新曲「Three Leaves♣」人種差別とネットいじめで病室にいる14歳の少女が教えてくれたこと。三つ葉のクローバーが持つ希望。

4月に書いた新曲「Three Leaves♣」やっと録れたので貼っておきます。

(※歌詞はこの記事の、いちばん下にあります)


パンデミックを契機に新たな社会不安が広がり、誰かの尊厳を踏みにじるネットでの誹謗中傷は、さらに深刻さを増しています。

自分と異なるものに対する忌避・排除の感覚が、個人間はもちろん、国家レベルに至るまで、暗い影を落としています。

互いの顔を、こころを、リアルに思い浮かべられなくなって、麻痺していくのは、怖いことです。

僕はこの2ヶ月ほど、まだ会ったことのない、14歳の少女、Lを思い浮かべていました。

Lのお母さんからサイトに届くメールが、彼女を生きた存在として、僕に伝えてくれました。

そして生まれたのが、この曲「Three Leaves」です。

直接に言葉を交わしたわけではない彼女が、この曲の中に、はたして、息づいているかどうか。
自信はありませんが、この曲を書かせてくれたLに、感謝しています。

ギターと声だけのシンプルなデモ音源ですが、よかったら聴いてみて下さい。

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〈作曲までの経緯〉


4月7日の深夜、HP経由で来た仕事関係の連絡に紛れて、こんなメールが届いているのを見つけた。

【お問合せ内容】
 旅人さん、旅人さんの曲を聴いて号泣しました。
耐えて耐えていたものが、全て吹き出しました。
この大変な時に、きっと沢山の人が苦しんでいる。
今、娘は病院で沢山の管に繋がれ、沢山の感情を出せないまま、一人で闘っています。
会いたいけど会えない。
ママにしか辛さを話せないのに面会もできず、抱き締めることもできない。
私も気丈にしてきましたが、旅人さんの曲を聴いたら、ぶわぁっと感情が吹き出ました。
私は辛かったんだと、声をあげて泣きました。
ても、またいつか必ず娘と笑える日が来ると信じています。
静かに祈り生きていきます。
ありがとう、旅人さん。
お礼が言いたくてメッセージをしました。


娘さんがコロナに感染し、隔離されているということだろうか?

ふと気になり、下記のように返信すると、すぐに返事が来た。

こちらこそ、ありがとうございます。
自分の曲に大した力があると思いませんが、励みになります。
娘さんは、おいくつですか?
面会不可ということは、新型コロナに感染されたのでしょうか?
どのような状況でしょう。
心配です。

七尾旅人


旅人さん

今14歳の娘は小学生の時に頭の病気で一年闘病しました。
六年生の夏に治り、元気になった娘は翌年中学に入学しました。
そこで、いじめに合いました。

娘はアフリカのハーフです。私は、3.11後、A県の実家に子供二人と帰ってきました。
私は絵を描いていて、家にはキング牧師やネルソンマンデラなどの絵があって、
小さな頃から黒人の歴史を子供たちにお話して聞かせてきました。
そして自分に誇りをもつように、世界のみんなは兄弟姉妹なんだよ、と。

娘は自分よりも人のことをいつも考えているような子でした。
人のことに胸を痛めて、自分も悲しんでる子でした。
優しすぎて、繊細すぎるという人もいる。
でも、私はそれが悪いことだとは思ってきませんでした。

シリアで内戦が始まった小学生のときにはニュースを見る度に心を痛め、
難民の子供達に何かをしてあげれないかと、
沢山のブレスレットを作って、知り合いの伝で難民キャンプまで届けてもらいました。

そんな娘が中学という多感な時期に受けた傷は深すぎました。
人種差別的ないじめに対応できない先生たちは、転校を勧めました。
学校を見ると体が震え、涙が止まらない娘は、不登校になり転校を選びました。

そして、受験して転校をした学校で、
またいじめに合いました。
黒人差別用語を羅列してTwitterで拡散というネットいじめでした。

娘の心はボロボロになり、自分を否定するようになりました。
人を責めることをしない娘は自分を責め続けました。

そして、ご飯を全く食べれなくなった娘は痩せ細り1月はじめに大学病院に入院しました。

今まで心臓近くまでの静脈カテーテルと鼻から胃まで管で栄養をとって生き延びてきました。
心の苦しみが強くまだ口から食事をとることが難しいです。
今は寝たきりでうまく歩くこともできません。

