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久々のサワガニ

30℃にとどかない気温。
ほどよく風のある曇天。

チャンスとばかりにあちこちから草刈りする機械音や、草焼きの煙が上がる。

我が家も例に漏れず、この日は母と二人、一日がかりで大きな土手2ヶ所で草を焼いた。

数日前に刈って、すっかり乾燥した草。熊手で集めて火をつけ、それが燃えている間にまた草を集める。

そうやって何個目かの草山を作ろうと熊手を掻いていたとき。私の足元で、土色の生き物がカサカサと通過しようとしていた。

カエルかな?
大きさからそう思ったのだが、腰を屈めてよく見ると、左右に2つのハサミを持っている。

「サワガニだー! なつかしいー!」

途端に子供の頃の思い出がよみがえる。
家の近くにあった小川で、姉が大きな石をひっくり返すと、黒っぽい小さなカニがよくいたものだった。

「……お前さん、土の上でも歩けるんだねぇ」
サワガニとは水の中でしか生きられないのだと思っていた。

私が草を搔き集めて燃やしまわっているから、慌てて避難しているのだろう。サワガニはご近所さんの水田に向かって、黙々と歩いていた。

  *

「草焼きしてたらサワガニいたよ」
「本当!? 良かったー!」

その夜、母に報告すると、思っていた以上に歓喜の声があがった。

「もういなくなったんだと思ってた。側溝がコンクリになったりしたから、生きづらいんだべなー、悪いことしたなーって思ってたのよー」

言われてみれば。
昔と変わらぬ田舎の風景と思っていたが、よくよく記憶を探ってみれば、ちょっとずつ、自然界にはなさそうな人工物に置きかわっている。

対向車と譲り合うようにすれ違っていた細い砂利道は、大型車が平気で走れるアスファルトの道路に。それに伴い、側溝は四角いコンクリート製になっている。

そういえば子供の頃姉とサワガニを見つけたあの小川も、今は途中からコンクリート製の側溝になり、流れも変わった。

――先日のホタルも同じなのだろう。相変わらずの田舎なのに、どうしてこんなにホタルが減ってしまったのだろうと不思議に思っていたけども。

ホタルやサワガニの目線で見れば、ここも大きく変わってしまったのだろうな。



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