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2019年7月の音楽(とか)のこと

東横INNに60連泊している。わが社は新社員研修がめちゃくちゃ長くて、8/1にようやく配属先が発表されたのでそれまでの仮住まいとして。ちなみにここへ至るまでもホテル暮らしには変わりないので3/31からの4ヶ月以上をホテルで暮らしてきています。ところで東横INNには「部屋替え」というイベントがある。文字通り現在宿泊している部屋から別の部屋に移動することで、おそらく長い間ずっと同一人物が部屋に滞在することでチェックアウトや、客室の修繕が不能になるのを防ぐことを目的として週に1回行われる。これは東横INN全体のルールだそうだ。かくして毎週日曜日(週末に不在の場合はその前)に60日分の全ての荷物を段ボール、キャリーバックに詰めて次の部屋へと移動するわけだが、ご想像の通りこれがなかなか面倒くさい。ゆっくり起きて荷物をまとめて、次の部屋の準備の連絡を待って、台車を使って清掃スタッフさんに驚かれながら荷物移送をして、荷解きをしてと一連の流れを終えるとすっかりお昼近い。こんなにもバッキバキに不毛な時間も最近では逆に珍しいなーと毎回しみじみ苦笑いをして、こうして文章を書いて少し客観視してみたりするしかない。

参考までに誰も興味がないであろうこれまでの僕の移動記録を発表しておこう。710→210→310→410→513→610→708→810となっています。部屋番号について、先頭の階番号の除いた下2ケタが同じなら、当然フロアの中での位置、配置は同じです。つまり最初の4週を中心として、その多くはただ縦方向に数メートル居を移しただけということになる。荷物移送の最中にエレベーターで「元部屋」と「次部屋」を行ったり来たりしていると、廊下もその部屋も1フロアくらいなら窓からの景色も何もかもが同じで、ちょっとしたSFごっこができるのでおススメです。エレベータを降りてはこの廊下を目にし、この鍵で開けられるのは「○10」の扉だけ。このまま、一生。無限回廊 in 東横INN。

かといって偶に別の位置を引いてしまうのもこれまた困りものである。例えば、「○10」と「○13」は廊下を挟んでほとんど対面にあるので、部屋を出てエレベーターへ向かうのにちょうど反対向きに進まなければならない。「513」に移動して数日、何回も逆向きに歩を進めて慣れって怖えーと思って、翌週「610」、つまり以前のサイドに戻ったら今度はまた逆向きに進んでしまう。慣れって怖えー。しまいに「○10」系のお隣である「○08」系の「708」に移った最近ではそもそも「710」の鍵穴に鍵を挿してしまう。慣れってホントに怖えー。

今年のフジロックが終わってしまった。回を重ねるごとに年々楽しくなって、満足度が上がっていくフジロック、本当にすごい。今年は大学時代の仲間のご厚意でみんなで徒歩圏内に宿泊させてもらったことで、これまでより格段に高い自由度でもって新鮮に目一杯3日間を楽しめたと思います。毎日午前中から深夜3時くらいまで会場にいて、もちろんライブもたくさん見たけど、今年はそれに加えて何だかたくさん「遊んだ」気がします。晴れた昼間のデイドリーミングやヘブン、深夜のパレス。あー、あの時に戻りたい。


新しく聴いた音楽

見出し/カテゴライズ分けを新しくしてみた。新譜に限らず新しく聴いた音楽について書きます。相変わらず6,70年代のフォーク/SSW作品ばかり聴いています。急激に「目覚めて」しまった今、一番楽しい時間は中古レコード店の「フォーク」や「SSW」棚を漁っているときだし、一番自分にとって刺激的な音楽を知れるチャンスも、またその時です。

The John Renbourn Group「A Maid in Bedlam」('77)

7月序盤に出会ったのはpentangle(こちらも同タイミングで初めて名前を知った)のギタリストJohn Renbournのgroup名義での77年作。ケルティックなフィドルにアフロっぽいパーカス、バロックからの影響も感じる。現在だと例えばトクマルシューゴやBibioの新作、とりわけデイブの歌わないDirty Projectorsみたい。


