真説佐山サトルノート round 27 単行本原稿から落とした前田日明「証言」
【この原稿は二〇一六年八月から二〇一八年四月まで水道橋博士主宰「メルマ旬報」での連載を修正、加筆したものです。秘蔵写真も入っている全話購入がお得です】
前田日明さんの二度目の取材を行う日、スーパータイガー対前田さんの試合映像を繰り返しみていた。
UWFにはプロレス団体運営に必須であるテレビ中継がなかった。団体が後に発売するために録画していたものだろう、映像にはアナウンサー、解説者の音声は入っていない。
大阪臨海スポーツセンターのリングは暗い。先にリングに立っていた前田さんは俯きがちで、心なしか陰があるように見えた。
ゴングが鳴ると、前田さんは左拳を突き出して佐山さんの顔を狙う。佐山さんは首を動かしてよけたが、観客席からは響めきが起こった。
さらに前田さんは佐山さんの首を掴むと、右アッパーを顎に入れた。続けて頬に入った張り手がパチンという大きな音を立てた。これに対して佐山さんはむっとした表情で張り手を返す。すると前田さんは腕を力任せに振り回す――。通常のプロレスとは違う攻防だった。
セメント・マッチ――真剣勝負であると指摘する人もいる。
ぼくは前田さんにこう聞いた。
「前田さんはパンチを入れていますけど、セメントという感じはしません。前田さんの体躯、腕力を考えれば、もっと力のあるパンチを打つことが出来るはず。どちらかというとぼくは(佐山さんを)牽制するパンチに見えた。前田さんは佐山さんを潰しに行ったんですか?」
すると、前田さんは「うん」と小さく頷いた。
「潰しに行ったとかじゃなくて、あの頃、佐山さんが増長しちゃって、〝俺はカール・ゴッチよりも強い〟だとか、〝俺の言う通りにやらなかったらUWFを辞める〟って散々言って、みんなを困らせていたんだよね」
「カール・ゴッチより強いって、佐山さんが言っていたんですか?」
「言っていた」
この手の証言で確認しなければならないのは、自分が聞いたのか、あるいは他人からこう言っていたと聞かされた――つまり伝聞なのか、である。
「前田さんは佐山さんがそう言ったのを聞いたんですね」
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