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【米国政治】トランプ氏の影響力低下?中間選挙結果とその影響

こんにちは、最近はロッククライミングのシーズン到来で週末はほぼ岩壁ばっかり登ってます。夏場は週末がことごとく天気悪くてなかなか登れなかったので、カラっと秋晴れは気持ちいいですな。
と、そんなこんなでまた2か月たってしまいましたが、その前が1年だったので、これはだいぶ優秀では・・・

さて、大統領の最大の試練と言われる中間選挙が無事(?)終了しました。
まだこのNoteを執筆中(11月11日昼すぎ)は上院・下院共にどちらが過半数を取るのか結果は出ていませんが、バイデン大統領の支持率の低さから共和党の圧勝が予測されているなか、現時点ですでに中間選挙としては民主党が歴史的な善戦したことがわかってきました。今回は現時点での結果の説明と、その理由、そして今後どのような影響を及ぼすかについて書いていこうと思います。

中間選挙とはなにか、何が選挙に影響を及ぼすのか、については9月に詳しく書きましたが、軽く要約しておきます:

  • 大統領選から2年後に行われる上院・下院の選挙で、上院(U.S Senate)の1/3、下院(House of Representatives)の全席が改選

  • 中間選挙は歴史的に見て、野党に振れるという傾向

  • インフレの影響でバイデン政権は歴史的な低支持率で喘いでおり、共和党の構造的優位性も相まって民主党が大敗するのが既定路線

  • ただ、最高裁による女性の中絶の権利を保護の撤回に対する反発が民主党にとってのプラス要因

中絶の権利保護(ドブス事件の判例)撤回の直後でもあり、9月時点では民主党が勢いをつけている状態でした。ですが、その後インフレが長引き、ドブス撤回による盛り上がりがひと段落ついたこともあり、再び戦況は共和党に傾いた状況で中間選挙に突入、下馬評ではもっぱら共和党の圧勝ではないかと言われていました。

選挙の結果

現時点での各院の結果:上院

議席100の上院に対して、民主党が48,共和党が49、未確定が3(ジョージア、ネバダ、アリゾナ)と大接戦。このうちジョージアは各候補が50%に満たないため、州の規定により自動的に12月6日に再選挙がおこなわれます。ネバダとアリゾナは民主党が善戦しており、ジョージア再選挙を待たず、民主党が50議席を獲得する可能性が高まっています。
※上院は同率の場合、副大統領がタイブレーク票を入れるので50:50は実質的に与党民主党の過半となります。
(アップデート、11月12日:民主党はアリゾナ州で勝利し、49 vs 49まで持ち込んでいます)

上院を過半数取ることのおそらくもっとも大きな重要性は「連邦裁判所判事の承認」です。大統領が上院を失ってしまうと、推薦した判事が承認されない状況になってしまいます。司法が強い米国において、大統領が何名の判事を任命できるか、はその後の米国が行く方向性を決める大きな決断であり、大統領が残せる大きなレガシーになります。例えば、オバマ大統領の政権末期、ルースベーダーギンスバーグ判事の死亡に伴い推薦した判事が上院に承認されなかったことが、今回の中絶の権利保護撤回に直接つながっています。

現時点での各院の結果:下院

下院は共和党の構造的優位性が強く、歴史的に見ると与党が平均40以上の議席を失ってきていることから、共和党の大勝が予測されていました。
しかし、蓋を開けてみると現在、民主党195議席(改選前222)、共和党209議席(改選前213)、未確定が31、このまま行くと共和党が10議席程度の薄い過半数を得る見込み、と民主党が大善戦しています。

下院は特別委員会を設置して大統領の調査等を行う事ができ、現在1月6日の議会襲撃事件についてトランプ前大統領の責任等の調査が行われています。共和党の勝利により、おそらくこの特別委員会は解散。場合によってはバイデン大統領の息子、右派が主張するハンターバイデン氏の汚職疑惑を調査する特別委員会が設置されるということもあり得ます。ただ、共和党もギリギリの多数において法案を通すためには、「フリーダム・コーカス」等一部の過激右派議員の同意が必要となり、こういったグループがキャスチングボートを持ってしまう懸念があります。

民主党善戦の理由

民主党善戦の理由については「ドブス事件判例撤回への反発」と、「共和党候補者のクオリティ」と、大きく2つあります。

ドブス事件撤回への反発

詳細については前回のNoteで記載したので割愛しますが、中絶の権利撤回に対する反発は特に女性や若年層で予想より強く、これらの層での投票率の増加につながりました。
特にZ世代と言われる18~29歳については2018年に次ぐ高投票率を記録し、その65%が民主党に投票。彼らなしでは今回の結果にはならなかったでしょう。(日本でも若者が投票を通して社会を変えるようなシーンを見てみたいものです…)

共和党候補者のクオリティ

次に、共和党の擁立した立候補者のクオリティの低さです。
共和党は今回、トランプ氏の応援を得て多くの「Election Deniers 」(前回の大統領選挙の結果を認めない過激な候補者)が多く党指名を獲得しました。ただ、これらの候補は、おせじにも「いい候補」ではない候補者が散見され、有権者の反感を買ってしまいました。代表的な例が、選挙中に元パートナーへのDV等、次々とスキャンダルが表沙汰になったジョージア州の上院候補で、元アメフト選手のハーシャル・ウォーカー氏です。

これは、本来珍しい「Ticket Splitting」(同じ選挙の中で、州知事と上院議員等、それぞれ別の党の候補者に投票すること。)が多発したことからもわかります。前述のジョージア州だと、共和党の現職州知事ブライアン・ケンプ氏は勝利したものの、ウォーカー氏はケンプ氏より得票数がすくなく再投票に、多くの有権者が州知事には共和党のケンプ氏に投票したが、ウォーカー氏にはしなかったことがわかります。