ここ数ヶ月何回も言っていますが、ホテル暮らしなので買ったレコードが聴けずに溜まっていくばかりなのが辛い。特にストリーミングになくて「これは!!」となったやつを買うことが多いので、視聴っきり聴かず温めてあるやつとかもけっこうあります。中途半端にYou Tubeで数曲聴いたりしてしまうのは何だか気が進まなく思ったりするのだ。とは言え聴いてみてほしかったりもするので、ちょっと聴いてこうやってリンクを貼ってシェアしてみたりするのだけれど。The John Renbourn Groupと同タイミングで気に入って実際に購入したCarolanne Peggというフィドル弾きのSSWの73年の唯一作が素晴らしい。St.Vincentの祖先のようなソングライティングだ。あとはLouis PaulというSSW/マルチ・インストゥリメンタリストのこちらも73年の唯一作。ソウル/ファンクを軸にして分かりやすい「隠れ名盤」的な音が鳴っていて、レアグルーヴ的なところで割と有名なんだろうなーと思う。

Barbara Keith「Barbara Keith」('72)

Cyrus Faryar「Cyrus」('71)

Stephen Whynott「From Philly to Tables」('77)

さらに最近気に入ったのは、Barbara KeithというSSWの2nd。M5「Free the People」のホワイトゴスペル的なアプローチからはJudee Sillと近しいところも感じますが、全体的にはもっと骨太で土臭いスワンプテイストでそのバランスがまたいい。それからThe Modern Folk Quartetの中心人物Cyrus Faryarのソロデビュー作。アコギのキラッと粒立ったアンビエンスや、ふくよかなビート等「これぞフォークロック」な素晴らしい音響。Beirutのザック・コンドン辺りに近い滋味豊かなヴォーカルもグッドです。さらにそのアンビエンスに一際驚いたのが、Stephen WhynottというSSWの77年作。点描的なピアノ、アコギのストロークとハットのキラキラした絡み具合、サスティーンの短いデッドな質感のキック。聴けば聴くほど興味深い音が見つかる極めて現代的な音響感を持っている作品だと思います。ときにこのアルバムを紹介する岡田拓郎のブログの序文は素晴らしい。長めですがちょっと引用してみます。

"As most things held so close it can not be recounted to anyone anytime. I know these songs hold the moment that for will never die."
裏表紙に、こんな言葉が記載されていました。言いたい事はフィーリングで分かるような気がするのですが、詩的なニュアンスみたいなのをどう汲むか上手く説明出来る英語が堪能な方いらしたら、コメント欄ででもご教示いただけると嬉しいです...
音楽という時間の経過を記録、そのまま時間場所を問わず再現出来るようになってからもう1世紀くらい経つのでしょうか。6,70年代には録音機材も庶民の手に届かなくもない所まできて、大きなレコード会社からのリリースではない作品も星の数ほど生まれています。
ビッグになりたい!そんな野心を抱えた作品、とにかくBob Dylanになりたかった、友達に配りたい、などなど、いろんな動機で作られた作品がありますが、どれもピュアな表現の音楽ばかりで、そんなレコードを好んで良く手にします。ローカルな6、70年代のフォークに相変わらず焦がれているのは、つまらない欲求や邪念、言ってしまえば大きくなり過ぎたビジネスとは作品自体が無縁に思えるからでしょうか。
そんな作品の中には、もちろん当時話題になってメジャー・レーベルとの契約に漕ぎ着けたもの、はたまた当時売れなくとも後の世代の感覚とマッチしてある時代からはクラシックとして語り継がれるような作品もあります。数十枚プレスしたけれど全く売れず、その苛立からほとんどをフリスビーにした後、叩き割ってしまった自主盤サイケの話もどこかで聞きましたが、その何枚かは市場に回ってたおかげで、後の世代がたまたま引き当てて"これはすごい!"という事になり、リイシューされたのだから、これはなかなかロマンティックな良い話です。
そんな時、誰かに創造れた音楽が、とりわけ記録されたレコードが死ぬ瞬間の事を考えたりもします。声の小さい、ナイーヴで、ピュアな愛すべき音楽たちの事が気がかりでしょうがありません。
音楽家が"このレコードは永遠に生き続ける事を確信している"なんて、レコードに記すのはとても美しいな、という事を言いたいだけです。実際、17年5月10日に、僕がターンテーブルの上に乗せました。

