5枚の花びらで世界の境界線を考えた話
私の部屋からは桜並木がよく見えるので、晴れた日は意識的に外を見るようにしている。
人々はきっと、わざわざ赴いて花見をするが、私は毎日花見が出来る。ちいさな自慢だ。
今日は数日ぶりに晴れていて、いつもより花びらが舞っているのが分かった。
もっとよく見たくて、窓を大きく開いた。
4月の頭、肌着にカーディガンを羽織るだけではまだ少し肌寒かった。
不動産屋は、なんでこの景色のことを話してくれなかったんだろう。知らなかったとしたら勿体ない。
だらだら考えながら眺めていたら、花びらの舞う量が一気に増えた。
あ、強い風が吹いたんだ、と思ったら、桜吹雪が私のほうに向かってきた。
わーー!!と頭のなかで声をあげて、そっと床に視線を落とすと、3枚の花びらが入り込んだのが分かった。
足元にも落ちていて、数えたら全部で5枚あった。
こんなことは初めてだったので、これを書いている深夜になってもまだ花びらを捨てられずにいる。(もう干からびて跡形もない)
風呂をあがってからも、あの瞬間を思い返していた。
あまりにも綺麗だったし、びっくりしたなぁ…
ん?
「びっくり」?
なんでびっくりなんだろう。
桜並木があって、風が吹けば桜吹雪が起こる。ごく当たり前の現象だ。
私はそれにびっくりしたのだろうか。いや、違う。
外の景色を構成するものが部屋の内側に入り込んできて、一体化したことに驚いたんだ。
私はどうやら、今まで部屋の窓から見えるものを「画」としてしか認識していなかったらしい。
数日前。
花見を体感するため、旦那と二人でその桜並木の下を歩いた。
この地に越してきた頃はエロ本も落ちていて、冗談でも綺麗な景色とは言えなかった。
しかし季節が変わると印象も変わり、意外なことに気づいた。
ここから数分歩いた先には鴨の家族が住んでいて、奥の奥には電車が走っていて、桜並木は思ったよりも遠くまで続いていること。
途端に愛着が湧いて、いろんな人に自慢してまわりたくなった。
あの景色の一部が、今日、私の部屋と繋がったんだ。
私はどうしてか「窓の外」という線を引いて、世界の外側と内側とを区切っていた。
窓1枚、数センチ。
その僅かな厚みを私が勝手に「外側」と定義しただけであって、世界の境界線は存在しない。
今までの外側はもう内側で、そのなかに私がいる。
ちいさな桜の花びら5枚で、境界線がなくなった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?