見出し画像

「不安の時代に、ケアを叫ぶ」を読んで

身障者の自立支援に人生をかけて取り組んで来られた川口有美子さん、在宅医で緩和医療の専門家である新城拓也先生、お二人が2020年10月から2021年9月まで、電話で対談した内容の記録です。この期間は新型コロナウイルス感染拡大第2波から第5波収束までの時期に当たります。

 私が手にしているこの本は、友人である川口有美子さんから頂いたものです。頂いたからには読まなくてはいけません。ところが、普段はさらさらと本を読める(読むのが趣味)私が、この本は読み進めるのが本当に大変でした。なぜなら、コロナの感染拡大に伴うお二人の恐怖感・動揺・それでも身障者や患者を守らなくてはいけないという責任感、疲れ、心理の変化・・・、それらが手に取るように伝わってくるからです。これは2020年6月から新型コロナのPCR検査を引き受け、2021年の9月、第5波の感染拡大時にコロナ専門病棟を開始した私が感じ続けたものと、肌感覚として同一のものでした。お二人が恐怖を感じている場面を読めば、私の恐怖心がよみがえり、へとへとになっているお二人の言葉を読めば、同じ時期に倒れそうになっていた自分を思い出してしまう。だから、読み進めるのは自分のコロナ診療体験をもう一度やり直しているようでつらくてしょうがありませんでした。

 それでも、私はこの本を時間をかけてでも読み通さなくてはいけないと感じていました。その理由は、「不安の時代に、ケアを叫ぶ」とは、お二人が叫ばなくてはいけない理由が今の社会にあるからです。私もその理由をうすうす感じ取っていたと思います。しかし、今でも第6波に対応しているのだから、今日だってコロナの緊急入院を受けているのだから、と自らに言い訳して眼をそらしていたのだと思います。それを、この本で、このお二人に突きつけられました。読んでいる最中に、そのことに気づいたため、私は最後まで読み続けたのです。

 私たちコロナを経験した医療者にとって、忘れたいものを映写機が古い映像を再現するような、生々しい新型コロナの記録がここにあります。しかし、読み終えた私に残ったのは、コロナに打ちのめされた私たち医療者と社会の新しい課題です。でも、不思議と希望が感じられます。それは、お二人が、いつでも、どんな状況でも、常に「今より良い明日」をあきらめていないからだと思います。私も、また、新しい社会に向けて新しい課題を克服していこうと考えるきっかけになりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?