Twitterの友達にもお気に入りだとおすすめを受けたこの文章には、僕がここ最近持つ無邪気な興奮のワケが一杯に詰まっている。

さらに、Michael Cassidy「Nature's Street」('77)、woodvine「ROOTS」('71)、GOLGBERG「MISTY FLATS」('74)なんかも買った。聴くのが楽しみです。


Jacob Collier「Djesse Vol. 2」

Blood Orange「Angel's Pulse」

こんなに新譜を聴かなかったのは定額ストリーミングサービスを使い出してから初めてかもしれない。数少ないチェックした作品は例えばJacob Collierの新作。去年リリースの前作に続くシリーズものvol.2は、プログレッシブな展開が若干減って、得意のハーモニーを生かしたチェンバーフォークとしてより聴き易い。それでも隠しきれず滲み出てくる凄みみたいなところに僕は中村佳穂を想起したりする。Moses Sumneyももちろんだけど、中村佳穂×Jacob Collierもヤバいと思うんだよなー。ときにせっかくJacob Collierをフィーチャーしたソングを収録しながら、全く生かしきれていないアルバムを作ってしまったミュージシャンがいるらしい。Daniel Caesarっていうんですけど。「Frank Ocean以降」とは何だったんだろうかと思うほどに時計の針が巻き戻ったアンビエンスに今年一番がっかりしてしまった。



大好きな音楽家が次々アルバムに向けて動き出している。フジロックで観た中村佳穂の「LINDY」の演奏は神がかっていた。アートワークがどことなく初期七尾旅人のシングル群を想起させるところも抜群にいい。


ライブ

7/6 イ・ラン × 柴田聡子 @ 草月ホール

7/13 つくばロックフェス @ つくばねオートキャンプ場

7/26-28 FUJI ROCK FESTIVAL '19 @ 苗場スキー場

5,6月は1つもライブを観に足を運んでいなかった。というか数年前と比べると明らかにその頻度は減っているんですが、今月目にした素晴らしいステージを受けて、やっぱり実際に現場で演奏を聴くことは何にも代えがたい素晴らしいことだなー、身体的な、直感的な魅力に溢れているなーと改めて思ったのでした。傑作の共作EPを引っ提げたイ・ランと柴田聡子のライブは待望中の待望だった。

会場の草月ホールもモダンで気持ちのいい空間だった。イ・ラン、柴田聡子それぞれに円形の島を構えた物販のレイアウトが美しくて気に入った。

手前がイ・ランで奥が柴田聡子ゾーン。右側でテーブルに座っているのがイ・ラン本人です。

夏フェス初めは毎年恒例のつくばロックフェスへ。今年のDay1(7/13)はこのフェス始まって以来の最強ラインナップと言い切ってしまっても間違いでないと思う。

ROTH BART BARON×OGRE YOU ASSHOLE×THE NOVEMBERSという3マンが叶ってしまった!!さらに言うとこのフェスの主催者でありブッキング担当でもある方とはお知り合いで、今年の3月くらいにROTH BART BARON、イ・ラン(と柴田聡子)、優河の3組をリクエストしていたら本当にROTH BART BARONが来た!!という個人的背景もあります。

初めてライブを見たTHE NOVEMBERSは本当に素晴らしかった。

この日のMCによると「ちゃんとTHE NOVEMBERSにオファーしてくれたフェスはフジロックとここ(つくばロックフェス)だけ」だそうです。この日は特にTwitterのフォロイーの音楽好きの方もやけに沢山参加していたようで、なんだか面白くなってきていると思います、つくば。最後にこんなインタビューもぜひ読んでいただければ。音楽評論家の八木晧平さんによる主催者 伊香賀守さんのインタビュー。


