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韓国の都市イノベーション国際会議に行って感じたこと

日本と韓国の共通する社会課題


日本では2014年に首都圏一極集の是正を目指して地方創生が始まりました。来年は記念すべき10周年ですが、最も成果をあげたのは”新型コロナウイルスだった”という笑えないオチで一区切りを迎えようとしています。で、実はこの地方創生は近隣国、地域からも注目されていて、特に韓国、台湾の行政担当者や政治家、大学教授などの有識者の方々は興味深く見てくれています。なぜならば韓国も台湾も首都圏一極集中が様々な社会問題を引き起こしており、立ち向かうべき課題が共通しているからです。

2023年10月26日に益山市(イクサン市)という街で開催されたシンポジウムに参加してきました。海外のシンポジウムに参加、というとかっこよく聞こえますが、宮崎県日南市の油津商店街の再生を手掛け、現在はいろんな自治体にアドバイザー等で関わっている木藤亮太さんが登壇するということで腰巾着のように付いてっただけです。
会場の益山市(イクサン市)は人口30万人くらいで韓国5番目の大田市(テジョン市)の近くの自治体です。イクサン市は繊維業と宝石業で栄えたのですが、産業の衰退とともに人口の流出が続いているとのこと。しかし中心部の老朽化したアパート・マンションの立て替えを地価の安い郊外で行っており中心部の空洞化という課題を抱えていました。タクシーの運転手さんも口を揃えて「この街は終わった」と言ってました。でもスタバができて嬉しいとも言っていました。

ソウルからKTX(韓国の新幹線)とバスで2.5時間くらい

韓国は世界でもトップクラスに首都圏一極集中となっている国です。2022年には約2600万人、国民の51%がソウル圏に居住しています。第二都市の釜山市でさえも人口減少に歯止めがかからず、ソウル周辺が韓国全土から人口(特に若者)を集めてしまっている状況です。ちなみに台湾も同じ状況で台北周辺に1000万人以上が集まっており、台湾人口の47%が居住し、第二の都市の高雄市も人口減少に悩まされています。さらに韓国も台湾も合計特殊出生率が近年急落していて韓国は0.78(ソウルは0.59!)、台湾は0.9とかなりつらい状況となっています。ちなみにイーロン・マスクさんから「そのうち無くなるよ」と言われた日本は1.3くらいなので、韓国と台湾の低さは極めて深刻です。

つまり日本、韓国、台湾は国家の課題が共通していて、しかも日本の統治時代の行政システムが一部残っていたり、日本に都市設計や建築を学びに来ていた留学生もいたりするので、「日本の地方創生政策の成果について知りたい」というニーズを強く感じたところです。なのでシンポジウムでは木藤さんと小川先生(徳島大学)の日本人の有識者が招待され、韓国語と日本語の同時通訳となりました!!

韓国に行って感じたこと(社会の構造編)


住民主体の図書館&カフェ&シェアオフィス(全州)

① ソウルの地価が高騰している

近年の東京もそうですが、ソウルもすごい勢いで地価が上がっていました。平均で1億2,000万円を超え、購入できない人が多くいます。そして韓国では結婚するにあたり男性側がマンションを購入する風習があり、それにより結婚ができない(初婚年齢が上がる)ことにつながっています。近年は韓国銀行(韓国の中央銀行)が米ドルに追従して金利を上げ続けることで地価は下落傾向になっていますが、購入した人の住宅ローン返済額が上がってしまい、不動産を買えないし返済できないし、という状況となっています。

② 韓国では子どもを持たない選択が増えている

「結婚をしない、結婚をしても子どもは持たない」という判断をする若者が増えているそうです。厳しい学歴社会で教育コストも高い。不動産も高く、自分の生活も大変なのに、子どもを育てる余裕はない。韓国の社会保障は脆弱で自分の親の介護にもお金がかかる。韓国では儒教の精神で親は子どもが面倒を見るものという社会認識が強く、年金等の社会保障制度が日本に比べて行き届いていません。現在、お年寄りの貧困率が40%を超えており、子どもを持つことでさらに経済的に厳しくなることが見えています。

③ DXは日本より格段に進んでいる

韓国には3泊4日で滞在しましたが、現金は使わずすべてクレカで生活できました。(正確には同行していた人から1,000円分の地下鉄プリペイドカードだけもらいました。)飲食店も注文と決済は店外で行い、カウンターでは料理を受け取るだけでした。それにより、30席ほどのカフェでも2名で運営してました。福岡国際空港に帰ってきて驚いたのは同じ飛行機に乗っていた外国人観光客が空港内の両替所に並んでいたこと。そして博多駅内の35席のカフェでは注文と金銭の授受に2名がいて、お店全体を6名で運営していたことです。店外に行列ははみ出しているのに座席は空いているという状況でした。韓国では同じ業務を3倍の効率で行っていて「そりゃ一人あたりGDPも最低賃金も抜かれるよね」と感じました。(と、言ってるそばからGDPがドイツに抜かれるというニュースにびっくりしました)