心の苦しみは癒えず、生きるのが苦しい、こんな自分は消えてしまいたいと、人が怖い娘は主治医にも看護師にも心を開けず、一言も話せず、そんな自分を責め、唯一心を開ける私にも感染症対策の面会禁止で3月から会えなくなり、
毎日メールで
ただ、ママに会いたい
ただ、ぎゅーっと抱き締めて欲しいと
死ぬならばママの腕の中で死にたいと。

私も娘を抱き締めたい。
ただ、ぎゅーっと、抱き締めたい。

旅人さん、
旅人さんの音楽に救われています。

人にも話すようなことでもないのですが、
私たちの、こんなお話を最後まで読んで頂きありがとうございました。

私は今、娘の為に祈り、毎日心で抱き締め
どんなことでも受け止めて、
強く静かに生きていきたいと思います。

世の中の苦しみの中にある人たちに少しでも癒される時間がありますように。
また笑える日がきますように。

S


Sさん

僕も不登校児でした。
ただ馴染めなかっただけで、
こんなに優しく強い子ではなかったですが。
娘さんのお名前を聞いてもいいですか?
なにか短い歌を、作ってみたくて。

七尾旅人


このやりとり以来、『LIFE HOUSE』配信等、日々のことに追われながらも、
頭の片隅にはいつも、Lが居るようになった。

Sさんのメールからは少しずつ、親子2人の現実が透けて見えてきた。
シングルマザーであることや、Lが、ナイジェリアと日本のミックスであること。

こちらからは、Lの個性や、彼女が好むものなどを教えてもらい、
どんな歌を書けば、喜んでくれるだろうと考えた。

Lの好きなもの。
花や、和食や、ナイジェリアの辛いトマトシチュー。
ずっと長いストレートヘアーに憧れていたが、
Sさんがブレイズヘアを編んであげてからは、
そのアフロルーツの髪型に誇りを持っていること。

Lは去年亡くなったハムスターの三つ葉くんが大好きでした。

三つ葉くんという名前の由来は、
四ツ葉よりも、これから希望があるからそう名付けたと言ってました。

私とする夜中のドライブが大好きでした。
コンビニの駐車で星を見ながら音楽を聴いて沢山お話して二人で泣きました。

小さな頃からママ大好きと手紙をくれました。
ずっとママでいてくれてありがとう、と年末に手紙をくれました。

学校に行くときも、どこにいくときも、
I love you mama
と言ってくれました。

旅人さん、こうしてLのことを考えると、
今は抱き締めることも出来ないLをとても近くに感じ、Lの笑顔が見えます。

早くLを抱き締めたいです。


Sさんが自分で描いたという親子2人の絵を送ってくれた時、
自然とメロディと言葉がもつれあって、歌が完成した。

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僕一人ではけして作れない、不思議な交流がもたらした歌。
男の自分が歌うのは変かもしれないし、
Lが気に入ってくれるかは、わからない。

でも僕はこの曲を、いつかまたライブがやれるようになったら、ステージでも、大切に歌っていきたいなと思っている。

Three Leaves♣

 小麦色の肌は 友達と違う おひさまの色
 病室を抜けて ほんとは二人 散歩できたら

明日はきっと晴れて 丘へゆく I love you mama
三つ葉のクローバーが揺れている 幸せまで あと少しと

 雨は長く長く 二人をしだく つぶてとなって
 星を見た駐車場は 魚の消えた アクアリウムに

明日はきっと晴れるよ どこへゆく I love you Liz
会えない夜もずっと このこころは 壁を越えて すぐとなりに

 誰にも似せないで きみのままで
 嵐はメロディを強くして つぼみに変えるよ

明日はきっと晴れて 丘へゆく I love you mama
三つ葉のクローバーが揺れている 幸せまで あと少しと 
あの家まで もう少しと

 小麦色の肌は 友達と違う おひさまの色
 編み込まれた髪は 誰かを守る 花のヴェールさ

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noteでの記事は、単なる仕事の範疇を超えた出来事について、非力なりに精一杯書いています。サポートは、問題を深め、新たな創作につなげるため使用させて頂きます。深謝。