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2023年4月の(音楽とかの)こと

3月も4月も引っ越し関係と仕事。仕事は依然同じような状況が続くけれど、引っ越し関係は新居の整備が片付いてきて、二人暮らしにおけるルーティンも定着してきたから、この頃少しずつ自由な時間と、何か作品に向かい合う気力が戻ってきている。

文芸作品の内容がある程度しっかり頭に入る余裕が戻ってきてうれしい。

待望していた岸本佐知子訳によるアリ・スミスの新刊『五月 その他の短編』が期待に違わぬ素晴らしさで、一篇ずつ大切に読み進めた。アリ・スミスの文章を読むことは本当に楽しい。

特に好きな一篇は「スコットランドのラブソング」である。"他人に見えないバグパイプの楽隊につきまとわれる" お話。書き出しの楽隊ひいては世界の動きの描写の美しさである。

楽隊はキルトの裾ひるがえして居間を行進し、いちばん背の高いパイプで天井をこすり、ドア枠やカーテンレール覆いにぶつかって帽子が斜めに傾いた。置き物はふっとんだ。キャビネットのデキャンタグラスはちりちり鳴った。行進しながら階段をのぼりおりし、踊り場の敷物はぐちゃぐちゃになった。寝室のカーテンは乱れ、壁の絵は斜めに傾いた。

アリ・スミス「スコットランドのラブソング」

動きが音を連れてくる一連のようすを巧みにとらえていて、我々は導入段階から自然と音にフォーカスして読み進めていくことになる。

そして、音は轟音の一つの象徴と言っても過言ではないだろう(ナイアガラの)滝へと、最終的には収斂していくのである。

そうして二人でそこに行ったら、まあ何も聞こえなかった!水の音があんまり大きくて。

アリ・スミス「スコットランドのラブソング」

他には表題の「五月」、「信じてほしい」あたりがお気に入りです。

現時点で他に日本語訳されている『両方になる』、四季4部作はいずれも長篇であるから、彼女の短篇は初めて読んだのだけれど、長篇では表立たなかった魅力が垣間見えるような作品が多い印象を受けた。
(逆に長篇における雰囲気に近い「侵食」、「ショートリストの季節」あたりも充実の内容であるが。)

"時間や時代に紐づけられていないぶん、短篇は長篇よりもずっと自由がきく" というのは帯文に載る本人のコメントである。


もう一冊、小山田浩子さんの『工場』も挙げておこう。

小山田浩子さんのその他の単行本 (『小島』、『庭』、『穴』)は読んでいた上で、最初期作の『工場』は後回しにしていたのだけれど、これが一番好みだったかもしれない。

表題作「工場」における時間軸の丸め方、エディット感覚がキレッキレでもうたまりません。時間軸だけでなく、ヒト、モノ、会話、文書、地の文章の境界が少しずつ融和していくようなスタイルも好み。

ときにその諸作に付されたAmazonのレビューをザっと眺めていると、「読みづらい」という感想が散見されるのですが、その人たちがまさに「読みづらく」感じているエッセンスそのものを、わたしは小山田浩子さん固有のリズムとして楽しんでいる節があるんだよな。

これはどちらが正しいとかそういう話ではなく。


レコードについて。最近はオンラインで「これはマスト!」というものだけをスポット的に買うに留まりがち。中でも最近のマスト中のマスト案件と言えば、エチオピアのピアニストTsegue Maryam Guebrouのレア音源集『JERUSALEM』、ポーランドのピアニストSlawek Jaskulkeの国内レーベルからの編集盤『MUSICAANOSSA』、そしてWorld Standardの新作『ポエジア... 刻印された時間』の3枚でしょう。

Tsegue Maryam GuebrouとSlawek Jaskulkeのレコードはどちらも録音自体新しいものではないのだけれど、それぞれのピアニストに対して持っていたイメージとは違う音が聴こえてくるトラックの存在が新鮮であった。(ネガティブに捉えると、私が不勉強なためトップクラスに好きなピアニストにまつわる音源を網羅できていなかったとも書けるのだけれど。)

