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2021.5.11「行政が新型コロナワクチン接種を、医師・看護師紹介会社に委託」の問題

   この記事を見て、私は日本医師会の力は衰退していくだろうなぁと思いました。日本医師会が政府に対し影響力を発揮できるのは、政府の方針を医師会が指示する・または拒否する力を持っていたからです。それには、医師を束ねる必要があり、かつての日本医師会はそれができていました。
 医師会の組織は、日本医師会ー県医師会ー郡市医師会の序列になっています。地域での実働部隊は郡市医師会です。日本医師会で決めた方針を県医師会から郡市医師会へ下ろして、実際の医療行動は郡市医師会の医師達が行います。このワクチンの集団接種などを請け負うのも、郡市医師会ということになります。しかし、この行政区は医師会ではなく民間の紹介会社に委託した、ということです。

 何故、そうなったのか?

 現在、医師会の主要メンバーは地域の民間病院の医師です。いわゆる開業医と言われる人たちです。病院に勤務する勤務医は医師会に加盟していない人が大半です。さらに開業医であっても、医師会離れが進んでいると言われています。理由として、まず、参加費がひとり年会5-10万円程度と高額であること、さらにそれに見合ったメリットが少ないとことがあるようです。現在、医師の医師会への加盟率は50%程度と言われています。また、医師会に参加している医師も、地域差はあるにせよ、皆で地域医療に参加する情熱が低下していると感じられます。その理由は、医療の多様化です。昔は開業医と言えば、いわゆる何でも診てくれる町医者でした。こういう診療所の医師は、町の相談役的な存在でしたから、地域貢献に一所懸命な人が多かったのです。しかし、現在は、より経済効率を追求した専門クリニックが増えています。大腸カメラ専門、美容皮膚科専門、不妊治療専門、白内障手術専門、などです。こういったクリニックの医師は、一般的に地域住民との交流が薄い傾向があります。なので、たとえ、医師会に参加していても、名前だけで、地域貢献には参加しない医師が多いと感じます。
 そのような時代の変化で、おそらく郡市医師会は、ワクチン接種に必要な医療者を集めることが困難であったことが予想されます。

 この行政区が担当医師会に医師派遣を要請したのかどうかは定かではありませんが、いずれにしても、「医師会が動いてくれなくてもかまわない。お金さえ払えば民間会社でどうにでもしてくれる」、このシステムが機能し始めれば、行政政府は医師会の意向を伺う必要はなくなることになります。
 
 医療者を紹介する会社は、年収の20-30%の紹介料を請求することが常識で、民間医療機関の経営を圧迫しつつあります。しかし、紹介を希望する医療者にとっては、とても都合がいいシステムなのです。紹介会社が勝手に候補病院を探してくれるだけではなく、契約が成立するとお祝い金として医療者に一定のお金を支払うところもあるからです。その負担の全てを担わされているのが医療機関です。

 私は、医療者紹介のシステムが大きくなりつづけることに危機感を感じていました。そこで、さらに、行政機関まで民間紹介会社に頼ることが当たり前になったら、最終的な大きなツケは、やはり民間医療機関が背負うことになる気がして心配でなりません。これも、私達医療者(日本医師会はその権威団体として)が、この記事のように、医療者の人員不足の問題を真剣に対応してこなかったことが原因と言うしかありません。そう考えると、地域医療に40年間専念してきた病院の病院長として、この記事は、後悔ばかりのつらい内容です。

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