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2022年7月の(音楽とかの)こと

7/23-24と土日を利用して京都へ。お目当ては京都中央信用金庫 旧厚生センターで開催されているブライアン・イーノのインスタレーションだ。

久しぶりの新幹線一人旅にウキウキ。車内で刊行されたばかりのアリ・スミス『夏』を読み進めて、七尾旅人『ヘヴンリイ・パンク:アダージョ』をdisc1から2まで丸々聴きました。やっぱマヂかっこよすぎるんだよネ。9月のアルバム(2枚組!!)が楽しみ。

着いてすぐにNATUREMIANでカレーを食べて(とうもろこしのココナツ煮が美味しかった)、そのまま歩いてレコード店 Meditationsへ。

店舗、本当に実在するんだ・・・と感動。入店した途端にネットオーダー分の商品を梱包中の店員さんが目に入り、隅の方に目線を映してみても、見覚えのある梱包達がずらりと並び出荷を待つ姿。ここからいつもうちまで旅立ってくるわけだねと、妙な感慨を覚えた。

店を出て灼熱の中、鴨川沿いをデルタまで散歩した。都市の中心を悠然と貫く川の美しさ。 (修学旅行以来2度目の京都に降り立った人間の感想)

デルタは時期が時期だけに大変混んでいて、それよりか道中のなんでもないエリアの方が気持ちよかったな。河川敷で少し間隔を空けて置かれた正方形の大きなベンチ3つを別々の上裸の男性が一つずつ独占しているサマなんかが特によかったです。日本の夏。

他にも歩いていて目に留まった素晴らしい陶器店や、量り売りに特化したイカした食品店なんかも覗いてみたりした後、夕方すっかり満喫した気分でブライアン・イーノの展示へ向かう。

『77 Million Paintings』や『Light Boxes』という展示を鑑賞して、音楽やLEDの光というのは本質的に居心地が悪いものなのではないかと、何かそんなことを思った。
公式HPの言葉を借りると

音×光ーー雨や風のようにその環境の一部となる音楽と途絶えることなく光がシンクロして生み出される空間芸術作品『77ミリオン・ペインティングス』。

https://ambientkyoto.com/about

という具合で音と光がじわじわと途絶えることなく変化することで、どの瞬間もが視覚・聴覚的に唯一無二として立ち昇ってくるという狙いのわけですが、それは例えばこの日先に散策してきた川の流れのような天然物に、音とLEDライトでもって近似していくようなアプローチであると同時に、近づけば近づくほど、却ってその差異が際立つといいますか。展示を前にして終始、身体の深いところでなにか落ち着かなさを感じていたような気がするのです。

そしてその落ち着かなさこそ音楽が熱狂を生む根本とも言えるのでないかなー。京都の街に在る自然とポジティブにもネガティブにも共振してしまうようなバランス感覚が今回の展示にはあったような、そんな気がします。

あとこれはどこまで関係あるかは分かりませんが、数年前まではけっこうビートのはっきりした音楽をそれなりの音量で流したまま眠りにつくことができたのだけれど、今では眠ろうと思ったら元々流れているのがとてもクワイエットな音楽でもさらに音量を絞ったり、再生を停止したりしないと気持ちよく眠りにつけなくなっている自分のフィジカルコンディションの変化というかそういうところも鑑賞後にふと考えたりした。


会場を後にして、入った料理屋でつまんだ甘めの出汁でホワホワに炊かれた厚揚げがあまりに美味く、翌日帰りには必ず厚揚げを買って帰ろうと決意してこの日は終了。


翌日は早めにホテルを出て、スマート珈琲店でホットケーキを食べてから祇園にある建仁寺へ。質実剛健というべきよい寺院でした。美しい庭園を臨むために四方八方が開け放たれているからか、本坊内どこにいても風の回りが素晴らしく酷暑の中でも驚くほど涼しく快適。身体的にこの寺院に圧倒されるような感覚さえ覚えた。

昼くらいからレコ屋をじっくりまわって、丸善の本店を覗いて、うどんを食べて、路地にたたずむ豆腐屋で厚揚げを買って、キオスクで食べきりサイズのタケノコの山椒煮とビールを買いこんで、東京行きの新幹線に乗車。とても空いていて快適。車内販売でスジャータのあのアイスまで楽しむフルコースに大満足で帰路へつきました。


夏である。アリ・スミスによる四季4部作の最終章『夏』の邦訳が刊行。

届かなかった手紙、書いた後に燃やされた手紙、削除された電子メール (電子の海の中で藻屑と化した手紙)、アマツバメ、写真に写らなかった人々、喜劇なのに悲劇、夏なのに現代パートは真冬、見えない境界、神の御手

という風に、読んで色々書きたいことの断片はあるのですが、まだあまり形になっていないので、気が向けば来月書ければと思います。

書きやすいところで言うとダニエルの青年期のパートが、中身はともかく描写やリズムもどことなくカート・ヴォネガット『スローターハウス5』のようでよかったのと、ニック・ドレイクの登場のさせ方が素晴らしく唸ってしまった。

本国でニック・ドレイクを聴いて、ヴァージニア・ウルフ (同じく『夏』に登場)を読むような人が、この四季4部作のような小説を書いているという状況は素直にとてもうれしいものです。

日本にいるとここら辺の本国での受容・近況がよく分からないがちなんですがね。ニック・ドレイクのプロットは89年の出来事なので、リアルタイムからは一世代後からの視点というところも絶妙に効いていたような気がします。




