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真説佐山サトルノート round 14  ノンフィクションと小説


【この原稿は二〇一六年八月から二〇一八年四月まで水道橋博士主宰「メルマ旬報」での連載を修正、加筆したものです。秘蔵写真も入っている全話購入がお得です】


 ある編集者がこんなことを言った。同業者の集まりで、佐野眞一氏はノンフィクションの書き手ではなく小説家だったのだという結論になったという。それを聞いてぼくは思わずふざけるなと呟いた。小説家に失礼だろうと思った。
 彼らが〝小説〟と称したのは、佐野氏が『週刊朝日』で書いた「ハシシタ 奴の本性」である。橋下徹前大阪府知事の出自を題材にした、下劣な原稿だった。
 ぼくたち関西で育った人間は、部落差別の苛烈さ、根深さを肌で知っている。ノンフィクションに限らず、文学とは突き詰めれば人を描くことだ。人を調べ、描く人間が〝差別〟の痛みを軽んじていた。その貧困な想像力に呆れた。
 ぼくは前横浜市長の中田宏さんを通して、橋下氏と維新の会を見た「維新漂流」という本を上梓している。橋下氏がなぜ大阪であれほど人気を集めたかについては、彼個人の資質を踏まえて論じなければならない。だからこそ、大した取材もせず、感情にまかせた原稿を書いた、佐野氏には怒りを感じた。安易に〝出自〟を書いたことで、政治家以前の人間・橋下徹を論じ、描くことがタブーになってしまったからだ。その意味で、佐野氏はノンフィクションの書き手として万死に値する。
 

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