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テレワークゆり物語 (29)じいちゃんの特許

「あんたのおじいちゃんは、特許でひと儲けしたんやで」

幼い頃から、母にその話をよく聞かされた。

祖父は小さい頃に丁稚奉公に出され、裸一貫から大阪で商売をはじめた苦労人。20ほど特許を取得していた、その中のひとつ「足割リベット」の特許でひと財産を築いたらしい。ちなみに、足割リベットとは、こんなヤツだ。差し込んだ後、足を広げて、木や紙を固定できるアレ。特許は単純なほどいいらしい。

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そんなじいちゃんが、こんな話をしてくれたことがある。

「わしの足割リベットと同じ頃に、同じように特許で会社を大きくしたのが、松下幸之進や」

松下電器(パナソニック)の創業者、松下幸之助氏が「二股ソケット」を発明し、一代で世界企業を作ったことは、有名な話だ。じいちゃん、大きく出たな。でも、なんで「幸之助」ではなくて「幸之進」なんだろう。じいちゃんの記憶違いかな? いや、私の記憶違いか。(これは今でも謎)

調べてみると、じいちゃんと松下幸之助は、2歳違い。大阪で商売を始めた時期も同じだ。 当時の「足割リベット」の痕跡はみつけられなかったが、第一次世界大戦で需要が増えた話から推測すると、松下幸之助の「改良ソケット」の大正7年と時期的に近い。まんざら嘘ではないかもしれない。

ただ、じいちゃんは、松下幸之助のように、会社を大きくすることはできなかった。晩年は、奈良県生駒市で暮らし、私が15歳のときに他界した。

「私も、じいちゃんみたいに、特許でひと儲けしたい」
気が付いたら私は、そう考えるようになっていた。

しかし、特許を取得するのは、簡単ではない。ましてや、それでお金を儲けるなんて、夢のまた夢だ。

でも、勝手にじいちゃんの意思を継ぎたくて、挑戦し続けた。これまで、個人と会社合わせて、取得した特許は7つ。もちろん、ほとんど役に立っていないし、お金もまったく儲かっていない。

しかし、特許はお金儲けのためのものではない。個人や小さな会社の発明やアイデアを、守ってくれるものであることに、最近やっと気がづいた。

数年前に取得した、テレワークのツールに関する特許は、今、私の小さな会社のビジネスを守ってくれている。

じいちゃん、ありがとね。

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