縦軸:ケンプ氏とウォーカー氏の得票差、横軸:収入
収入が高い有権者ほど、ケンプ氏に投票しつつウォーカー氏に投票しなかったことがわかる
Source; Washington Post

また、民主党はこのような事態を見越して、多くの地域の共和党の予備選挙でより過激な候補をテレビCM等を通して応援、本選挙の候補者に担ぎ上げてきました。したたかな作戦勝ちとい側面もあります。

中間選挙の影響

トランプの影響低下と、デサントス知事の台頭

今回の選挙で、トランプが指示した過激派候補が多く敗れました。
一方で、激戦州であるフロリダでは現職州知事のデサントス氏が20%以上の大差をつけて大勝。デサントス氏は大統領選出馬への意欲を示しており、今回の勝利で2024年トランプ氏への対抗馬の筆頭としての地位を盤石なものにしたと言って間違いないでしょう。
トランプ氏はデサントス氏を貶めるような発言を繰り返しており、ライバルの台頭に焦燥感を隠せていません。
また保守大衆紙、New York Post誌はトランプ氏を「Trumpty Dumpty」と小ばかにするような記事を出すなど、トランプ一色だった保守層にも亀裂が入り始めています。トランプについていけないと思っていた保守層等もこれで勢いづく可能性があります。
トランプ氏は近日中に2024年の立候補を発表すると見られ、両氏の非難の応酬は今後激化すると見られます。

New York Post誌11月10日の紙面

バイデン大統領の展望

低支持率に喘ぐバイデン大統領、両院を共和党に抑えられると今後2年で何もできなくなってしまうため、今回の選挙結果で一息ついているかと思います。
一方で、選挙中も候補者がバイデン大統領の応援を拒む等、求心力の低さは目立ち、24年に出馬するのか後継に譲るのかが注目されます。
元々、バイデン氏は「自分は次の世代への架け橋だ」と1期で引退することを示唆しています。ですが、後継候補として副大統領に指名したハリス氏も存在感を示すことができておらず、共和党に比べて一つ抜けた候補が見当たりません。
今回の選挙では候補と目されるグレッチェン・ホイットマー氏が激戦州であるミシガン州で州知事の席を維持、州議会でも40年ぶりに過半数を取る等存在感を示す一方、同じく民主党のライジングスター、ジョージア州知事候補のステイシー・エイブラムス氏は前述のケンプ氏に惨敗しました。

ホイットマー氏(左)とエイブラムス氏(右)
Source: Twitter

インフレも鈍化してきている米国、バイデン政権が次の大統領選までにどれだけ国民の不安を解消し、支持率を回復できるか、それまでに後継足り得る候補者が現れるかによっては24年時点で81歳となるバイデン氏が再度立候補する可能性も十分あります。

今後の流れと注目すべきポイント

選挙が終了し、今後数週間で各方面で大きな動きが予想されます。以下に注目すべきポイントを4つピックアップしました

上院を決める3州(ネバダ、アリゾナ、ジョージア)の結果
ジョージアは12月6日の再選挙まで持ち越しです。民主党が優勢と報じられるネバダ・アリゾナで決め切れるのか、12月まで持ち越されるのか、注目です。

トランプ氏の出馬表明
14日前後ではないかと言われていますが、今回の選挙敗北を経てどのような動きを見せるのか、目を離せません。

1月6日事件の特別委員会によるトランプ氏の召喚状
下院の特別委員会は11月14日ごろに委員会で宣誓証言するよう召喚状を送付、従わない場合刑事告訴の可能性があります。改選後の下院は共和党が過半を取ると見られ同委員会は解散すると見られているため、最後の対決になる可能性が高いです。

落選した過激派共和党候補者の反応
前大統領選の結果を信じていない候補たちも現時点では選挙結果を受け入れているようで、彼らの大量当選や、落選者による選挙結果の否定のようあ最悪の事態は避けられています。ですが、当選確定がなかなか出ない選挙程、当落の票差が小さく、結果をめぐっての争いが発生しやすいのもまた事実です。

以上の4つのポイントに注目してニュースを追っていただけると、今後の流れが見えてくるかな、と思います。

次はいつになるかわかりませんが、気が向いたらまた書こうと思うので、何かリクエストあればお気軽にメッセージしてください~
(♡つけてもらえたり、シェアいただけるとモチベーション湧きます…)

田澤悠(たざわゆう)ー "Taz"
BnA株式会社代表取締役
神戸市出身。幼少期をバルセロナ、高校時代をイギリスで過ごした後、大学・大学院を米国ペンシルバニア大学に進学し電気工学を専攻、セルンの粒子加速器の研究等に携わる。2008年のオバマ選挙戦を近くで目の当たりにし、米国政治のダイナミックさ、面白さに目覚める。
卒業後、ボストンコンサルティンググループでコンサルタントとして、主にIT、製薬業界の戦略プロジェクトに携わる。
独立後は、ジャカルタで美容事業や、民泊事業を立ち上げ、同時に米国認知科学ベンチャー「Lumos Labs」の日本代表を務める。
2015年にアートホテル事業やアートプロジェクトを手掛けるBnA株式会社を創業。高円寺、秋葉原、京都、日本橋でブティックアートホテル「BnA Hotel」を運営。
その傍ら、コンサルティング事業を手掛け、グローバルで起業経験を持つチームと共に、大手上場企業の新規事業立ち上げや、事業デューデリジェンス、経営戦略策定などのプロジェクトを手掛ける。

趣味はロッククライミング歴18年、飲酒歴20年。

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