④ 韓国の自動車会社はEVがITベンチャーを買収している

韓国の経済成長を支えたのは鉄鋼や自動車のような産業ですが、少なくとも自動車産業は将来のEVやソフトフェア産業に投資をしているようです。EVはただエンジンがモーターに変わるというだけではなく、ネットワークとつながり自動運転はもちろんエンタメや情報通信などあらゆる産業とつながり、”乗るスマホ”に変わると言われています。その意味で自動車産業が国内のIT系のスタートアップに投資をして将来に備えているのはスゴイと思いました。半導体も一昔前に輸出入を巡ってひと悶着アリましたが、いまでは自前で生産できる領域も増えていて、良い方向に向かっているそうです。

⑤ 地方は国の政争に翻弄されやすい

政権が変わると前政権の方針が否定されるので、一貫性がない。前政権(文大統領)のときに「地方の住民主体によるまちづくり」の方針が示され、地方都市に国の予算が多く投入された。全額が国家負担(地方行政の負担はなし)だったので多くの地方自治体が飛びついたが、現政権(ユン大統領)になって予算が1/3になって地方都市はてんやわんやしているとのこと。中央集権型の政治体制となっており、地方自治体は財源を握っている国家の顔色を伺いながら政策をやらざるを得ないとのこと。

ソウル首都圏一極集中のメリットとデメリット

4日間、ソウルと地方も見てみたけど、首都圏一極集中によるメリットとデメリットを感じました。メリットとしては人口が集中しているので経済効率性が高く付加価値額(=GDP)を上げやすいということ。実際、30年前の韓国の最低賃金は100円でしたが、今は1000円以上となっており、日本を今年抜きました。一人あたりGDPは(指標によっては変わりますが)数年前に既に抜いているところです。これは高付加価値を生み出すソウル近郊に人口の半分が集中しているのでソウルに集中すれば国全体の平均も上がる、という構図です。(ちなみに日本の場合は東京圏は一極集中してるにも関わらず経済成長も賃金上昇もありません、苦笑)

その一方、デメリットとしては国家運営の継続性が難しいということです。合計特殊出生率は0.78ですが、これは人口の半分以上が集まるソウル近郊が足を引っ張っています。韓国の南西部は1.3くらいあるらしいのですが、人口が少ないので出生数でみるとあまりインパクトが出てきません。ちなみに、韓国滞在中に「8月の出生数が昨年同月比で12.8%減」という速報ニュースが流れていました。日本の出生数(2021年→2022年)は5.0%減だったので、その2.5倍以上で減っているのです。ソウル圏一極集中によるマンション価格の高騰や、受験戦争の激化が出生数の激減に影響しているのであれば、長期的な国家の存亡に関わってくるとも感じました。

ということで、韓国の人口動態のシステム図を4日間で見聞きしたレベルですが作ってみました。

不動産価格の高騰と教育コストの上昇が結婚数の減少や子どもを産まないことを選択しているのだとすれば、日本も程度の差さえあれ似た構図になっているんじゃないかと思います。韓国のソウルの有名大学(ソウル大、高麗大、延世大)を目指し入れなかったら韓国内では未来が無いから海外に行くという学生も多いらしいです。実際、僕が20年前に上海に留学していたときもそのような韓国人は多くいました。そして韓国の若者の間ではソウル以外は負け組、とう意識もあるとシンポジウムでも言っていました。

地方創生の取り組みはグローバル事業になる

日本と行政運営システムや儒教的な価値観とか似ている所も多いので、地方創生領域はお互いに学び会える分野なんじゃないかとも思いました。都市開発や環境(公害)対策は日本がアジアでも先に経験したので、韓国や台湾も学びに来ていたとのことです。シンポジウムで発表されていた大学教授は都市設計、都市工学を学んでおり、日本語の論文や文献をよく読んでらっしゃったらしく日本語で意見交換もできました。人口拡大期のまちづくりのノウハウは(賛否両論ありますが)ODAとセットで国内のゼネコンに発注するというウルトラCで輸出産業になりました。日本の都市開発モデルが近隣のアジアの国に必要としてくれたのであれば、人口縮小期のまちづくりのノウハウも必要としてくれるのではないでしょうか。地方創生の旗印が掲げられて10年間たちました。これまで地域密着でやっていましたが、そんなローカルの知見をベースに海外で活躍する人材が出てくるまでに10年もかからないだろうなーと思ったところです。世界に羽ばたきたい若者こそ、次の輸出産業(になるかも知れない)である地域密着のまちづくり領域を目指してみるのはいかがでしょうか?

全州(人口60万人)の商店街再開発の現場。若者がおしゃれなアトリエにリノベ中。

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