Tsegue Maryam Guebrouで言えば、本人のヴォーカルをフィーチャーしたA5「Quand La Mer Furieuse」の素晴らしさである。ちょっとニーナ・シモンっぽくある抜群によい曲と、靄に包まれたような録音の質感が奇跡的なマッチングを果たしている。というかこれを書いている今「Tsegue Maryam Guebrouのヴォーカル・アルバムが現在準備中」という情報を知ったのですが、いったいどういうことなんでしょう? 「Quand La Mer Furieuse」のような秘蔵録音を3, 40分聴けるという夢みたいな作品が実現するということ?信じていいのか!?

一方、Slawek Jaskulkeであれば、2004年にJaskulke 3yoという名義でリリースした『Sugarfree』からの楽曲「Chili Sprit」に驚かされた。名義が違うこともあり、この作品はノーマークだったなー。

KRZYSZTOF DZIEDZICというプレイヤーの跳ねるようなドラム(乾いた響きが異常に気持ち良い)のリズムが終始どっしりと中心にあって、ベースとスワヴェクのピアノのフレーズが楽曲に色を付けていくようなトリオアンサンブル。

この「Chili Sprit」から、こちらも跳ねるような軽快な独奏「Tokitura」(2012年録音の『Moments』収録)に繋がる曲順を最初に聴いたときは震えました。近作の『Park. Live』等に代表されるダウンピッチング + モジュレーターを駆使した静謐なスタイルが彼のシグネチャーであることは前提として、そことまた違った側面を鮮やかにプレゼンすることに成功している中村智昭さんの選曲・曲順には大きな感謝と敬意を示したい気持ちでいっぱいです。A1「Sea Ⅰ」、A2「Chili Spirit」、A3「Tokitura」、B1「Moments」、B2「Park Ⅰ」。一切の隙なしの5曲。この曲順で、この盤で、これから先何度も聴くでしょう。

そしてスワヴェクと言えば、今週末13日に予定されているめぐろパーシモンホール公演である。明日に迫っている実感があまりないですが、楽しみ尽くしたいと思います。今年は早々にyumboのライブを観れて、Slawek Jaskulkeのライブまで観てしまったらもう満足かもしれないな。

ライブといえば、World Standardも5月にミンモアとの2マンがありますね。新作の『ポエジア... 刻印された時間』については、もう少し時間を取ってこのレコードと向き合って、いずれしっかりと書きたいと思っています。

リアルでレコードをみれる機会もなかったわけではなく、4月末の週末には、下北沢BONUS TRACKで開催されたレコードフェアに繰り出した。

近年春と秋の年2回開催されているイベントですが、BONUS TRACK内に実店舗を構えるpianola recordsが中心となった出店ショップのセレクトが唯一無二、本当に素晴らしいので毎回楽しみにしているのです。

今回のトピックというと、初期ECMのドイツ版だからと何気なく買ったKeith JarrettとJack De Johnetteのデュオ作『RUTA + DAITYA』の音のよさである。聴くたび驚くほどにハイファイ。やはり初期ECMドイツ盤は思わず驚くクオリティのプレスが異常に多いんだよなー。

レコードを見終えた後は友達に阿佐ヶ谷の素晴らしいバーへ案内してもらい、たくさん飲んで帰った。うちの近所にこんなお店があったらどれだけいいだろう。

ずっとビールばかり飲んできたのですが、2年くらい前から少しずつジンの割合が増えてきて、最近では急激にスコッチウイスキーも幅を利かせてきていて今、酒を飲むことがすごく楽しい。

スコッチは深入りしたら最高におもしろそうな世界な予感がするので、ここというバーに通い詰めたいところなのですが、基本車移動の生活なので、その機会が限られるのが難点である。(家飲みもそれはそれでよいものだけれど。)
その限られた機会に行くとよいお店や、これという一本、おすすめあったら教えてくださいな。

どうぞお気軽にコメント等くださいね。