く素晴らしい発声をしていて彼らの会話を聞いているだけでさらにうれしくなってしまうのだなー。

大きな流れの方は特に触れませんが、小ネタもすさまじく充実。E1開幕のフラッシュフォワードはもうそれだけで宝庫というべき。高級(架空)テキーラ “サフィロ・アネホ” のボトルキャップは私はパッとは思い出せなかったんですが、法廷の事務の人との交渉 (プチ賄賂) に使っていたぬいぐるみなんかも見つけると嬉しいもの。

そして、シーズン1からオープニング映像で何度となく目にしていたあの薄汚れた自由の女神バルーンの所在がここに来てついに判明したときはひどく興奮してしまった。あと、闇獣医のところで "ベストクオリティ掃除機"という文言が飛び出したり。ほんとうにやってくれるぜ!!

今は最新シーズンの興奮冷めやらぬまま、シーズン1から見直し始めています。シーズン1エピソード1のジミーとキムの作品中初めての2ショットとなる画が美しすぎていきなり見惚れてしまった。ライティングが完璧である。


若干音楽を聴くことに対して煮詰まり気味だった5月。レコードを一作品通しではなく、片面単位で聴いていくことで乗り切った。長くても30分そこそこであればちょうどよく集中力が続いて内容がしっかり入って来るのです。あとバーとか、複数人で集まってレコードをかけていくときのような雰囲気が一人で聴いていても出るからいつもより自由に聴けるような気がして楽しい。


ひっそりとアナログリイシューされた長谷川孝水の1983年唯一作『日々の泡』がたまらなくよくて何回も聴いた。

人懐こく軽やで、優雅でありながら、同時に誰にも寄り付けぬような超然とした雰囲気も持っているソングライティング・歌唱は、一曲目「塔の上の月姫」での "塔の上" を始め、おとぎの世界のような歌詞モチーフとも美しく共鳴する。
「塔の上の月姫」、歌いだしからもう語彙の選択が素晴らしいのだよなー。

アスピリンは 棚の上
背のびをしてもとどかない

長谷川孝水「塔の上の月姫」

他には中でも「サーカス列車」という曲がとびきり好きです。そこまで音数が少ない曲ではないのに、ある種の静寂が見事に表現されている。完璧。

付属のライナーにおける松永良平さんのライナーノーツと長谷川孝水さんへのメールインタビューも必見。長谷川孝水さんが当時どんなことを考えながらアルバムの楽曲を書き上げて、現在までどう生きたか、生きているか。ほんの少しでも知ることができてよかった。

Yumboの澁谷さんの投稿きっかけで知ったコルネッツというバンドの新作『濯う』も素晴らしく、よく聴いていた。

1曲目「春の猫」のピアノリフと清廉という言葉そのもののような胸のすくコーラスワーク、2曲目「JAM」における弦楽四重奏アレンジと、開幕2曲だけで私はこのバンドの虜になってしまった。

結成は86年、92年に1stアルバム『乳の実』をリリースして94年以降はほぼ活動休止状態に、2017年に再始動し1stアルバムのリマスタリング・アンソロジーアルバム『乳の実+』リリースして、2022年このアルバム『濯う』をリリースし今に至るというかなり長いキャリアを持つバンド。

付属のライナーによると「JAM」「養老院」「公園の古い木」「洗濯」といった収録曲の多くの原型は80, 90年代に書かれたそうで、そういったレパートリーを大切に育て上げていくようなキャリアの積み方も美しいなと感銘を受けたのでした。

GWの10連休を終えてから今現在まで仕事が忙しく一日一日があっという間に過ぎていった。

楽しみにしていたレコードが定期的に届き 、眺め、聴くことでいくらか癒される。すでに愛着が深く聴きこんでいる作品のリプレス、待望のアナログ化案件がやけに多かったような気がする。しかも全部音がかなりいいような気もする。ありがたい。

折坂悠太『平成」、Juan Fermin Ferraris『Jogo』はとりわけアナログで聴くことができて感動。どちらもしっかり感動するほどよい音が出る好プレス品だった。だからこそJuan Fermin Ferrarisは1stの『35 Mm』の方も早急にアナログ化してほしいものです。


他に届いたものといえば、ふるさと納税で和歌山からやってきた実山椒。生の実山椒はこの時期1ヶ月ないくらいの時期しか出回らず、産地的に一度もスーパー等で姿を見たこともなく憧れていたのです。鮮やかなグリーンとシャープな芳香のヒーリング性の高さ。吉村弘の『GREEN』を聞いたりしながら、3時間かけて枝を除く下処理を終えた。その後取り急ぎちりめん山椒を作った。新緑の5月である。

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