音楽について。牧野容也の初のフルアルバム『the Odyssey』はみなさまもう聴かれましたか!? これが本当に素晴らしくて私はリリースされてからずっと聴いています。

GUIROのギタリスト初のソロ作品と聞いて、4曲入りEP『グッド・バイ』を手に取ったのは去年の6月のこと。それからその端正なソングライティングにすっかり心掴まれていて、フルアルバムリリースの報せはまさに待望だったわけです。

『the Odyssey』、どこをとっても素晴らしく快心の作品なわけですが、EPとの比較というところで一つポイントとなるのは、アレンジやサウンドプロダクションの充実というところになるでしょうか。ソングライティングは去年のEP時点ですでに一つの高みに達してしまっているから、アレンジやサウンドプロダクションがそれに見合うところまで引き上げられたと言いますか。そんなイメージ。「グッド・バイ」、「the long sleep」と先のEPにも収録された2曲のリテイクはその変化が鮮明だ。打ち込みトラックの宅録 / 弾き語りからバンド演奏へ、巧みに楽曲がアップデートされている。「the long sleep」の懐の深いピアノの響きなんかもう最初聴いたときびっくりしてしまうくらい素晴らしかったな。

「the long sleep」という曲についてはもう一つ、シンガーとしての牧野容也の歌唱という面についても触れておきたいところであります。これもEPの録音とは一聴して全く違っていて、ずっと喉を開き抑揚を抑えてラフに歌うことで、聴き手のコンディションによって官能的にも清爽にも聴こえるような奥行きを楽曲に与えることに見事に成功しているように思います。

他の新曲群も聴きどころだらけ。1曲目の「buil it up」のウェルメイドな手触りも最高だし、続く「秘密」は牧野容也のソングライターとしての魅力が結実している渾身の一曲!! 彼の楽曲群の中で2番目に好きな曲です。

では1番好きな曲はというと、前作EP『グッド・バイ』に収録されている「家出」という曲です。アルバムに収録されなかった2曲「家出」と「岸辺と帆船」どちらも素晴らしい楽曲ですので、どうかこちらもマストチェックでお願いします。


アルバム後半で特に印象深いのは「薪」という曲。ボサノヴァ、はたまたミナスのフォークミュージック的なオーガニックなギターとウクレレのハーモニー。そして、牧野容也に伴走する山口春奈のヴォーカルの響きと、薄い靄のようなコーラスが相まった結果、鈴木惣一朗と松本従子の歌うWorld Standardによるそれと見分けがつかぬほど接近した形で出力されている。超おもしろいです。

最後に「薪」を始めとして、牧野容也自身のギタリストとしての充実ぶりが余すところなく発揮されているというのも本作の魅力の一つとして、このテキストにねじ込んでおこう。

牧野容也がギタリストとしてもいかに好調であるかは、今年5月に配信限定でリリースした『view』というギターインスト4曲入りの作品も併せてチェックしてもらうことで全貌を掴んで頂けるでしょう。

9月には晴れ豆でリリースツアーの東京公演。バンドセット!!すごく楽しみです。


他によく聴いたもの。


Leo Svirskyというピアニストの19年作は、今年聴いたピアノ作品の中でもナンバー1だな。クラシカルな表現と先鋭的な表現のせめぎあいが熾烈である。

ピアノと言えば、11/19, 20とめぐろパーシモンホールで行われる「The Piano Era」というイベントに行ってみたいのですよね。

2013年から1年置きに続けられてきたこのイベント、2021年は開催ならず、今年は3年ぶりの開催がアナウンスされたところ。過去4回の出演者を見てみると、ニルス・フラーム、アンドレ・メマーリ、ヘニング・シュミート、haruka nakamura、アントニオ・ロウレイロ・トリオ、ゴールドムンド、そして極めつけは2017年第3回のスワヴェク・ヤスクウケと錚々たる顔ぶれであるから、今からラインナップ発表が楽しみでならないのです。

ライブといえば、柴田聡子 in FIREのぼちぼち銀河ツアー追加公演が素晴らしかった。柴田聡子 in FIREというバンド編成には、ほどよいスポ根感があるのがとても好き。非常に前のめりな演奏がいいのです。

『ぼちぼち銀河』の収録曲もどれも素晴らしい演奏だったが、この日最も圧巻だったのは中盤披露された「ワンコロメーター」でしょうか。演奏後の場内、あの興奮 (はたまた混乱?)の行き場をどうにも発散しきれない騒然とした空気よ!!岡田拓郎のアウトロのギター、あれは何ですか!? アレンジの方向性としては『がんばれ!メロディー』ツアー時と同じで、当時はやや飛び道具感が強かったのが、『ぼちぼち銀河』というアルバムを経て、むしろこれがバンドのスタンダードとも捉えられる姿に変貌していたのがとても面白かった。『ジャケット』の後という曲順も絶妙に効いていたなー。

また、「あなたはあなた」なんかの最新in FIRE流解釈で演奏される過去曲がことごとく素晴らしく感動。今の編成でライブを続けているうちに、過去曲をin FIREでアレンジした編集盤的なのをどうにかリリースしてほしいものです。

前作ツアーのライブ盤は一部それに近い楽しみ方ができたりもするんですがねー。(「忘れたい」「ばら」「いきすぎた友達」「海へ行こうか」と続くブロックは必聴!)


他にビッグなイベントとしては先日車を契約しました。心配や憂慮することも多いけれど、一つ大きな変化を楽しんでいきたいものです。

どうぞお気軽にコメント等くださいね。