毎年のことながらフジロックは思い出が多すぎて書ききれません。その中でもちょっと「ライブを見て…」というところに焦点を絞ると、「必ずしも音源が魅力的なミュージシャンほどライブも魅力的な訳ではないし、逆もまたしかりである」ということを改めて実感するような3日間だった。ヘブンとパレスで今年イチのインパクトを残したダブ/レゲエ×韓国民謡パンソリバンドNST & The Soul Sauce meets Kim Yulheeは帰ってきて音源をチェックしてみても、もちろん素晴らしいのだけれど、それは「通りかかったヘブンで偶然耳に入ってきて気づけばフロントエリアで踊っていて、すでに翌日のもう1ステージが楽しみになっている」あの感動とは比べ物にならない。一方で大好きな曲がたくさんあるはずのJay Somのライブはあんまり魅力的に思えなくて、ああいう構成も音もシンプルな楽曲群を愚直に1曲1曲演奏するタイプのステージは単純に好みでないんだなーと実感した。

それと、今回はとにかくその時自分がハッピーになれるように過ごそう、回ろうと思った結果、多数の話題アクト、音源の評価が高いアクトを見ていません。TORO Y MOIもMITSKIもTychoもトムヨークもALVVAYSもAmerican FootballもDeath Cab For Cutieも全く見ていません。でもそれでいいんです。当たり前だけどハッピーなのが一番だし、何も必死にあれこれ追いかけなくても、自分が本気で楽しい、興味深いと思ったものと丁寧に向き合っていけば、いつかアッと驚くような出口に通ずるという自信があるし、そっちの方が今の自分にとっては豊かだと思うから。なんだかこれは最近の僕の新譜との向き合い方にも通ずるマインドだ。

最後に3日間でみた(途中少しとかもあって微妙な判断基準ですが)全アクトを書き下しておきましょう。

Day1 : 中村佳穂→優河→NST & The Soul Sauce meets Kim Yulhee→Janelle Monae→The Waterboys→The Lumineers→BIGYUKI→yaeji→KAYTRANADA

Day2 : 落日飛車→蓮沼執太フィル→Jay Som→Shohei Takagi Parallela Botanica→クラムボン→Daniel Caesar→君島大空→NST & The Soul Sauce meets Kim Yulhee

Day3 : Stella Donnelly→Hiatus Kaiyote→HYUKOH→VAUDOU GAME→KOHH→toe→Vince Staples→James Blake→The Comet is Coming→Night Tempo


その他雑記

待望、待ちに待ったストレンジャー・シングスのS3。一日一エピソードずつ大切に観た。主要キャストの面々への収まりきらぬ愛が初っ端にして決壊してしまうE1、雨が降り出してからの一連のカットが素晴らしいE3をはじめとして全秒が最高。もう頼むから主要キャストの面々を苦しめるような事件は起こって欲しくないし、もはやそんな何も起きない彼らの生活をS4として公開してほしいくらいだ。

前に「ムーンパレス」を読んでなんだかピンとこなくてそれ以来疎遠になっていたポール・オースターだったが、ふとした思い付きで「ガラスの街」、「幽霊たち」を読んでみたらこれがバッチバチに面白くて驚いた。「幽霊たち」の『何が起きたかを書いたところで、本当に何が起きたのかが伝わりはしないのだ。』という一文をひとまず胸に刻み込みやっていきたい。

その他エーリヒ・ケストナー「飛ぶ教室」も抜群に面白かったし、完全に読むタイミングを逸していた大好きな保坂和志「季節の記憶」の続編「もうひとつの季節」も間違いのない素晴らしさだった。言葉が光っている。例えば松井さんはこう言う。

「― チョークなんて、落とそうとするとなかなか落ちないけど、『なかなか落ちないなあ』と思ってるうちに落ちてるもんなんだから、ほっときな」

ついに来週末からは長かったホテル暮らしも終わって居を定めることになる。明日は勤務時間を使って17帖1Rという実に頭の悪い間取りのアパート他数件を内見しにいきます。楽しみだなー。


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