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2019年11月の記事一覧

かたち

地平線に半分体を見せるようにして青い球体が球体ではないふうによそよそしく立ち現れてそれはまるで炙り出されているかのような申し訳なさをこめた日の光の粒であってどうにも心には届きそうもないと心許なく思っていたのだけど幸せは不意であってするりと大気から身を乗り出してぐるりと夜を回したし上も下もない空間にはころりとした寂しさが草露に寄り添っていてかわいいからギャルはどんなものをも寄せ付けない優しさでビルの

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先生

「よく笑い、よく泣いて、よく絶望しましょう」と先生はよく言った。
「犬は四足歩行ですね。人間は何足歩行ですか?」
「二足歩行です」
「ちがいますよ、人間は転がってるだけじゃないですか。口を動かす前に手を動かしてください」
私は戦争で両手を失っていた。先生は田中くんを立たせ、田中くんの頭を掴むと頭頂から音も立てず折りたたみ球体にして、「ごめんなさい」と言った。
「正午になるまで、田中くんを見ていてく

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電車で肩を枕にした

心は何かを求めるのではなく何かを経由したがっているのだとして私はその経由部分になりたいと、雲と空の輪郭を目でなぞりながら思った。電車で視点は変わらないまま視界は流れ、映画を見ているような気分になりつつ、これをわざわざカメラに収めて伝える意味、日常の些細なものを客観的なところに置く意味、機会こそが機会であった。循環しようとして循環してるわけではないのだけど、循環しようとして循環させたら命は緩やかに熱

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はえ

目を開けたら血で、黒くて赤くてそのどちらもを果てしなく遠ざけたようなの、とまばたきをした遺伝子をばらまきたいだけの哀れな存在がまるになろうと空を食べてしまいそうな鉄柱を見て肩を内側に入れた。
「誰なんですか、と悩むのは遺伝子で、やはり抜けられないのは穴。抜けられない穴に私が入りたいのではなく入れたいと外に排泄するのも遺伝子なのでは穴」
爪の先にはハエが止まり、指は消えていた。ハエがもうハエであるこ

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ヤンキー

ここは生命環境であった。生命を維持するための時空であった。
私が純白のタイルと汚物のグラデーションを織りなした地面を足を滑らさないように踏みしめて歩いているとき遠くの幾何学に光る箱の前に座り込んでいる人影が見えた。影は何か怒鳴り声をあげ、影のそばの小さな煙は軽く空にあがり、頭部から伸びた黒い影は地平線まで続いているのがわかる、私は歩いているとその長い影に頬をかすめた。掠め取られた頬からは血が流れ、

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