見出し画像

イタリアにはチキンのパスタがない!?


先日、いこまゆきこさんの疑問点について、イタリア料理研究をしている観点からコメントで少し説明をさせていただきました。


記事を読んで、そういえば、私は今まで鶏肉をわざわざパスタの具に使おうと思ったことも、チキンのパスタを教えたこともないことに、ふと気づきました。

そこで、イタリアでのパスタとソースの関係、パスタにおける鶏肉類の使われ方について、少しお話をしていきたいと思います。

古代ギリシャ人がイタリアにパスタを伝えてから2700年余りが過ぎ、
発展をとげて、今までイタリア各地で様々なパスタが作られるようになりました。その土地で採れる食材でソースを作り、そこで採れる小麦を使って、イタリア各地で個性豊かなパスタ料理(プリモピアット)が作られてきました。

アンナ ゴゼッティ デッラ サルダの「イタリア郷土料理集」
1900年代、イタリアを4周して1つづつ書き留めたレシピ集です。

画像1

この2000ページもある分厚いレシピ集に、各州のパスタ料理が載っていて、イタリア各地で出会った料理と照らし合わせ、時々参考にしています。

私は、今まで20回以上渡伊し、ほぼ毎年のように各地で郷土料理や家庭料理に出会ってきました。イタリア料理と一言で言っても、各地で違う料理を食べている、バリエーション豊かで奥が深く、私は毎回、宝探しのような気持ちでイタリアに足を運んでいます。

日本の皆さんがイタリア料理と思っている華やかな料理は、レストランの料理がほとんど。本当のイタリア料理は代々受け継がれてきたマンマの料理。「クチーナ・ポーヴェラ」と言われる庶民の料理。そこにある少ない食材で工夫を凝らして美味しく作るのがイタリア料理の神髄だと思います。

ここで本題に入ります。

「イタリアにはキチンのパスタがあるかないかと言えば、ない」


もしもイタリアで鶏肉などの肉類をパスタに使うとすれば、

1. 肉類を長時間煮込んだ後のソースや、スーゴ(食材を煮た際の旨味から出た煮汁)とパスタをからめる

もともと、パスタは粉と水をこねたもの。茹でただけでは団子になってしまうため、固まらせないために“油脂”を絡めたのが始まりです。

画像2

例えば、シチリアのオリーブ農園オーナーに教わった、「豚肉とトマトソースなどの煮込み」や、南部に多い「ブラチョーレ」という牛肉に詰め物をしてトマトソースと煮込んだ料理を作った時のソース。

画像5

中部ペスカーラのマンマは、鶏肉など4種類のお肉を煮込んで作るラグー・アブルッツェーゼ。そのソースは”キタッラ”というパスタにからめて。

いずれもソースは取り出して、ショートパスタ、生パスタ等とからめてプリモピアットに。煮込んだ肉類はセコンドピアット(メイン料理)として別々に食べています。

2.エミリアロマーニャ州の手打ちパスタでクリスマス料理、Tortellini in brodo「トルテッリーニ イン ブロード」のように、ブロードで鶏肉類を使い、詰め物パスタの詰めものにも肉類を使う

画像3

豚ミンチや生ハム、卵、パルミジャーノなどを詰めた小さな指輪型のパスタを作り、数種類の鶏肉、豚肉と香味野菜でとった極上ブロードで茹でてからプリモピアットとしてお皿に盛り付けます。ブロードに使った鶏肉類は、別のお皿に盛り付けて、緑のソースや名産のモスタルダをつけてセコンドピアットとして食します。

モデナの私の生パスタの師匠は、今や貴重な職人のひとり。長い綿棒を使って、向こうがうっすら透けるくらい薄く美しくのばします。パスタマシーンを使うのは邪道。綿棒でのばしたパスタはとびきり美味しいです。毎年通って直伝いただいたTortellini in brodoは、私の宝物レシピのひとつです。

3.北部ピエモンテの詰め物パスタ、Agnolotti del Plin 「アニョロッティ デル プリン」の詰め物に子牛や豚肉、鶏肉など使う

画像4

ランゲでシェフに教わった時には、詰め物用に肉類をペースト状にして作っていましたが、トリノのマンマに教わった時は、「煮込みやオーブン焼きの時に残った肉類、なんでも再利用して詰めるのよ、これはそういうパスタなのよ」と教わりました。仕上げにバターやローストの肉汁(スーゴ)をかけています。

4.中部ローマのカルボナーラ グアンチャーレやパンチェッタなどをカリッカリに炒めて、その脂をソースに使う

画像6

鶏肉ではありませんが、肉類と合わせるパスタとしておなじみカルボナーラ。細切りにしたパンチェッタをじっくり焼き、具として、またはトッピングに。ゴロゴロと大きな具ではなく、あくまでも小さな具です。

4.ラグーのように細かな肉類や、内臓を煮込んでソースに使う

画像7

エミリア・ロマーニャ州の「ラグー・ボロネーゼ」や、「鶏肉レバーのラグー」をタリアテッレなど幅広麺と和えて、パルミジャーノチーズをふりかけて食べています。

膨大なイタリアでの料理写真の中からしばらく探してみたのですが、やはりチキンのパスタは出てきませんでした。
逆に、煮込みのソースやスーゴを使ったパスタは沢山出てきました。多すぎるので、こちらでは一部をご紹介しています。

いずれも伝統的・一般的な説明になりますが、各地でパスタに出会った経験からも、鶏肉含め肉類のパスタの場合は、イタリアではこのように食べています。
イタリアは地産地消なので、各地で使う食材、料理法が伝統的には決まっているものの、局地的に猪肉詰めたり、ファンタジックな、家庭でのアレンジは色々あると思います。それこそ各地のマンマは食材を無駄なく使う天才なので♪

P.S
イタリアと違って、日本でのパスタは、お肉・魚介系と野菜など色々混ぜてるものが多い気がします。結構ボリュームがあり、一皿で満足するような。パスタに関して日本人的感覚を忘れていますが、どんなパスタが好まれるのでしょうね。
レストランでは、具を大きくして盛り付けたほうが見栄えが良いという違う観点もありそうです。
食べる人の事情によっても、また変わるものでもありますね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?